テラーノベル
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休日、チー牛君の部屋にて 日曜日の午後。外は雲ひとつない晴天で、近所の公園からは子供たちのはしゃぐ声が遠くに聞こえてくる。
けれど、その賑やかさとは対照的に、チー牛君の部屋は薄暗く静かだった。遮光カーテンが半分閉じられ、窓から差し込む光も柔らかい。机の上には整然と並べられた参考書と、アニメのブルーレイボックス。部屋の片隅には小さな本棚があり、その中にはライトノベルやアニメ雑誌がぎっしり詰め込まれている。
そんな「陰キャ高校生の隠れ家」に、今日だけは異彩を放つ存在がいた。
ボクっ娘「わぁ〜!やっぱりチー牛君の部屋って落ち着くね。こう、静かで秘密基地みたいで」
ベッドに腰かけて、嬉しそうに辺りを見回す彼女。元気でボーイッシュな口調と、くるくる動く表情が、この空間の空気を一気に明るくしてしまう。
対するチー牛君は、部屋の主であるにも関わらず、どこか落ち着かない様子で座椅子に座っていた。
チー牛君「……別に落ち着くような部屋じゃないと思うけど」
ボクっ娘「そんなことないよ!ほら、机の上とかすっごくきれいだし。あ、これ、例のアニメのブルーレイじゃん!」
彼女は目ざとく机の上のパッケージを見つけ、手に取る。キャラクターたちが鮮やかに描かれたジャケットをじっと眺めて、にっこり笑った。
ボクっ娘「今日一緒に観るの、これだよね?」
チー牛君「……まあ、そうだけど」
ボクっ娘「やった!チー牛君が大好きなやつだよね。ボク、ずっと楽しみにしてたんだ」
無邪気な笑みを向けられて、チー牛君は思わず目を逸らす。自分の趣味を誰かと共有することなんて、これまでなかった。友達にさえ話したことがない。だけど彼女は違う。からかい半分に見せかけながらも、本当に楽しみにしてくれているのが伝わってくる。
再生ボタンを押す
二人並んで座り、パソコンの画面にブルーレイをセットする。
オープニングテーマが流れ、鮮やかな映像が目の前に広がる。
ボクっ娘「おお〜、始まった始まった!」
チー牛君「そんなに大げさに……」
ボクっ娘「だってさ、チー牛君が“神アニメ”って言ってたやつなんでしょ?そりゃ期待するよ」
チー牛君「……そんな大げさな言い方してない」
ボクっ娘「ふふっ、でも顔はすごく真剣。ほら、目がきらきらしてるよ」
横で茶化されても、画面から目を離せない。彼にとっては何度も観返した大切な作品。キャラクターたちが動き、声が響くだけで胸が熱くなる。
一方のボクっ娘は、初めて触れる物語に目を輝かせながら、時々チー牛君の反応を横目で盗み見ていた。
ボクっ娘(心の中)「ほんと、楽しそうだなぁ……。こんな顔するんだ、チー牛君」
第一話が終わって
エンディングが流れ、画面が暗転する。
チー牛君はまだ余韻に浸るように画面を見つめていたが、横から元気な声が飛んできた。
ボクっ娘「ねえねえ、この子可愛い!チー牛君、この子推しでしょ?」
チー牛君「……ち、違うけど」
ボクっ娘「ふーん、顔が赤いから図星だね〜」
チー牛君「……お前な……」
恥ずかしそうに口ごもる彼。そんな姿がたまらなく可愛くて、彼女はさらに笑顔を深める。
ボクっ娘「でもわかるよ、このキャラ。ちょっと不器用で頑張り屋で……チー牛君、そういう子に惹かれるんだ」
チー牛君「……いちいち分析するなよ」
ボクっ娘「えへへ、彼女だもん♪」
彼女の言葉に、チー牛君は完全に言葉を失った。
二話目以降
次のエピソードが始まると、二人は自然と距離を縮めていた。ボクっ娘はベッドに座り、気づけば彼の肩に軽く寄りかかっている。
チー牛君「……近い」
ボクっ娘「いいじゃん。画面見やすいし」
チー牛君「……お前、絶対わざとだろ」
ボクっ娘「バレた?」
彼女は小さく笑い、また画面に視線を戻す。その笑顔が視界の端に映るだけで、チー牛君は心臓が落ち着かなくなった。
物語が盛り上がるシーンでは、彼女が声を上げる。
ボクっ娘「うわっ、ここ熱い!すごいすごい!」
チー牛君「……わかるだろ。だから神アニメなんだ」
ボクっ娘「うん!めっちゃわかる!チー牛君が熱く語ってた理由、今なら理解できるよ」
その言葉に、チー牛君は思わず頬を赤らめた。自分が好きなものを、こんなふうに一緒に楽しんでくれる人がいる。それが嬉しくて仕方なかった。
小休止
三話を見終えた頃、二人は少し休憩することにした。
机の上には、さっきコンビニで買ってきたスナック菓子とジュース。
ボクっ娘「あー、やっぱアニメって一気に観るとお腹空くね!」
チー牛君「それはお前だけだろ」
ボクっ娘「えー、チー牛君も食べなよ。ほら、あーん」
チー牛君「……っ、人に食わせるな!」
ボクっ娘「いいでしょ、恋人なんだから♪」
半ば強引にポテチを口に入れられ、彼はむせそうになりながらも、なぜか嫌ではなかった。
彼女が笑い転げるその声が、部屋の空気をさらに温めていく。
再びアニメへ
再生ボタンを押せば、再び物語の世界が広がる。
二人は寄り添うように座りながら、時に笑い、時に驚き、時に感動を共有した。
ボクっ娘「チー牛君、このシーンで泣いたでしょ?」
チー牛君「……泣いてない」
ボクっ娘「ふーん?目がちょっと赤いけど?」
チー牛君「うるさい……」
ボクっ娘「そういう素直じゃないとこも好きだよ」
照れる彼の横で、彼女は真っ直ぐに笑う。その笑顔を見ているだけで、どんな言葉も出てこなくなる。
幸せなエンディング
数話を観終え、外はすっかり夕暮れに染まっていた。
部屋の中は相変わらず薄暗く、けれど二人の間には温かな余韻が漂っていた。
ボクっ娘「ふぅ……楽しかった!やっぱり一緒に観ると全然違うね」
チー牛君「……そうだな。正直、一人で観るよりずっと」
ボクっ娘「ずっと?」
チー牛君「……楽しかった」
小さく呟くと、彼女は目を丸くし、それから満面の笑みを浮かべた。
ボクっ娘「えへへ、嬉しい。ボクもだよ。チー牛君と一緒だから楽しいんだ」
その言葉に、チー牛君の胸は熱くなる。
アニメの感動も、彼女の笑顔も、部屋に流れる静けさも――全部が彼にとってかけがえのない宝物だった。
休日の午後。小さな部屋の中で、二人は確かに幸せを分かち合っていた。
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