⚠︎年齢指定作品です。未成年の方は読まないでください⚠︎
某ラブな診断の結果に狂って書き始めたはずが、怒涛の供給に揉まれるあまり何だかよく分からない感じになってしまいました。
今回🤝の一人称は「俺」で統一してあります。読みにくかったらすみません。
17000字ある上に手癖全開なので糖度がバカ高いです。時間と心に余裕のある方はどうぞ。
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「お前さ、俺のことどんくらい好きなの?」
リトがそう問いかけると、エンドロールをぼうっと眺めていたイッテツは一拍置いて顔を上げた。
「……えっ今? 映画の感想は??」
「いや映画はすげー良かった。お前のおすすめなんだし当たり前だけど。……んで? テツは俺のこと、どれくらい好き?」
「えぇ……? 急に言われても……どれくらい……どれくらいかぁ……」
ソファの上で膝を抱えて考え込むイッテツを横目に、リトは氷の溶けて薄まったアイスコーヒーを飲み干した。
今日はそれぞれの任務を終えたあと何となくイッテツの家に集まり、宅配で適当に夕食を済ませながらこうして映画を観るなどして、実にのんびり過ごしていたところだ。今しがた観終えたような古典映画はイッテツの趣味ではあるが、古めかしい台詞の言い回しや映像技術がまだ発展していない時代特有の凝った演出などは特に面白かったと思う。
しかし、その感想すら後回しにしてしまうほどリトの頭の中は別のことでいっぱいなのであった。そしてその『別のこと』とは当然、冒頭の台詞に繋がるわけで。
うんうん唸っていたイッテツは何ともしっくり来ないというような表情で、隣に座っているリトの方を斜めに見上げた。
「いや、ちょっと分かんねぇわ。どういうこと? どれくらいって何?」
「……そのくらい察してくんね??」
ひく、と表情筋が引き攣る。
こういうときのイッテツは融通が効かないというか頭が固いというか──まぁとにかく、理解してもらうためには例題を出してやるのが手っ取り早いだろう。リトは今まで見てきた娯楽作品での同様のシチュエーションを、できるだけ多く思い出してみることにした。
「あー……例えばだけど、『貴方のためなら死んでもいいわ』とか『世界を敵に回したとしてもキミを守るよ』みたいな……」
「?? えっ何? キミ死ねとセカイ系ラノベ……?」
「ごめん俺そっちのが分かんねえ」
「あーでも……なるほどね。はいはいはい……」
どこの何を理解したというのか、イッテツはどこか納得した様子で再び『考える人』のポーズになる。リトはというと、多分またトンチンカンな答えが返って来るんだろうな、と覚悟をした上で更に待ち続けた。
「……いや、そういうのって言葉にならなくない? なんていうかその、人に対する好意? みたいなのって。量れなくない?」
案の定手の中でろくろを回しながら大真面目に語るイッテツに、リトは「そういう話じゃねえんだよな」と肩を落とす。
ああ、分かっていたとも。こいつにこういう話題を振ったところでまともな回答が返ってくるはずもないことは。
期待は最初からしていなかったが、答えてはもらった以上自分なりに妥協点を見つけるべきだろう。リトは好意の言語化についてよく分からない自論を語っているイッテツの言葉を半分ほど聞き流しつつ、自分で納得ができるような落とし所について考えた。
「──ってワケなんだよねぇ、つまり。そもそも人に対する感情に例え話を持ってくる時点であれっていうか、じゃあ実際そんな状況になりますか? なったことありますか? って話。そういうんじゃなくてさぁ、もっとこう……この時代だからこそ、人と人との関わりは殊更に真摯であるべきだと思うのよ、俺は」
「あー、はいはいはい。なるほどね?」
「……聞いてないでしょ、きみ」
「うん」
「はっはっは。この野郎」
どれだけ熱弁されたところで、つまるところそれは『お前への感情は言語化に値しない』と言っているようなものじゃないだろうか。あまりにも不満が顔に出てしまっていたのか、イッテツは少し改まった態度でリトの方へ向き直る。底知れない夜色の瞳が今はこちらの心までも見透かしているような気がして、リトは視線を逸らした。
「……俺はきみが好きだよ。それだけじゃだめなの?」
「だめ、とかじゃねえけど……じゃあお前は、言葉にできないくらい俺が好き、ってことでいいの?」
「あぁ……まぁそうなるね」
「そうなるね、って」
あまりにあっけらかんとした態度のイッテツに本当かよ、と毒づきたいのをグッと堪え、リトは何でもなかったように体裁を立て直す。
「まあ、そんなもんか」
「そんなもんじゃないの? 実際。恋愛って」
「テツは恋愛初心者だもんな」
「は? 今それ言う必要あったか? てか関係ある? この場においてそれ」
「っふふ、沸点分かりやすすぎだろ」
恋愛経験の乏しさを指摘するとイッテツは途端にムキになる。こういうところはかわいいんだよな、とリトは思った。
