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「 桜野 野乃《さくらの のの》貴方は魔法少女に興味はないかしら?」
「、、え?魔法少女?魔法少女ってあの、星守院のところですか!?」
「そうよ。名乗り忘れていたね。私は星守院で保護官、勧誘役をしている綺宮 露花《きみや ろか》。」
「わ、私は野乃です!桜野 野乃」
「ええ、もちろん知っているわ。
貴方のことは――徹底的に調べさせてもらったもの。」
露花の静かな笑みが、なぜか背筋をひやりと撫でた。
「話を戻しましょう。今、世界は魔法少女が不足し、危機に陥っているの。
そこで私は “適性を持つ子” を探し、任命する役目を担っている。
――そしてその中で、私は貴方を選んだ。」
「えっとー、つまり私は魔法少女に選ばれたってことですか?」
「物分りが早くて助かるわ。突然で申し訳ないけど、貴方に拒否権はないの。」
「そんな、パパとママにもなんにも話してないし、学校だってあるのに、!」
「ご安心を。親御さんにも学校にも話は通してあるわ。
誇りに思いなさい、魔法少女になることは名誉よ。
さぁ、他の子たちが待っているわ。」
私はやられるがままに車に乗りこみ大きな施設に連れていかれた。
「何処、ここ」
「ここは星守院よ。貴方の仲間もここに居るわ。」
「魔法、少女の、、仲間、、」
「さぁ、行っておいで。貴方なら役に立つことを期待しているわ。」
1歩踏み出すと、建物のドアが自動で開いた先には、姿形が同じ人が5人程並んでいた。
「サクラ・モモ様。ようこそいらっしゃいました。これから貴方には正装に着替えていただきます。」
「、、正装?」
モモはきょとんと目を丸くした。
けれど半歩退いた足は、わずかに震えている。
5人はまったく同時に、滑らかに横へ動き道を開いた。
その奥の部屋には、柔らかい光に照らされた鏡台と、
淡いピンクのドレス――魔法少女の衣装――が台座に飾られている。
スカートの内側にはフリフリのレースが付いていて、襟の真ん中には大きなリボン。
全体的にフリフリしていて、いかにも魔法少女という感じだ。
そう、本当にーー舞台に上げられた宝物のように。
「この衣を身にまとうことで、貴方は正式に“サクラ・モモ”として認識されます。」
「なんか、思ってた魔法少女って、、厳粛?」
「魔法少女は国家規模の兵力ですから。」
返ってきた声は、笑いも含みもなくただ平坦だった。
モモはその言葉に少しだけ眉を寄せた。
「こちらへどうぞ。」
5人が示したのは、円形の更衣室。
中心に立つと、透明なパネルが自動で降りてきて
ぐるりと周囲を囲む。
「ちょ、閉まるの早っ!」
モモが驚いて振り返るが、すでに外は見えない。
ぼんやりピンク色の光だけが部屋を満たしていた。
天井から柔らかい女性の声――誰とも違う、人工的な音声が響く。
『サクラ・モモ。これより正装への着替えを開始します。
恐怖反応・拒否反応が検知された場合、軽度の沈静処置を行います。』
「なにそれ怖ッ、、!」
彼女の小さな声は、光に吸い込まれていった。
壁面から、衣装の各パーツが自動で差し出される。
手袋、ブーツ、胸元のリボン、腕飾り。
すべてピンク色なのに、なぜか“温度”を感じない。
モモはじっとそれらを見つめ、喉を鳴らした。
「ねぇ、、これ着たら、もう戻れないんだよね、?」
返事はない。
ただ、次々と差し出される“装備”が答えだった。
モモはゆっくりと、震える手で衣装を取った。
ふわっと広がったスカートの布には、淡い光の粒が散っている。
子供のころ夢見たかわいい魔法少女なのに、
今は――まるで違う意味を持って見えた。
「……でも、やるしかないんだよね。
みんなのために、って言われたし。」
自分に言い聞かせるように呟くと、
モモはそっと衣装に腕を通した。
その瞬間、衣装の縁が淡く光り、
身体にぴたりと吸い付くように馴染んだ。
『着装を確認。サクラ・モモ、適合率──99.7%。
優秀な個体です。』
「個体、、?個体って、、それより、私は野乃じゃなくてモモ、、?」
言葉の重さが胸に落ちた時、
外のパネルがスッと開いた。
5人の“同じ顔”が、まったく同じ角度で彼女を迎える。
「正装装着、確認。
ようこそ、サクラ・モモ様。
――星守院へ。」
その瞬間、モモは気づいた。
これは夢じゃない。
かわいい魔法少女なんかじゃない。
パネルが完全に開くと、
モモはぎこちなく正装の裾を押さえながら外へ出た。
五人の無表情の案内係が、
同時にくるりと背を向け、無音で先へ進む。
「つ、ついてけばいいのね!?
