テラーノベル
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「嘘だ、嘘だろ……!全部、美咲の仕業なのか!?」
会議室に、透の絶望的な叫びが虚しく響く。
人事部長は冷ややかな目で彼を見下ろし、一枚の辞令をテーブルに置いた。
「佐藤君、君のこれまでの嘘と経費の不正利用は、我が社の信用を著しく傷つけた。……懲戒解雇だ」
「退職金は一銭も出ないし、会社が肩代わりした不当な手当についても全額返還を求める」
「そ、そんな…!頼みます、部長!せめて自主退職に……!」
「無理だ。君の奥さんのご実家……つまり物件のオーナー側からも、厳重な抗議と証拠が届いている。これ以上の温情はない」
透は膝から崩れ落ちる。
彼が必死に守ろうとしていた「一流企業の課長代理」という肩書き。
月5万で妻を支配し、高級時計を光らせて悦に浸っていたあの全能感は、一瞬で消え去った。
一方、私はかつての「我が家」で、作業着姿のスタッフたちに指示を出していた。
「このソファーも、あっちの大型テレビも、全部彼の名義でローンが残っているものです。差し押さえの対象としてリストに入れてください」
「承知いたしました。奥様」
スタッフの呼び方に、ふと自嘲気味な笑みが漏れました。
透さんはずっと、私が自分の言いなりになる
「便利な家政婦」だと思っていたのだろう。
しかし、私が黙って質素な食事を出していたのは
彼を愛していたからではなく、父から言われた「人の本質を見極めるための期間」だったというのに。
そこへ、透から着信が入った。
おそらく、会社を追い出されてパニックになっているのだろう。
私は迷わず、スピーカーモードにして電話に出た。
『美咲! お前、なんてことしてくれたんだ! 会社をクビになったぞ! 責任取れ、今すぐ実家のジジイに言って撤回させろ!』
「……お疲れ様、透さん。責任とはなんのこと?私には関係ないわ。あなたが嘘をついて、会社のお金を使い込んで、他の女の人と遊んでいた結果でしょう?」
『ふざけるな!お前が黙ってれば済んだ話だろ!」
「何を言われても無理です」
『ああ、わかった。金か? 金が欲しいんだろ!あのマンションの権利を俺に寄譲するって言えば、離婚してやってもいいぞ!』
「……まだそんなことを言っているの?」
私は呆れて溜息をついた。
彼はまだ、自分が住んでいた場所が「誰のもの」で
自分が「何者」なのかを理解できていない。
「透さん、そのマンション、今ちょうど鍵を替えたところよ。あなたの荷物は、すべて『身の丈に合った場所』に送っておいたわ」
『……あ? 身の丈……?』
「ええ。あなたの実家に、着払いでね。あ、それから、リカさんからも連絡があったわよ。……『警察に被害届を出した』って」
『……は?』
透が絶句したところで、私は静かに通話ボタンを切った。
彼がリカについた「独身で資産家」という嘘。
それが結婚詐欺にあたる可能性があると、父の弁護士がリカに知恵を貸したのだ。
復讐はまだ、折り返し地点。
これから透さんは、一銭の貯金もないまま
莫大な借金と社会的制裁という「本当の5万円生活」を、一生かけて味わうことになる。
私は、清々しい気分で空っぽになったリビングの窓を開けた。
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#不倫
#離婚