話が一区切りついたところで時計を見てみると、もうすでに夜の10時を回っているところだった。ここから駅まではそこそこ遠く、あまりのんびりしていると終電を逃してしまうだろう。
リトはとうにエンドロールも流れ終わった画面を消して、今となってはレトロなDVDディスクをケースにしまう。ぱちん、とケースに収納されるその一連の動作を見たイッテツは何かを察したように声を上げた。
「……え、もしかして帰るの? リトくん」
「あ? あぁ……明日テツ早いじゃん。あんま長居しちゃ悪いだろ」
「いや、…………そうだっけ? 完全に忘れてたわ」
へらりと笑いながら後頭部を掻くイッテツに、なんとなく違和感を覚えた。
「……どうした? 何か言おうとしてた?」
「ん……いや別に、何でもないよ。きみは明日午後から──ウェンくんとだっけ?」
「おお、自分の任務も忘れるテツがついに俺の分の任務まで覚えられるようになったかあ」
「揚げ足を取るんじゃないよ……じゃあさ、あれだね。明日は会えない感じか」
「だね。次は多分明後日……え、マジで何でもないやつ? ほんとに?」
「ほんとほんと。マジで何でもないやつ」
また怪我でも隠しているのかと心配になって問い詰めるが、どうやらそういうわけではなさそうだ。隠し事をしているときに泳ぎがちな目を見てみても、さっきと変わらず底知れない表情を浮かべているだけで何も分からない。
──気のせいか。リトは心の隅に小さなわだかまりができるのを感じながら、今は特に気にしないことにした。自分が元よりそういう性分なのだし、あの必要以上に開けっぴろげなイッテツにだって言いたくないことのひとつやふたつくらいあるだろうと思ったのだ。
秋用のコートもいい加減寒くなってきた。そろそろ冬物に変える時期かな、とぼんやり考えながら、ハンガーラックもない家で適当な段ボールに引っ掛けられたコートを拾う。
「──じゃあ帰るわ。夕飯ごちそうさま。また明後日な」
「……うん、また明後日」
「いい夢みろよ、テツ」
半ば口癖のようになったそれを最後に、手を振り合いながら玄関のドアが閉じていくのを眺める。
やがてぱたん、とドアは閉じ切って、それが何だか無性に寂しいような気がした。
§ § §
イッテツとは想いの重さが釣り合っていないのかもしれない、と考えるようになったのは一体いつからだっただろうか。
気分の重さに反して一段と輝く星空を見上げて、リトは深くため息を吐いた。今年の初夏の頃に長年の片想いが通じ合い、ようやく夢の恋人生活がスタートした──までは良いものの、関係性と時が進むにつれて心の距離まで伸びていっているような気がしてならない。
そう考えてしまう理由はひとつ。イッテツの感情表現が、あまりにもストレートすぎるからだ。
「好きだよ」「かっこいい」「きみは本当に最高の彼氏だな」……なんて、普段から身に余るくらいの言葉をもらってはいる。けれど、その度に飛び跳ねる心臓を抑えるので精一杯の自分と、次の瞬間にはもうどこか別の方を向いてしまっているイッテツで、果たしてその言葉の重さは同じだろうかと考えてしまうのだ。
先述の通り、関係は順調に進んでいる。おそらく一般的な恋人たちと同じように手順を踏んで、今や体だって許してもらっている。……が、普段から騒々しいイッテツは行為中でもさほど変わりなく、気がつけばただじぃっとこちらを見つめていたり、かと思えば突然黙り込んで顔を伏せたり、しまいには声を抑えるため枕に顔を押し付けすぎて気を失ってしまったりと、とにかく全てが忙しない。
正直言って、ムードもクソもありゃしない。だと言うのに、この色惚けした脳ではそんなイッテツすら愛おしく思えてしまっているのだから世話がない。
そんなに無理をさせるくらいなら、と最近は夜を共にすることも減らしているが、イッテツの方はまるで平気そうな顔をしている。リトの方はというと、毎回会って別れるたびに家で自慰を覚えたての中学生のように耽ってしまっているというのに。
好きかと聞けば好きと答える。いや、わざわざ聞いたりなんかしなくたって時には少々大袈裟すぎるくらいの言葉でもって愛を示してくれる。
──でも、その言葉を一体どこまで間に受けて良いのか分からない。少なくともリトのような嫉妬心や独占欲があるとは思えないし、性欲だって薄い方だろう。
リトは約半年前、想いが通じ合った日のイッテツの言葉を思い出してみた。
『────え、知らなかったの? 俺がきみのこと好きなの。じゃあ今バレたんだ。そっか。
……えぇ? どうしよう、普通こういうときってどうするもんなの? 今まで通りってわけにはいかないよな、多分。俺だってとっくに振られてるもんだと思ってたし──え?
……きみも俺が好きなの?
…………ほんとに?
……………………あ、え、あぁ……ま、まじか。
じゃあ……え? 付き合っ……てくれるってことでいいの? 合ってる? 俺。
……ほんとに? 後悔しない??