なんか動き揃いすぎて怖いんだけど……!」
モモが小走りでついていくと、
広い廊下の先に、大きな扉が一つ。
案内係が等間隔で立ち止まった瞬間──
「サクラ・モモ様。こちらで仲間がお待ちです。」
仲間。
その言葉に、モモの胸が少しだけあたたかくなる。
「仲間って……他の魔法少女?」
「ええ。
サクラ・モモ様と同学年の候補者が二名。」
ごくりと息を飲む。
ゆっくり扉が開いた。
部屋の中には、二人の少女がいた。
ひとりは、水色の衣装に身を包んだ、
クールで静かな雰囲気の子──
本名 氷見 澪《ひみ みお》
コードネーム アクア・ミオ
もうひとりは、大きな黒い弓を背負った細身の少女。
瞳が雷みたいに鋭く、落ち着きがあるのにどこか野生的。
本名 光条 ライナ《こうじょう らいな》
コードネーム スパーク・ライナ
二人は同時に振り返った。
ミオが一言目を口にする。
「あなたが……サクラ・モモ?」
「あ、うん! そ、そうだよ! 今日から仲間!? よろしくね!」
モモは必死に笑顔を作るが、
ミオの表情は読めない。
「……元気なのね。」
「えっ、い、いつまでも弱音吐いててもなんにもいいことないから!」
「ふーん、そう。」
その横でライナがふっと笑った。
「大丈夫だよ、ミオはこう見えて優しいから。
あんたは……モモ、だっけ? 似合ってるじゃん、その衣装。」
「え!? ほんと!? やった!!」
急に跳ねるモモを見て、ライナは頬をかく。
「……元気な子は嫌いじゃないけどさ、
こんなとこ連れてこられて、よくテンション保てるね。」
その言葉に、モモの笑顔がほんの少し固まる。
「……本当は、怖いよ。
急に“魔法少女になれ”って言われて、断れないし…… 正装って言われて着替えさせられて……
もう、戻れない場所なんだって思って……」
ミオの目が揺れた。
「私も同じよ。
適性があるって言われて、強制的に連れてこられた。」
ライナも短く頷く。
「言われるがまま、だよね。
でも──」
ライナは二人を見渡し、口角を上げた。
「せめて“仲間”だけは本物だといいな。」
モモはその言葉に大きく頷いた。
「うん! 仲間がいたら、なんとかなる気がする!!」
その瞬間。
部屋の照明が一斉に落ち、
天井のスピーカーから無機質な声が響いた。
『サクラ・モモ、アクア・ミオ、スパーク・ライナ、 第三候補者の装着完了を確認。
――三名、訓練室へ移動を開始します。』
三人は互いに顔を見合わせた。
ミオは静かに息を吸う。
ライナは背の弓を軽く持ち直す。
モモは小さく拳を握った。
「……よし、行こっか。
私たち、今日からチームなんだし!」
「ええ。」
「腹くくるしかないね。」
案内係に導かれ、無表情の影のような彼らとともに歩く三人。
建物の奥へ進むほど空気は冷たく、息が白くなっていく。
「ここ……地下?」
モモが小声で呟くと、案内係は無機質に答えた。
「訓練区画はセキュリティの都合上、地上から隔離されています。」
ライナは眉をしかめる。
「隔離って……そんなにヤバいもん扱ってんの?」
「――本物ですから。」
意味の分からない言葉だけが返ってきた。
⸻
◆ 保管室前
重厚なドアの前まで来ると、案内係の一人が端末を操作した。
「 これより、アビス保管室を通過します。
動揺されませんように。」
「アビス!? 訓練で見るの……?」
モモの声が裏返る。
「見るだけではありません。」
案内係の声はさらに冷たかった。
「相対していただきます。」
ドアが低い音を響かせて開いた。
⸻
◆ アビス保管区
中は暗く、広く、湿った空気が漂っていた。
壁一面に、分厚いガラスの檻が並ぶ。
その中に――動いている。
形が分からない。
影の塊。
ゆらゆら揺れる黒い液体。
ある瞬間は人のようで、次の瞬間は獣にも見える。
「……っ……」
ミオが息を詰めた。
ライナが小さく呟く。
「これ……本当に、敵……?」
案内係が説明を始める。
「アビスは特異生物。奈落の深層から湧く“敵性存在”です。
現在は沈静化処置を施し、活動レベルを抑えています。」
モモは震える声で言った。
「お、抑えて……これ……?」
ガラス越しにアビスがぬるりと動き、
歪んだ顔が浮かぶ。
モモの背がぞわっと粟立った。
案内係は淡々と続ける。
「魔法少女は、これらを“処理”しなければなりません。
では、訓練を開始します。」
三人は一瞬固まった。
「ま、まって!! まだ心の準備が――」
モモの言葉を遮るように、
部屋奥の金属シャッターが上がった。
その先に広がるのは、コンクリートの広大な訓練フィールド。
中央には――ひときわ大きなガラス檻があった。
中にいるアビスだけ、他のものより明らかに活発だった。
黒い煙のような体躯。
腕のような触手がゆっくり揺れている。
案内係が誇らしげに言った。
「こちらは訓練用個体“アビス・β07”。
新人三名での模擬戦闘対象です。」
ミオは息を呑む。
「これ……模擬とは思えない……」
「安心してください。最低限、生存に問題ない範囲には抑制しています。」
ライナが顔をしかめた。
「最低限……の“生存”って言い方が一番怖いんだけど。」
⸻
◆ 訓練開始
端末の操作音が響く。
次の瞬間、中央の檻のロックが赤く光った。
解除音。
「え……ちょっ……待って待って待って!?
今開けた!? 生きてるやつの檻開けたよね!?!?」
モモが叫ぶ。
ミオは魔力操作用の杖を握りしめ、唇を噛んだ。
ライナは弓を構え、矢を生成する。
ガラスが割れ、黒い霧が怒涛のように溢れ出した。
アビスβ07が咆哮し、床に黒い影が滲む。
案内係の声が冷たく響く。
「――新人三名、戦闘訓練開始。」
モモは震える手で短刀を生成した。
「うそ……ここで戦えっての……?」
ライナが低く叫ぶ。
「ほらモモ! 構えろ! 来るよ!!」
ミオが前に飛び出す。
「三人でいけば……倒せる!
絶対に、死なないで!!」
黒い影が飛びかかる。
三人は同時に叫んだ。
「……くるッ!!」
初めての戦闘が、地獄のように始まった。
今考えれば、地獄のようにではなくこれが
ーー地獄の始まりだったのかもしれない