テラーノベル
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夕方頃になって、ようやく春樹が起き出してきた。
「ふわーあ……」と、大あくびをしながらリビングにやって来て、「腹減った」と、お決まりの台詞を吐く。
その彼をじっと見つめて、気づいてよ……と思う。
「うん? なんだよ、そんなに見つめて。なんか、あるのか?」
何も答えずに黙っていると、
「わかった……」
と、彼が口を開いた。
「おまえ……、」
彼の言葉に、一瞬息を呑む。
「……おまえ、キスがしたいんだろ?」
迫る唇に落胆して、両手で彼の胸をグッと押し返した。
「違う……そんなんじゃない……」
口にしたら、思わず涙がこぼれ落ちた……。
「はぁ? なんで泣くんだよ。意味わかんねぇし。キスぐらいで、泣く年でもないだろうが」
そんなことしか言えないなんて、「最低!」と、彼の頬を思いっきり引っぱたいた。
「痛ってぇー」
赤く手形の付いた頬をおさえる彼に、
「今日は、もう帰るから!」
ソファーに置いてあったバッグを引っつかんだ。
そのまま玄関を走り出てエレベーターに乗ろうとして、また上の階に行ってしまっていてしばらくは降りてこないのに、
待っているのにもイラついて、怒りにまかせて一気に階段を駆け下りた──。
「何よ、春樹のバカ! なんで、服ぐらい気づかないのよ! それに、キスで泣くほどの年じゃないだろうって……どれだけ……どれだけ、バカにしてんのよ!」
毒づいて、泣きながら、息を切らして階段を走った。
やっと下まで辿り着いて、だけどパンプスで何十段も駆け下りたせいで足が痛くて、
その上悲しさと悔しさとがない混ぜになって、エントランスの壁によろけてもたれ掛かると、
ずるずると背中を滑らせるようにしてうずくまり、そこから動けなくなってしまった。
どれくらい、そこにしゃがみ込んでいたのか……、
「……何してんだよ、そんなとこで」
ふと声がして、ぼんやりと顔を上げた。
「あっ……」
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ホクロの住民
36
278
#学校
より
84
そこには鷹騰社長がいて、思わぬところを見られた恥ずかしさに、涙でグズグズになった自分の顔をごしごしと手で擦った。
しばらく黙って見下ろした彼から、
「泣いてんのかよ……ほら、立てって」
スッと手が差し伸ばされて、顔を横にそむけた。
「おい! こんな場所で泣いてたら体裁が悪いってことぐらい、わからないのかよ!」
強い口調で怒鳴るようにも言われて、手がぐいっと引かれ無理やりに立たされた。
「ひどい顔だな……」
「放っといてください……」
「そんな言葉が吐けるんなら、大丈夫か」
ニッと笑って、私の涙の跡を親指の腹でぐいと横に拭った。
「……酒ぐらいなら、付き合ってやってもいいぜ?」
「いいです……」と、首を左右に振る。
「そんなんで、ちゃんと帰れるとも思えないがな」
鷹騰社長が、どこか気づかうようにそう口にして、
「いいから、酒でも飲めよ。俺が付き合ってやるって、そう言ってんだから」
と、強引に私の腕を引っ張った──。
コメント
1件
うわっ、まさか春樹、気づかないの……!? しかもキスしたいんだろって、全然違うし(泣)読んでてこっちまで悲しくなった……。でも最後に出てきた鷹騰社長、グズグズの顔を親指で拭ってくれるの、ちょっとドキッとした。強引だけど気にかけてくれる感じ、いいなぁ。続きがすごく気になります。蒼乃 月さんの感情描写、丁寧で好きです🥀