…………なら、お付き合い……しますかぁ……』
これである。
今思えばあのときに気付いておくべきだったと思う。
そもそもイッテツのことだから、自分に無いものを持つ人への憧れや好奇心などを恋と誤認している可能性すらある。向ける感情のベクトルが違っていれば、こうしてすれ違いが起きてしまうのは必然だろう。
いつまで続けられるんだろう、この関係は。
最近はもう終わりについてしか考えられなくて、目を逸らしたいがあまり2人でいる時間すら減らすようになってしまった。
それについてイッテツから何か聞かれたこともなければ、不満を言われたこともない。となると、自然消滅というのもありえない話ではなくなってくる。
憂鬱だ。
今のリトにとっては明日の会えない時間より明後日の方が憂鬱に思える。その事実が一番、憂鬱だった。
駅前の喧騒が近づいてきて、重たい足を引きずりながらホームへと踏み出した瞬間、リトはあることを思い出した。
「──あ、インナー忘れた……?」
実は今日はもともと任務の予定はなく、ジムトレーナーとしての仕事をしていたときに緊急の出動要請が来てしまったのだ。そのためイッテツの家でヒーロー衣装一式を洗濯してもらったが、特に汗を吸ってしまっているインナーは持ち帰って洗うからと個別にしておいたのだった。
念の為バッグの中にインナーが入っていないことを確認し、ため息を吐き、しばし考える。
現在時刻は10時半過ぎ。今引き返せば終電を逃してしまうことは確実だ。しかし、あの汗臭い布切れをそのまま置いて帰るというのはそれこそ礼儀知らずというものだろう。元からそこまで高いとも思えない好感度でも、マイナスを振り切ってしまうことは避けたい。
リトは迷った末に踵を返し、やっぱり取りに戻ることにした。この選択が2人の関係を大きく変えることになるとは露ほども知らずに。
§ § §
「お邪魔しまーす……って、なんか暗……もう電気消してんのかよ、あいつ」
合鍵にと預かっているカードキーでドアを開けると、玄関から先はほとんど闇に包まれていた。手探りで照明のスイッチを入れてみるが、見渡す限り明かりのついている部屋は無いように思える。
もしかすると、明日は早いという話をしたばかりだしもう床についているのかもしれない。だとすればあまりうるさくしては起こしてしまうだろう。リトはスマホのライトを点け、なるべく足音を立てないようにそうっとリビングへと入っていこうとした。
──その道中。
「……? なんだ、この音──……」
思わずそう呟いたあとでその音が僅かに光の漏れる寝室から聞こえていることに気付き、途端に足が止まる。息を止めて耳をそばだててみれば、それはどうやらくぐもった水音と呻き声のように聞こえる。
……いやいやまさか、そんな漫画みたいなことがあるわけが。そう自分に言い聞かせてはみるものの好奇心には抗えず、つま先は自然と寝室の方へと向かっていた。
スマホのライトを頼りに廊下を進んで行けば音は当然はっきりと聞き取れるようになっていて。もはや確認するまでもないと分かっているのに、リトは震える手で扉を引くのを止めることができなかった。
「っ、はーっ♡ はーっ……♡ ッは、……リトくん♡ 好き、好き……っ♡♡ んン゛、ふぅ゛……っ♡♡」
数センチほど開けた隙間から視界に飛び込んできたのは、自分のインナーを鼻先に当てがいながら一心不乱に自慰に耽る恋人の姿だった。見てみれば弄っているのは前ではなく後ろ側で、もっと言えば持ち手から見て取れるだけでもかなり凶悪なサイズのディルドが突き刺さっている。
──お前、ひとりでするとき後ろの方触ってんの? それ俺の汗がめちゃくちゃ染み込んで相当ヤバい匂いするはずなんだけど。というか気のせいじゃなければ俺の名前呼んでなかった?? てか、今、好きって。
リトは目の前がぐにゃあっと歪む錯覚すら感じるほど興奮してしまい、咄嗟に口元を手で覆った。ドア一枚隔てられた先に想い人がいるだなんて考えもしていないイッテツは、ゆるゆると抽送するのに合わせて呼吸を荒げる。
「はぁっ♡ リトくんの匂い……♡ すっげぇえっちな匂いする♡ ッはーー……っ♡♡ ……やば、手ぇ止まんない♡ リトくんのちんちん欲しいっ♡ 欲しいよぉ……♡♡」
「………………」
普段は絶対に言わない下品なことを口走りながら後孔を掻き回すその姿を見て、リトはいっそその場から逃げ出してしまいたいとすら思った。何故かってそりゃ、これ以上こんな光景を見せつけられたら、もはや自分が何をしでかすか分からないから。
しかしこんな姿をよりによってこんなタイミングで見せつけられてしまえば、このまま黙って帰るというわけにもいかないだろう。
