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――学院入学前
魔術大会が終わってから、数日。
王都はまだ、あの日の熱を引きずっていた。
「一般の部優勝者、史上最年少」
「ノクティス公爵家の令嬢だって」
「光属性……いや、あれは……」
街を歩けば、必ず耳に入る噂話。
ひそひそ声は、私が通り過ぎるたびに止まる。
(……見られてる)
以前よりも、はっきりと。
でも――
「ルクシア、フード深く」
ユリウスお兄様が、そっと私の頭にマントをかける。
「目立つなって方が無理だろ」
「だからこそ、だ」
レオンハルトは、私の反対側に立ち、自然に人の流れを遮った。
過保護、相変わらず。
(……うん、知ってた)
***
ノクティス公爵邸。
庭では、いつも通りの風が吹いている。
花が揺れ、鳥が鳴き、平和そのものだった。
――表向きは。
「学院からの正式書簡が届いています」
執事の声に、空気が少し引き締まる。
父が封を切り、目を通す。
「……やはり、来たか」
母が静かに尋ねる。
「配置、ですね」
「ああ」
書簡には、丁寧な言葉でこう書かれていた。
――特例入学に伴い、
ルクシア・ノクティスの生活環境・指導体制について
事前協議を求める。
「要するに、監視だ」
エリオスが、率直に言った。
「言い方」
「事実だろ」
レオンハルトは、少し不機嫌そうに腕を組む。
「学院側は、ルクシアを“管理したい”」
「当然だ」
父は冷静だった。
「だが、こちらも譲る気はない」
視線が、私に向く。
「ルクシア」
「はい」
「入学前に、いくつか約束をしてもらう」
(……増えるな、これ)
「学院内では、単独行動は極力避ける」
「魔力の全開放は禁止」
「異変を感じたら、即申告」
「……はい」
ユリウスが、少し苦笑する。
「過保護ルール、学外進出だな」
「誇れ」
「誇るとこじゃない」
***
その日の夕方。
私は、屋敷の中庭で一人――
ではなかった。
「一人でいると思った?」
リヒトの声が、背後からする。
「……思ってないです」
「だろうな」
彼は、いつも通り少し距離を取って立っていた。
「学院に入れば、世界が変わる」
「知ってます」
「敵も、味方も増える」
「……それも」
リヒトは、私をじっと見つめる。
「闇を恐れるな」
「だが、軽く扱うな」
その言葉は、忠告だった。
「お前は、選ばれる側じゃない」
「“選ぶ側”だ」
胸の奥で、何かが静かに鳴る。
「……私」
「まだ答えを出す必要はない」
リヒトは、少しだけ微笑んだ。
「学院は、猶予だ」
「その間に、自分が何者か決めろ」
***
夜。
自室の窓から、王都の灯りを見下ろす。
(もうすぐ……学院)
みんなと同じ場所。
けれど、同じ立場ではない。
光を持つ者。
闇を知る者。
その両方を抱えたまま、私は進む。
知らない視線が、どこかで私を見ている気がした。
それでも。
私は、布団を引き寄せ、目を閉じる。
――今はまだ、守られていていい。
嵐が来る前の、静かな夜。
学院入学の日は、確実に近づいていた。
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