「…なぁ、理沙?」
急に呼びかけられて、「なに、銀河?」と、聞き返す。
「…キス、させて…」
唐突な銀河の言葉に、肩がビクンと跳ねる。
「な、何よ…突然に…」
動揺が隠せない。熱く高まる胸を抑えるように、わざとらしく平静を装う。
「だっておまえが、さっきあんなかわいい顔なんて、俺に見せたからさ」
銀河が、先ほどの私の泣きそうな顔を蒸し返して、
「……だから、そそられたんだよ」
耳元へ唇を寄せ、そう低く囁きかける。
「そそられ……って、やめてよ…。ここ街中だし、そんなことできるわけないから……」
大通りの往来は多く、話す間にも何人もの人とすれ違っていた。
「ダメ…なのかよ?」
尚も言いつのる銀河に、
「ダメ…恥ずかしいし…」
ややうつむいて答える。
否定はしても、耳まで真っ赤になっているのが、自分でもわかっていた。
「なんだ、つまんねえ……おあずけかよ」
そう口にして、一旦はあきらめたように見えた銀河だったけれど、
「なんて…な」
言ったかと思うと、人通りのない路地裏にぐいっと私の腕を引っ張り込んだ。