結局リトは痛いくらいに勃起したそれをコートの上から握りしめながら、その場から離れることも、ドアを開けて声をかけることもできなくなった。
次第に水音は激しさを増し、抑える気もない嬌声は気分を盛り上げるためかより一層派手になっていく。おそらく絶頂が迫っているのだろう。そのあまりの生々しさにリトの口内には唾液がこみ上げ、無意識のままそれを飲み下した。
「リトくん♡ リトくん好きっ♡♡ 好き好き好き……っ♡ リトくんのでめちゃくちゃにされたい♡ おかしくなるくらい抱き潰されたい……♡♡ っぁ゛♡♡、ィ゛……っく♡ クるぅ゛♡♡ ぁ゛〜〜〜っ……♡♡ ……〜〜リトくんの声、でっ♡ 好きって言われたい……っ♡♡」
「…………っ、」
おそらく絶頂に至るほんの一歩手前、快楽でどろどろにとろけた声で呟かれた願望は、意外なくらいにピュアなもので。心臓を鷲掴みにされたような衝撃を受けたリトはついうっかり、持っていたスマホを取り落としてしまった。
まずい。そう思ったときにはすでに遅く、スマホがフローリングの床を叩く硬質な音が高らかに鳴り響いていた。
「──へっ!?♡ あっ……り、リトくん……?」
「…………あー……と、」
一瞬前まで恍惚に浸っていた顔がさぁっと青ざめていく。やらかした、と思ったのはリトだけではないらしく、イッテツは無言でディルドを引き抜いた。
リトが言葉を失ってしまったため2人の間に気まずい沈黙が流れ、その空気が更に双方の頭を冷やしていく。
「……お邪魔しました、」
「ちょっ……ま、まって。どっから? どっから見てた??」
「……逆にどっからならセーフ?」
「………………全部アウトだね」
イッテツは一拍遅れて湯気が出そうなほどに赤面し、顔を覆ってベッドに転がった。
「ごめんほんと……ほんとごめんマジで……インナーはこれ洗って返すから……何なら買い直すから……」
「い、いやいいって。マジで気にしてないから……いや気にしてないは嘘だけど。嫌とかじゃないから、全然」
「ほんと……? じゃあ今見たの忘れてくれる……??」
「それは無理」
「……ですよねぇ……」
分かってたけど。と耳まで真っ赤に染めながら、イッテツは顔だけ出して毛布にくるまってしまった。巨大な芋虫みたいで何だかかわいい。
リトは長くなるであろう話をするべく足元に転がったままのスマホを拾い上げると、意を決して部屋の中に足を踏み入れた。一歩踏み出した途端にむわっとした湿度と匂いに包まれて何とも言えない気分になり、一旦頭の中を落ち着けるように深くため息を吐く。
外の空気を纏って冷えたコートを脱ぎながら、毛布からほとんど目元しか見えないイッテツと視線を合わせるためその場にしゃがみ込んだ。
「うぐ……やっぱ怒ってる……?」
「……んーん、怒ってない」
「…………幻滅した? き、嫌いになった?」
「や、それだけは絶対ない」
「………………」
じゃあ、なんで。毛布から出てくる気配のないイッテツは、目だけで疑問符を示している。
……怒ってる、幻滅した、嫌いになった──そういったマイナスな言葉が出てくるということは、イッテツにとってこれは秘匿すべき、恥ずべきことなのだろう。いや、一般的に見てどうかは知らないが、リトだって恋人の私物を使って自慰行為に夢中になっているところを見られたら平素ではいられないだろうし、ましてやこんな──表に出していなかった感情を知られてしまったら、同じ言葉が出てくるんだと思う。
……しかし、それにしたって。
リトはまるで処刑を待つ囚人のように怯えて震えているイッテツに、なるべく優しく声をかけた。
「あのさ、一個聞いてい?」
「は、え、はい。……なんでしょうか」
「……テツってさ、結構俺のこと好き……だったりする?」
それを聞いたイッテツは目を丸くして「は、」と間抜けな声を上げた。さっきとは比べ物にならないほどに疑問符が浮かび、頭の上には『Now Loading……』と書かれていそうである。
リトはというと、言っている途中ですでにちょっと後悔していた。
隙間から覗き見たイッテツの姿は今まで見たことがないほど淫らに蕩けていて、それでいて健気だった。少なくともあんなに名前を呼んでいるところや、ぼやけた意識の中「好き」と連呼しているところなんてリトの前では見せたことがなかった。
涙で潤んだ瞳で、震える指先で、荒い呼吸で、何より言葉で、あんなに愛を溢れさせているところなんて初めて見た。
……とは言いつつ今回のそれはそういう状況を想定したイメージプレイのようなものかもしれないし、もし勘違いだったとしたら死ぬほど恥ずかしい。沈黙に耐えられないリトが今からでも撤回できないだろうかと思案していると、イッテツが突然むくりと起き上がった。その顔には、羞恥と驚愕が入り混じっている。
「……信じてなかったの……?」
