私はごくごく普通の家庭に生まれた。特別何かができる訳でも無く、平均かそれよりちょっと上の生活をしていた。それは中学2年生の秋に全て崩壊した。
まだジメジメしている秋のある日。母がおもむろに
「弟欲しくない?」
そう言われた。思春期である私は親の一言一言に苛立ちを感じていた。特にいつもゆっくりと話したりする母に強く当たっていた。
「普通それ聞く?」
「一応未来の意見も聞きたくてね」
「そーゆの親が買ってきに決めて」そう言い残し私は自室に行った。
その翌日、母と父は朝から掃除をして家の隅々まで綺麗にしていた。お互い待ちきれない!って様子で。
午後1時を過ぎた頃に母は鼻歌歌いながら父は顔にはっきりと喜びが出たまま外出した。それから1、2時間後帰ってきた両親を見て驚いた。
私と同い年、もしくは1つ下の男の子を連れて帰ってきた。困惑している私を見て
「今日から弟になる蕾くん!」
「はっ?」思わずそう口から出た
「あれ、母さん昨日聞いてなかったのか?」
「一応聞いたけど、未来が勝手に決めてって言うからてっきり了承したのかって思って」
頭が追いついて行けない。“弟欲しくない?”は妊娠しているって考えるの普通。
そんな私の様子を見た男はオドオドしだした。
それが母と似ていて嫌悪感を抱いた。 顔も何もかも似てないのに仕草が母と瓜二つ。軽く母に似てる感じのメイクをしたら2人の方が親子に見えるほど似ていた。
「なんでそんな急に?」
「この前偶然見かけて、仕草が母さんと似てたからさぁ。ほら!お前も思うでしょ?」
そんなのとっくに気づいてる!そう言いかける口を塞いで私は家を出て言った。玄関に居る3人を押し退けるようにして。後ろから
「どこ行くの?」「何時に帰ってくるの?」
そう母の声が聞こえたが今は養子のことで頭がいっぱいで返答すら出来なかった。そのままの勢いで公園に着いた。昼間だからか子供が多い
「あれ〜?未来じゃーーん!!」
「小織….」
「えっなーに、元気ないじゃん」
「お前はいつも元気すぎなんだよ」
「それしか取り柄ないんで笑」
鈴木 小織。小学生の頃からの友達。元気で明るい性格。本人は性格以外取り柄無いって言うが運動もできて、勉強もできる。まさに文武両道のコミュ力お化け。それと対照的に私は特定の人としか喋れず、運動も勉強も平均ぐらいの凡人。何度か小織と比べては嫌気がさしていたがもうどうでも良くなってきた。
「悩みあんなら聞くぜ〜〜~」
「ほんと?」
「うん!無料カウンセリング」
「実話さ―――」
私は養子のこととそれを受け入れられないことを小織に打ち明けた。その間否定も肯定もせずただただ聞いてくれた。
「第三者の私が言うのもあれだけど…」
「言葉包まなくていいよ」
「じゃそーするけど、それもう受け入れるしか未来には選択肢が無いと思う」
「やっぱ」
「うん、1度受け入れたのにもう1回養子に出すって未来のかーさんが許さないと思うし」
そこから数分小織と話した
「お礼なんだけどさ、今日家来ない?」
「えっ?行く!!」
すぐに決めた小織を連れて家に帰る。
2人とも道中特に喋らなかった。話題がなかったのもあるが別に無言でも気まずくなかった。私より先に入り、玄関の前で待ってる小織を見て図々しいな〜と思ったがまっ数年も一緒に入ればこーもなるか。そう1人で納得していた。
鍵を指し家に入るが物音1つしない。
「おじゃましまーす」そう言い小織の声が家に響く。普段なら母がはいはい、とリビングから出てくるのに出てこない。
「買い物じゃね?」
「そうかも」
小織に言われ、確かにあいつの服買いに行ってるのか?と思いながら靴をまだ脱げていない小織を置いて先にリビングに行く。
「ヒュッ」叫ぶとも息ともいない声が喉から出る。リビングには切り刻まれた両親が居た。
「なにどーした?」そう言う小織の方を見たら
小織の後ろに養子のあいつが銃を構えて居た。
私が逃げて!そう叫ぶ声に被らせ銃声が耳を穿く 。リビングに両親の死体。目の前に親友の死体。状況を理解出来ているのに脳がそれを拒絶してる。
「お前がやった?」絞り出すように聞くと
「あーそ、絶望の顔好きでさぁ俺。あいつら全然良くなかったから、お前はまだましな顔して死んでくれ」その喋り方や立方。全部家出る前に見た時と違った。そう言われ銃を突きつけられた。 あっもう死ぬのか、そう思った瞬間玄関から複数の警官が入ってきてあいつを取り押さえた。 腰が抜けた私に1人の警官が近ずいて 安否確認してくる。
「私のことはいい!!あっちに…あっちに…」
そう言いながらリビングを指さす。警官がリビングを見ると片手で口元に手を当て、もう片手で私の目を塞ぐ。
その後に記憶はあまり覚えてない。
記憶がはっきりしてきたのは事件から2週間が経った頃。体に異常は無いが両親と友達の死体を見た私の精神がおかしくなってるかもってことで2週間精神病院に居た。
その頃からだろう。母の口調を真似するようになったのは。私があそこで家を出ていなければ両親は死ななかったかも。そう考えてるうちに
真似しだした。担当の先生に言うと
「それは、君が“母に会いたい”そう強く考えてるから脳が今まで君が見てきた母を演じてると先生は思うな」
それに続いて
「これは君の癖や口調を無理やり変えてるから徐々に治していこうね」
そう言われ色々治療を先生が心見たが、悪化してきてるのがわかった。最初は口調。その次は癖。その次は歩き方、好きな料理、好きな音楽
、人の呼び方。全部が変わった。その頃になると先生は治療を諦めたのか方針を変えた
「じゃ、それを受け入れてみよう」
受け入れてみた。完全に母と似てきた。顔じゃない。仕草、口調。鏡を見ると自分が母に見えた。そこで先生は諦めたのか
「ごめんね、俺には治せない」そう言われてから数日後私が病院を出るのと同じタイミングであの時の警官が来てくれた。
「話しておきたいことがあるんです」
そう言われ隣町の大きな総合病院に着いた。
警官に着いていくと、沢山の点滴を刺されてる小織がベットに横たわって居た。
「植物状態なんだ」
「生きてるんですよね?」
「そうだが…目覚める可能性は低い」
私はその低い確率に賭けた。小織なら絶対目覚めるって。だから小織を近くで見れるように看護師になろうと決意した。
そこからは勉強と仕事を両立して頑張った。
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