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黒い影が床を滑り、三人の足元へ迫る。アビスβ07の咆哮が、訓練室ごと震わせた。
「ミオ!! 来る!!」
ライナが雷矢を射る。
黄金の軌跡がアビスの腕を撃ち抜き、黒い霧が散った。
しかしその瞬間、アビスがぶれるように姿を揺らし——
次の刹那、ミオの目の前に現れた。
「っ……!!」
ミオが氷刃で受け止める。
冷気が爆ぜ、霜が床に広がる。
「近い……! くそっ、反応が速い!」
「ミオ離れて!!」
ノノ——モモが叫び、双短刀を握りしめて飛び込む。
桜色の軌跡がアビスを切り裂き、黒い霧が弾けた。
だがアビスは痛みを感じない。
動きが止まらないまま、三人の背後へ回り込む。
「速っ……!? 化け物すぎる!!」
ライナの声が裏返る。
その隙を狙うように、アビスの腕が影となって伸びる。
ミオの胸元へ。
「ミオ!!」
モモが跳ねた。
咄嗟に身体をねじり、影の腕を短刀で払う。
キィンッ!!
火花のように桜色の破片が散った。
「はぁ……っ、危な……」
ミオが震える吐息を漏らした。
アビスは霧のように形を崩し、彼女たちを見下ろすように再構築していく。
まるで——
“観察している”ように。
案内係の声が上から淡々と響いた。
「——新人三名、戦闘継続。
逃走行動は規定違反です。」
「こいつ逃がす気ゼロじゃん……」
ライナが顔を歪める。
「逃げないよ。逃げないけど……」
モモが短刀を両手で握る。
「三人なら……倒せるでしょ?」
ミオが小さく笑う。
「当然。やるわよ。」
「任せて!!」
三人の魔力が同時に火花を散らした。
ミオが氷刃で足元を固め、
ライナが雷矢で頭上を牽制し、
モモが地を蹴ってアビスの懐へ飛び込む。
桜色の残光が弧を描く。
「——ッらぁああ!!」
双短刀がアビスの中心を貫いた瞬間、
黒い霧が爆ぜ、大きな咆哮が訓練室を揺らした。
影が崩れ落ちる。
「……倒した……?」
ライナの声が、震えてるのにどこか嬉しそうだった。
ミオが深く息を吐き、床に膝をつく。
「終わった……の……?」
しかし。
——その時、天井に設置された監視窓の奥で
赤い光がひとつだけ、ゆっくり点灯した。
「訓練評価——“適正”。
新人三名、次段階試験へ。」
案内係の声が、無機質に響く。
「ちょ、ちょっと待って!?
今のが“訓練”の……最初!?」
ライナの声が裏返る。
ミオの瞳が揺れた。
「……ねぇ、モモ……今の、見た?」
「……うん。」
アビスの残骸。
訓練室の壁に残った黒い痕。
そして、監視窓の向こうに控える“複数の影”。
最初の訓練は終わった。
「今日の訓練はこれにて終了する。訓練は一日に一回、三日間続く。」
「こんなのが、あと二回も、!?」
モモは疲れながらも目を見開いて恐怖と驚きの声を出す。
「――以上で、最後の新人適性訓練を終了する。」
広い訓練場に、局員の声が響いた。
魔力の痕跡がまだ空気に残っている。
全身が疲れているのに、胸だけはずっと落ち着かなかった。
今日は“何かが決まる日”らしい、という噂を聞いていたから。
モモが隣で、ペットボトルのお茶を抱えたまま言った。
「ねえねえ!名前、つくんだって!グループ名!」
「グループ名?」
「そう!私たち魔法少女チームに、生きてる証みたいなやつ!」
その時、白衣の局員が歩いてきた。
「――今回のテスト結果と、魔力適性を総合して決定した。」
厳しい顔のわりに、少しだけ口元がほころんだ。
「本日より、お前たち三名は
**魔法少女チーム《ルピナス》として活動する。」
「ルピナス……!」
モモがぱぁっと顔を輝かせた。
「花言葉は“信頼”“あなたは私の心を癒す”……いい名前じゃん!」
「かわいい……!」
ルピナス。
その響きが、胸の奥をじんわり温めた。
「チーム名が決まったから、これで正式に雑誌の撮影も入る。
学校も部活も生活も続けていい。ただし――」
白衣の局員が声を低くする。
「アビス出現時には、即時召集だ。」
これは日常と戦いが混ざった生活が始まる、ということだった。
モモはさほど動じない。
「じゃあ、私バドミントン部、ほんとに続けていいんだね!
今度一年生大会あるし……よかったぁ……!」
白衣の局員が思い出したかのように言う。
「そうだ。三人は同じ中学校だから日常でも会話をし、魔法少女のチームプレイを鍛えろ。」
「え!?モモって同じ中学だったの!?」
ライナが驚く。
「私も、2人が同じ中学校だったなんて、一回も見たこと無かったから、、ライナとミオは仲がいいよね?友達なの? 」
「私たちは幼なじみだからね!」
「まぁ、一応」
ミオが照れくさそうに頬を掻く。
◆翌朝
まだ魔法少女としての現実に慣れきれない三人は、それぞれ違う形で“いつも通り”を装おうとしていた。
靴箱の前でモモは上履きを取り出していた。
手が震えるのは、三日間のの戦闘のせいか、今日の学校のせいか、どっちだろう。
(二人に、普通に会えるかな、、?
てか、あんなにボロボロだったのに学校来るのやば、、)
そんな時、
ミオとライナが静かに廊下を歩いてくるのが目に入った。
ミオは背筋が伸び、表情は変わらず淡々としていて、 昨日の混乱が嘘みたいに静かだ。
ライナはミオの後ろから歩いてきて、
少しそわそわした表情。
「……っ、ひっ……!」
焦って上履きを落とすモモ。
その音に気づいたミオがこちらを見る。
「……モモ。おはよう」
声は小さく、抑揚も少ない。
でも、昨日よりずっと柔らかい色だった。
「お、おはよモモ! ……あはは、朝から手元おぼつかないね……」
「う、うるさい……っ!びっくりしただけだし……!」
三人が顔を合わせたけど、
そこには奇妙な距離感が漂っていた。
「ののーー!オッハヨーー!!!」
勢いよくモモに抱きついたのはモモと同じクラスの心菜だ。
「あ、心菜ちゃん!おはよう!!」
心菜が来てくれたお陰で少しぎこちなかった空気も、少し和らいだ。
「モモ!モモの本名知らなかったね!教えてー!」
「私は桜野 野乃!」
「いい名前!」
ミオが口を開く。
「私とライナはコードネーム下の名前は本名と同じだけど、野乃は違うのね。」
「たしかに!なんでだろー、」
こうして謎が残ったまま、魔法少女としての日常生活が始まろうとしている。