「いや、そういうわけじゃ──…………な、くはない、けど、」
歯切れの悪いリトに、イッテツは毛布にくるまったままベッドから降りてそろそろと近づいていく。引きずった毛布がカーペットに擦れる感触だけが振動で伝わり、リトは目が合わせられなかった。
やがてリトの前まで辿り着いたイッテツは同じようにしゃがみ、先ほどとは程遠い、切なげに潤んだ瞳で訴えかけた。
「──俺はきみが好きだよ。……さっきも言ったけど」
静かで、それでいてこの上なく真摯な言葉に、ずっと考えていたことが口をついて飛び出してしまう。
「じゃあお前、嫉妬とかすんの」
「、……うん、する」
「……独占欲とかは?」
「……多分、結構ある」
「性欲は」
「…………見ての通り」
「じゃあ、さっきなんか態度が変だったのって──」
「っも、もう勘弁してくんないかな……」
蚊の鳴くような声に顔を上げてみれば、イッテツは今にも泣き出しそうなほど顔を真っ赤にして、目元には涙を滲ませていた。今度はイッテツが黙り込んで目を逸らす番で、リトはふいに行為中の姿を思い出す。
ああ、そうか。緊張して、恥ずかしくて想いが溢れてしまいそうだから、こうやって何も言わずに目を逸らすのか。
──だとしたら、窒息しそうになるほど長い時間、ひたすら黙っていたりしたのは。
それに気付いた瞬間胸に愛おしさがこみ上げてきて、ぶわりと顔が熱くなる。
「……だから、言ってるじゃん。言葉にできないくらいきみが好きなんだって。……好きだから、嫉妬もするし独占欲もあるし、それに……き、きみのこと考えながら自分を慰めたりもするし…………明日会えないのだって、寂しいよ」
躊躇いがちにぽつりと溢れた言葉に耐えられず、不安げに縮こまる痩躯を抱きしめた。
「ッ……あーー、もう……かわいすぎる。お前マジで」
「……うん」
「……ごめんな、疑って」
「…………うん」
毛布の隙間から細い腕が伸びてきて、きゅっと弱々しく抱き返される。ぴったり重なった胸はリトに負けないくらい、とびきり忙しなく鼓動していた。
今までだって、こんなふうに抱き合ったりしたことがないわけじゃなかった。けれどそのときはリトも必死で、イッテツがこんなにも余裕を無くしていることなんて気付きもしなかった。イッテツはずっと、あんなに真っ直ぐな言葉で好意を伝えてくれていたのに。
「──な、テツ、……好きだよ」
「…………っ、」
なるべく飾らないように、本心が伝わるように囁けば、腕の中の身体がギシっと強張る。それがかわいくてたまらなくて、頭を撫でてやりながら更に続けた。
「俺もおんなじだよ。全部。……寂しがってんの、察してやれなくてごめん」
「…………、……ううん、俺こそ……こういうこと言うと、めんどくさがられるかなって思っちゃって」
「全然。かわいいよ」
「……さっきから全部かわいいって言ってない?」
「そりゃ全部かわいいんだもん、お前」
「………………」
「かわいい。好きだよ、テツ」
またもや黙ってしまったかわいい恋人の顔が見たくて、腕の拘束を解いてやる。まだ顔は上げられないらしいが、髪の間から見える耳と首が真っ赤になっているのでおおよその察しはついた。
ついその赤くなった耳に触れると、イッテツは「ん、」と微かな声を上げて肩を跳ねさせた。毛布の下を見れば身に着けているのは部屋着のTシャツ一枚だけで、リトはようやく、そういやこいつ今めちゃくちゃお取り込み中だったなと思い出す。
一度思い出してしまえばもう脳内はそのことしか考えられなくなっていて、喉を堰き止める唾液を飲み込み、そっと耳元に唇を寄せる。
「……テツ、」
「っ、な……なに?」
「……ちょっとだけさ、続き……手伝わせてくんない?」
「つ、づき……?」
おうむ返しに首を傾げるイッテツの、腰骨のあたりを軽くなぞる。それだけで毛布に包まれた身体は大きく跳ね、不意打ちに慣れていない声帯からは低く甘ったるい吐息が漏れ出した。
「っ、…………やだ」
「……じゃあ、」
「──ちょっとだけじゃ、やだな」
ぼそりと呟いたイッテツは、無理強いはできないと引き下がりかけたリトの手を掴み、ぎこちなく絡めてみせる。その無骨な手の甲に浮いた血管をじっとりと濡れた目で見つめ、手のひらにキスを落とした。
目は口ほどにとはよく言うが、イッテツに限っては特にそうだ。何より雄弁なそれが、次に言うであろう言葉をすでに物語っている。
落ち着きのない視線同士が、前髪越しにぶつかる。
「……ちょっとだけとか、手伝うとかじゃなくてさ……ちゃんとしてよ、」
──さいごまで。
その縋るような声色に理性を溶かされ、意識は薄い唇に吸い込まれていく。明日早いんじゃなかったっけ、という最後の砦は、苦い煙草の味に押し流されて消えていった。
§ § §
