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夜の屯所。煙草の匂いと、静かな虫の声。
向かい合う二人の間に落ちた沈黙を、先に破ったのは銀時だった。
「……これ以上、てめぇに心配はかけらんねぇな」
ぽつりと零れる。
土方が眉をひそめる。
「何の話だ」
銀時は一度、目を逸らした。
逃げ続けるのは、もう限界だった。
「お前が心配してんの、分かってる」
土方の目が、わずかに見開く。
「だから、言っとく」
喉が渇く。 心臓がうるさい。
それでも、目を逸らさなかった。
「俺、お前のこと……好きだわ」
言った。
言っちまった。
空気が、凍る。
土方はひどく驚いた顔をした。 いつもの副長の仮面が、綺麗に剥がれている。
けれど、非難はなかった。
怒鳴りもしない。 刀にも手をかけない。
ただ、
「……そうか、」
それだけ。
(まずい)
銀時の頭が一瞬で真っ白になる。
(これ完全にひかれた。やっべぇ。終わった。江戸から出ようかな)
目どころか顔も合わせられない。
「忘れろ今の。酒のせいだ。いや飲んでねぇけど。とにかく――」
逃げようとした、その時。
「てめぇにそう言われて、俺の心の正体にやっと気付いた。」
低い声が、静かに続く。
銀時は顔を上げる。
土方は少しだけ視線を泳がせてから、覚悟を決めたように言った。
「……どうする?」
不器用で、ぶっきらぼうで。
それでも、真剣だった。
一瞬、時間が止まる。
どうやら――自分だけではなかったらしい。
銀時は、何も言わなかった。
代わりに一歩踏み込む。
距離が消える。
そのまま、唇を重ねた。
一瞬だけ。
柔らかく、触れるだけのキス。
「――ッ!?」
離れた途端、土方の顔が一気に赤く染まる。
「テメ、急に何しやがんだ!」
「だって両思いって事だろ?」
にやりと笑う。
「恋人ならキスは普通なんじゃないの〜? あれ、もしかして土方君ウブだったの?ごめんね、初めてが俺で〜」
言葉を失う副長。
耳まで真っ赤。
数秒の沈黙。
次の瞬間。
ゴッ
「ぐはっ」
見事な拳が銀時の顔面に炸裂した。
「誰がウブだコラァァァ!!上等だァァァ!!!」
視界が暗転する。
目が覚めたのは、自分の部屋だった。
見慣れた天井。
万事屋。
「……は?」
体を起こすと、着物の中に何かが入っている。
小さな紙切れ。
開くと、乱雑な字で一言。
『これからよろしく』
短い。 余計な言葉は一切ない。
それでも、胸の奥が熱くなる。
いつの間にか背後から覗き込んでいた神楽と新八が、にやにやしている。
「良かったですね、銀さん」
「やっと素直になったアルな」
「…うっせ」
ぶっきらぼうに返す。
けれど 顔は赤いまま。
紙を丁寧に畳んで懐にしまう。
「どこ行くんですか?」
「別に」
そう言いながら、足は自然とあの居酒屋へ向かっていた。
今夜もきっと、あいつは来る。
喧嘩して、 悪態ついて、 酒を飲んで。
ただ一つ違うのは。
隣にいる理由が、もう言い訳じゃないこと。
暖簾をくぐる前に、銀時は小さく息を吐いた。
「……めんどくせぇな、恋愛ってのは」
それでも、足取りは軽かった。