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――ルクシア・ノクティス
王都中央闘技場は、まだ興奮の熱を残していた。
試合がすべて終わった今も、観客席ではざわめきが止まらない。
歓声、驚愕、恐怖、称賛――そのすべてが入り混じり、空気を震わせていた。
「……信じられない」
「一般の部、優勝……?」
「しかも、あの年で……」
視線の先にいるのは、一人の少女。
――ルクシア・ノクティス。
小さな身体。
白磁のような肌。
それでも、誰もが目を逸らせなかった。
最後の決勝戦。
圧倒的な魔力操作。
光の精緻さ、そして――
(……闇)
あの瞬間、確かに見た。
光の裏に、深く静かな闇があったことを。
「勝者――」
高らかな声が、闘技場に響き渡る。
「一般の部・優勝!
ルクシア・ノクティス!」
一瞬の静寂。
そして次の瞬間、爆発するような拍手と歓声。
立ち上がる観客。
口々に叫ばれる名前。
「ルクシア!」
「ノクティス公爵家!」
「すごいぞ!」
私は、その中心でただ立っていた。
(……終わった)
胸の奥で、光と闇がゆっくりと落ち着いていく。
王族席から、王が立ち上がる。
「ルクシア・ノクティス」
威厳ある声。
けれど、そこにあるのは恐れではなく、確かな評価。
「王国の定めにより、
一般の部優勝者には――」
一拍置かれる。
「来年度四月より、年齢を問わず王立魔法学院への入学資格を与える」
歓声が、再び闘技場を揺らした。
私は、ゆっくりと頭を下げる。
「……はい」
短い返事。
でも、その一言にすべてが詰まっていた。
――みんなのところへ、行ける。
観客席の端で、ユリウスお兄様が拳を握りしめていた。
レオンハルトは、思わず笑ってしまったように肩を落とす。
「……本当に、やりきったな」
エリオスたちも、ほっとした表情を浮かべている。
だが――
その一方で。
王立魔法学院、関係者専用席。
「……問題だな」
低く呟いたのは、白髪の老魔術師だった。
「確かに才能は規格外だ」
「だが、あの魔力――」
別の教官が、静かに言葉を継ぐ。
「光属性……それだけではない」
「闇を“拒絶していない”」
空気が、ひやりと冷える。
「闇魔法は禁忌ではない」
「だが、制御できるかどうかは別だ」
「まして、あの年齢で……」
評価は、割れていた。
「未来の希望だ」
「いや、王国の爆弾になりかねん」
「制御できる者が付くべきだ」
「学院に迎え入れるのは危険だ」
賛否。
称賛と警戒。
――それでも、決定は覆らない。
「王命だ」
「入学は確定している」
その言葉に、全員が黙る。
さらに別の場所。
闘技場の影。
人目につかない回廊。
「……見たか」
フードを深く被った男が、低く笑った。
「あれが、光と闇を同時に抱く存在か」
「まだ幼い」
「だが、あの闇は“本物”だ」
もう一人が、静かに告げる。
「近づくな」
「今は、時期ではない」
「だが――」
男は、愉しそうに息を吐いた。
「いずれ、選ばねばなるまい」
「光に立つか、闇に堕ちるか」
その視線の先には、表彰台に立つ少女。
何も知らず、ただまっすぐ前を見ている――
ルクシア・ノクティスの姿があった。
***
控え室に戻った私は、ようやく大きく息を吐いた。
「……終わったぁ……」
「お疲れさま」
ユリウスお兄様が、すぐに抱き上げる。
「よく頑張った」
「無茶しすぎ」
「でも、誇らしい」
レオンハルトも、少し照れたように言った。
「これで、正式に同じ学院だね」
私は、ゆっくり頷く。
「……うん」
そのとき、リヒトが静かに口を開いた。
「覚悟はいいか」
全員が、そちらを見る。
「入学は“始まり”に過ぎない」
「お前の力は、必ず注目を集める」
「光だけではないことも、な」
私は、一瞬だけ迷ってから、答えた。
「……知ってます」
それでも。
怖くはなかった。
守ってくれる人がいる。
信じてくれる人がいる。
そして――
私は、逃げないと決めた。
光も。
闇も。
ルクシア・ノクティスとして、生きるために。
王国は今、まだ気づいていない。
この日刻まれた名前が、
やがて時代を揺るがす存在になることを。
――すべては、ここから始まる。