秋も深まった穏やかな夜に似つかわしくない、淫らな水音と息遣いが薄暗い部屋を支配している。橙色の照明はいつもより少しだけ明るくて、鼻先が触れるほど近づいた顔の表情を読み取ることくらいは容易くできた。
ひときわ甘い声の上がるところを繰り返し責め立ててやれば、あっという間に余裕のなくなった指先がシーツを引っ掴み、同時に結合部が痛いくらいに締め付けてくる。
それでも逸らされない健気な視線がかわいくて、喘ぐのに忙しそうな唇を塞いでしまう。
「──っぁ、ん……っ♡ ふ、……っ♡♡ ぅ゛、う゛〜〜〜っッ゛……♡♡」
「……ッふ、」
こうしてピントも合わないほどの至近距離で見つめ合えば、言葉なんてなくても自然とお互いの気持ちが伝わってくれるような気がした。少しでも鮮明にその光景を焼き付けておきたくて、唇を離したリトは鬱陶しいと言わんばかりに雑に前髪を掻き上げる。
その仕草を間近で見せつけられたイッテツはきゅうんっ♡ と高鳴る鼓動を抑えるため、また枕に突っ伏してしまう。
「……あ、おいテツ。息止めんなって」
「ッ♡ だ、だって、ぇ……♡♡」
「ふ……気持ちいいのは大丈夫なのに、ときめいちゃうのは我慢できないんだ?」
「ぅ、う゛〜〜っっ……!♡」
リトは唸るなよ、と微かな笑みを溢しながら、しっとりと汗ばんだ薄い胸元にてのひらを当てる。ドクドク伝わってくる鼓動はなるほど、確かに飛び出してしまいそうなくらいに騒がしい。
……けれど、それはリトだって同じだ。シーツを握りしめたままの指をほどいてやり、そっと自分の胸へと当ててみせる。その振動に触れた途端、イッテツの瞳が瞬く間に丸くなる。
「……な。俺もおんなじって言っただろ。今もお前がかわいすぎて、どうにかなりそうなの。……テツもさ、ちゃんと言って? ぐちゃぐちゃでもいいから、我慢しないで」
「…………っ♡」
そうして柔らかく微笑むリトに、余計動悸がひどくなる。イッテツは躊躇うように下唇を噛み、迷った末にはぁっ♡ と息を吐き出した。
「──そ、やって……っ♡ いじわるしたあとに優しくするの、だめ……♡」
「だめ?」
「……っす、好きすぎるから、……だめ♡♡」
涙目で訴えるイッテツに、笑みを絶やさないリトもかなり参っていた。
──こいつ死ぬほどかわいいこと言ってんの、自分で分かってねえのかな。リトは愛おしさのあまり口角が引き攣りそうになるのをグッと堪えながら、あくまで平静を装う。
「……そんなこと言われたらさぁ、もっとしたくなっちゃうって思わねえ?」
「う゛〜〜……っ♡ だから言いたくなかったんだよぉ……! きみってそういう奴だからさぁ!」
「っはは、でもさ、ほら……もっと好きになって欲しいじゃん。好きな人には」
「っす、きなひとって……♡」
我ながら背中がむず痒くなるようなキザったい台詞だ、とリトは心の中で苦笑した。しかしイッテツにとってはそうでもないようで、『好きな人』という単語に身体が反応してしまっている。そういえばイッテツは、意外とこういうクサい台詞が好きなんだった。
「ぁー……かわいい。……テツ、好きだよ」
「……っ、〜〜〜っッ゛!♡♡♡」
わざと吐息を含めるように甘ったるく囁いてみれば、案の定イッテツは再び言葉を詰まらせ、かと思えばそのまま全身を強張らせる。リトがえっと呟くが早いか、内壁を思い切り締め付けてイッテツは絶頂に至ったようだった。
思わず引っ張られてしまいそうになり、すんでのところで堪えたリトは目を白黒させる。それは突然こみ上げた射精感によるものでもあったし、その原因であるイッテツへの混乱によるものでもあった。
「っ……え、イった? 今、俺の声だけで??」
「〜〜っは♡ はぁ……ッ♡ っん、ぁ……っ♡♡」
困惑するリトを他所に、イッテツは不規則に痙攣を起こしながら絶頂後の恍惚に浸っている。やがて徐々に落ち着いてきたのか、はーっ♡ はーっ♡ と余韻たっぷりの喘鳴を上げながら、虚ろな目をリトに向けた。
「だ、からぁ……っ♡ ッぃ、いつもいってる、だろ♡ っは♡、……俺、きみの声に、弱いんだって……♡♡」
「いや、言ってたけどさあ……お前、匂いといい声といい、俺に弱すぎじゃね……?」
きみの声が好き、というのはイッテツによくかけられる言葉のひとつだ。それも歌や演技などのシーンで言われることが多いため、技術を褒める意味合いが強いのだと思っていたのだが。
試しに耳元で「テツ」と呼びかけてみれば、華奢な肩は大袈裟なくらいに飛び跳ねて、唇からは上擦ったような吐息が漏れた。弱々しく下がった眉に赤くなった目元、鋭利な犬歯が下唇を噛み締めて、次いで飛び出そうになる言葉をどうにか堪えているようだ。
これはもしかすると──思っていたよりも大分、いやかなり愛されているんじゃないか?
