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「理沙…おまえだって、本当は、したかったんだろ…?」


銀河の唇が間近く迫る。


「ほら…だって、ここ、こんなに赤くなってる…」


寄せられた唇が、赤くなった耳に触れる。


「ん…」


「させろよ…キスくらい」


狭い路地の壁に体を押し付けられ、逃れられないよう耳の横に片手をつかれた。


もう一方の手で顎の先を捕らえ、そっと押し上げる。


「理沙……」


触れられた唇から、熱が伝わってくる。


「ぅん…銀河……」


キスに翻弄され、熱く火照りかけていた──そこへ、不意に、


「……っつぅ……うっ…く!」


呻く声が聞こえてきて、閉じていた目を反射的に開けた。


「銀河……? どうしたの……?」


状況が、とっさにはわからなかった。


壁に手をついた銀河が、壁づたいにずるずると崩れ落ちていく。


「…はぁ、はぁ…」と、肩で息をし、喘ぐ銀河に、


「ねぇ、どうしたの…!」


叫んで、ようやく気づいた──。


壁をすべる手とは反対のもう片方の手を、銀河はわき腹にあてていた。


そのわき腹には、細身のナイフが刺さっていて、血がだらだらと流れ続けていた。


「ぎ、銀河? …どうし……ねぇ、どうしたのっ……!」


気が動転する私に、銀河が苦しげな息の下から、「大丈夫…だ…」と、口にする。


「嘘っ…大丈夫なわけ……そんなわけない!!」


「大丈夫……だから、……下がっていろ、理沙……」


血が止まらない脇腹を押さえて、銀河が私の体を片手で後ろに押しやる。


──と、突然に、


「……何よ! なんで、かばってんのよ、そんな女っ!」


感情的な声が、耳をつんざいた。

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