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「なぁ、よかったら少しより道をして行かないか?」
ふいの彼の提案に、「より道ですか?」と、首を傾けた。
「ああ、港の方にでも行かないか? 今日はすぐには帰りたくない気分なんだ」
「港ですか、いいですね」
私もまだ今日の高揚感が消え残っていて、少し気持ちを落ち着かせるためにも、すぐには帰りたくないようにも感じていた。
「ああ、ちょっと海風にあたるのもいいだろう?」
「はい!」と、笑顔で頷いて、埠頭が見渡せる場所をナビで探すと、ハンドルを切り車を回した。
埠頭に着き車から降りると、ヘッドライトを点けたままにして、波間に停泊するコンテナ船や、積荷を上げ下ろす大型のクレーンを眺めた。
夜の暗い海を車のライトだけが照らす中、防波堤に打ち返す心地のいい波の音が耳に響く。
「静かですね」
夜遅い港には人の姿は他になくて、私と彼の二人きりだった。
「ああ、本当だな」
着ていたスーツを脱いで、私の肩に着せかけて、「寒くはないかい?」と、彼が口にする。
「はい、寒くは……。あなたがそばにいてくれるから」
「君はかわいいな、本当に」腰に腕が回されて、「もっと、そばにおいで」頬にチュッと口づけられた。