イッテツは息も絶え絶えになりながら、先ほど言われたことを何とか守ろうと胸の内を占めてやまない感情を吐き出した。
「……弱いよ、そりゃ──好きなんだから。……こんなにきみの全部が好きで、どうしようもないんだから……っ♡」
ようやっとそれだけ呟いたかと思うと、また元通りに視線をずらしてしまう。これが今のイッテツにできる、精一杯の愛情表現だった。
──きみが好きで、きみの全部が好きで、例え話なんて思いつかないくらい、自分にとっての全てで。それが伝わらないというなら、一体どうすればいいんだろう。こんなにも全力で愛しているのに、ただあと少しでも長く、この関係を続けていたいだけなのに。
2人の時間が減るのも夜が減るのも本当は寂しくてしょうがなかったけれど、こういうものなのかと思っていた。世には倦怠期なんてものもあるらしいし、そもそも自分は二次元の恋愛しか知らない。そうして行き場のない色々なものを発散させるために自分を慰めたりなんてしていたが、これが合っているかどうかも分からなかった。
自分の差し出せるものは全て差し出したつもりだ。今までだってひたすら、好きだと伝えてきたはずだ。
でもきっと、まだだめなんだろう。伝えたい想いは、これっぽっちも伝わっていないんだろう。それだけは何となく分かってしまって、もうどうすればいいか分からなかった。
「──テツ、」
「……うん……?」
「こっち見て。……目ぇ逸らさないで」
促されるまま視線を向けると、とろけるようなはちみつ色と目が合った。
ああ、またこれだ。リトはこのひどく甘い視線だけで感情の全てを伝えてくるものだから、イッテツはすぐに耐えられなくなってしまう。イッテツのことが大切で愛おしくてたまらなくて、守りたい、抱きしめたい、食べてしまいたい。そんな相反する感情も全て濁流のように流れ込んできて、いつも胸が苦しくなる。
けれど、今は逸らすなと言われてしまったから。鮮やかなオレンジ色の髪に透ける途方もない慈しみの瞳を、見つめ続けるしかない。
「……っ、も、もういい……?」
「まだ」
「…………も、限界、なんだけど……っ♡」
「……うん。俺も限界」
何が、と言うより先に、腰から重たい痺れが駆け上がってくる。油断していたイッテツは散々甚振られた快楽神経を舐るように刺激され、がくんっ♡ と背を反らせた。
ゆっくりと抽送を再開したリトはぎゅうぎゅう締め付けてくる内壁に歯を食いしばりながら、的確にイッテツの良いところを押し潰していく。
「──ッひ♡ ぁ゛……っ!?♡♡ きゅ、に……されたらぁッ゛……♡♡」
「ッは……きもちい? テツ」
「〜〜〜〜ッッ……!♡♡ ……っわ、分かってるくせに……!♡」
「分かんない。……どうされるのがいいか、ちゃんとテツの言葉で言って?」
「っ、……きもち、い……っ♡ お腹んなか、リトくんのでいっぱいになんの、っ♡ すっげぇ気持ちいい……っ♡♡」
「これ?」
「ぁ、あ゛っ♡ それ、それ好き……っ♡♡ ッふ、ぅ゛〜〜っ……♡♡♡」
リトの優しく探るような腰遣いに、イッテツは低く唸るような声を上げて簡単に天井へと押し上げられてしまった。こうして最奥までぐっぷり埋められると、肉体的な快楽よりリトの規格外のものを受け入れることができているという幸福感で頭がどうにかなりそうになる。
イッテツはもともと、そんなに感度が良い方ではなかった。けれど世界でいちばん好きな人に抱かれているというだけで、身体の感度なんかお構いなしに勝手に気持ちよくなってしまうのだ。
「きみのせいだ、」とイッテツはうわ言のように呟く。
「〜〜〜ッ俺、ほんとはこんなんじゃ、なかったのにっ♡ きみのせいで……っ♡ んンぅ゛……っ♡♡ ……こ、こんなに♡、っきみのこと好きになっちゃったの……っ♡♡ ッきみのせい、なんだからなぁっ!?♡♡♡」
「うん、ごめんな。……もう離してやれない」
「……う、ぅ゛〜〜〜〜っっ♡♡♡」
頬に触れる熱も真剣な眼差しも、何よりあの何だかんだで調子を崩すことのないリトの余裕をなくした掠れ声が、イッテツの頭も身体もだめにしていく。
イッテツはいつものように息を止めようとして、できなかった。全身に残る甘ったるい絶頂の余韻と溢れてやまない激情が、とうとう羞恥や理性なんて枷を壊していってしまったから。
震える手を伸ばして、まるで大木の幹のようにたくましい胸板を引き寄せる。早鐘のような鼓動とじっとりとして熱い体温が混ざり合い、互いの境界がとけあっていく。
「……っ、すき♡ ねぇ、好きだよ、リトくん♡ 大好き……♡ ……ずっと、ずっときみのものでいてあげるから、俺の愛は全部、きみにあげるから──ちゃんと俺のこと好きでいて、リトくん……♡」
懇願とも挑発とも取れる甘いバリトンの声がリトの耳に絡みつく。ぞわ、と背筋が粟立って、あとはもう、何も考えられなかった。
