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ホクロの住民
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#学校
より
84
──鷹騰社長に、マンション近くのカウンターのあるバーに連れて来られた。
「マスター、いつもの」
席に着くなり、慣れた口調でそう注文をする。
「おまえも、いっしょのでいいだろ?」
こちらの返事も聞かずに、
「いつもの二つで」
と、追加をしてしまう。
「かしこまりました」というマスターの穏やかな声を耳にしつつ、「……ここって?」と、中をぐるりと見回した。
オレンジのダウンライトが照らす落ち着いた雰囲気の店内には、他にお客は誰もいなかった。
「俺の店。人が集まるパーティとかやる時に、使ってるんだよ。それ以外は、ほとんど俺の貸し切りだがな」
そう話すと、その人は、ふっと顔を崩して笑って見せた。
シェイカーが振られ、目の前にカクテルグラスが差し出される。
「ドライマティーニだよ。飲めるだろ?」
彼が言い、私の顔を覗き込む。
グラスを軽く掲げて一口を飲む彼の様子を見届けて、自分も口を付けてみた。
「美味しい……」思わず口元がほころぶ。
「そうだろ? マスターの作るドライマティーニは、最高なんだよ」
鷹騰社長がショートグラスを傾けながら、
「飲んで、忘れろよ。泣くほどのことなんて」
私の方をつと横目に流し見る。
「……。聞かないんですか……理由とか」
何も聞かれないことが、逆に不思議なようにも思えてくる。
「俺が聞いても仕方がないだろ。どうせまた男絡みだろうが、人の恋愛になんて元々興味もないしな」
ストレートすぎる言い草は相変わらずで、
「泣くほどなら、決着くらい自分でつけろよ」
ただ一言、正論を投げかける。
「そんなこと、わかってる……」
グラスをつかんで、中味をぐいっと飲む。
「おい、それ意外と強いんだから、そんな飲み方するなって」
構わないでとばかりに、ひと息に飲み干して、「おかわり」と、カウンターへグラスを突き出した。
「マスター、同じの。チェイサーも付けてやってくれるか」
彼の声に、「はい」とマスターが応じて、私の差し出したグラスを受け取った。
「ほら、水飲んどけよ」
彼から手渡された水をごくっと飲んで、
「……昨日の夜もだけれど、よく働きますよね、鷹騰社長って」
朝にエレベーターの中で言いかけて、途中になってしまっていたことを切り出すと、
「なんだ、もう俺のこと知ってるのか。……まぁ、メディアにもよく出てるしな。知ってても、おかしくないか」
鷹騰社長はそう言って、カウンターに片手で頬づえをついた。
「ところで、そっちの名前も教えてくれないか? 俺の名前だけ知られてるとか、フェアじゃないだろ」
その涼やかな眼差しで、じっとこちらを見つめてくる。
「舞…… 三咲 舞。舞うって書くんです」
「舞か……、悪くない名だな」
そんな風にも言われると、なんだかちょっと照れてくるみたいだった……。
コメント
1件
みぅです、読了しました🥀 社長の「飲んで、忘れろよ。泣くほどのことなんて」って台詞、すごく刺さりました。理由を聞かないでいてくれる距離感、でもちゃんと隣にいてくれる安心感…。ああいう大人の優しさって、あるんだなって。 しかも名前を聞いて「舞か…悪くない名だな」って。照れましたよね、私も同じ気持ちになりました。ドライマティーニ、今度飲んでみたくなった🍸