「ッぁ゛っ♡ ちょ、いきなり……っ♡♡」
「……テツが悪い」
「はぁっ!? 俺ぇ……っ!?♡ っや♡ ぁ、まってそれっ……ぁ♡、あ、あっ♡♡」
今まで大ぶりにゆるゆると続けられていたピストンが、奥をねちっこく責める動きに変わる。我慢することをやめたイッテツは惜しげもなく感じ入った声を上げ、腰をかくんっ♡ と跳ねさせた。
「はーー……っ、はは、すげー気持ちよさそう……テツ、俺も好きだよ。大好き」
「ッぁ、……っ♡♡ それっ♡、今言うの、だめ……っ♡♡」
「、やだ。やめてやんない。お前も俺と同じ思いしろ」
「同じって……──あ゛♡、ん、む……っ♡♡」
リトはぐりっ……♡ と最奥を抉りながら、状況を理解していないイッテツの唇に噛みついた。煙草の味のする舌を絡め取り、柔らかい裏側の血管をぬるりと舐め上げる。行儀の良い歯列を舌の先でなぞってやれば、じゅわりと湧いた唾液が顎を伝って首筋へと落ちていった。
息苦しさにはふ、と吐き出された喘ぎまでも上書きするように塞がれてしまい、それはいつものような愛情表現でも愛撫でもない、本能のままに貪るようなキスだった。
イッテツもやがて快楽に身を委ねるようになっており、息ができない苦しささえも気持ちいいと思ってしまっているのだから、もうどうしようもない。
リトの大きな手で耳を塞がれてしまっているせいでこもった水音が反響し、その感覚にすら震えるほど感じてしまう。ぞく、と跳ねる背中をもう片方の手で抱き寄せられ、安心のあまりじんわり染み込むような絶頂に陥ってしまった。
「ッん、ふ……っ♡ はっ、はへぇっ……♡ っんぁ♡ ん、んン゛……♡♡♡」
「──ぷはっ……、は……ッ、ぁーー……かわい、……好き。な、テツ……好きだよ」
「んぅう゛……っ!?♡ ぁ……お、れも♡♡ 俺もリトくんが好き♡ だいすきぃ……っ♡♡」
「ふ、……ほんっとかわいいなあ、お前……♡」
どろどろに溶けた甘い声がふたつ、重たい水音の間で響き合う。深く長い絶頂を繰り返すイッテツはもはや気をやっていない時間の方が短くなっており、その分の内壁のうねりはリトを追い詰めてもいた。
ひときわ強い締め付けのあと、リトはこみ上げる射精感に小さく呻いた。
「っふ……な、テツ……っそろそろ俺、イきそうなんだけど……」
「ぁ、……っ♡♡、……っいいよ♡ だして♡ 俺のなか、きみのでいっぱいにして……♡♡♡」
もはや意識を保つことで精一杯のイッテツは記憶を頼りにどうにか射精を促す言葉を並べ立て、痙攣の収まらない脚を腰に巻きつけ、あらゆる手を使って中に出せと誘う。
射精直前でIQの著しく下がった脳でこんなことをされてしまえばリトの強固な理性をもってしてもなす術などない。リトは歯を食いしばり、乱暴な腰遣いでめちゃくちゃに最奥を穿った。
「〜〜〜ッ、ぁ゛ーー、出るっ♡ 一番奥に出すからな……ッ!」
「うんっ♡ ……〜〜ッあ、俺もイく♡♡ 深いのくるっ……♡♡♡ リトくんっ♡、リトくん……っ♡♡♡」
「ッ、テツ……っ!」
ほころんでいた奥への思い切り叩きつけ、びゅるる〜〜っ!♡ と勢いよく吐精する。焦らされていた分それは重たく痺れるような快感を伴い、リトは「はぁ、ッ♡」と瞼を閉じて感じ入った。
行き止まりの更に奥を抉るような勢いで精を放たれたイッテツはというと、肉体的な快感と直接注ぎ込まれている興奮とで快楽物質がじゅわじゅわ弾け、脳が焼き切れるような絶頂を叩き込まれていた。ただでさえ曖昧だった意識が、ぐらりと途方もない多幸感へ沈んでいく。
「──っく……はっ、はーっ、はーッ……♡ ……ぁ、テツ、落ちた……?」
「…………♡、」
ようやく平素を取り戻したリトが呼びかけてみても、イッテツの瞳はあらぬ方を向いたまま戻ってこない。頬をぺちぺち叩いてみても反応はなく、そのうち瞼も降りきってしまった。
──マジか、人って本当にこんなんになるのかよ。気を失いながらも未だに身体の色んなところを痙攣させるイッテツに少しよろしくない感情が芽生えかけ、慌てて脳内で打ち消した。
思い出したように埋めたままだった怒張を引き抜くと、イッテツは「ッふ、ぅ゛……っ♡」と上擦ったような声を漏らして背筋を震わせた。顔を見てみても起きたようには見えず、ただ身体が勝手に反応してしまっただけらしい。
閉じきらないそこからどろりと溢れる白濁を見て、リトは自分で若干引いてしまった。
「……出しすぎだろ、俺。……あ゛ーー……やっちまった……」
頭が冷えて冷静になってくると、恋人を乱暴に扱うばかりか、かなりの無理をさせてしまったことへの罪悪感が押し寄せてくる。
眉間に手を当てつつ見下ろせばイッテツはもう穏やかな顔で眠っており、すうすうと寝息を立てている。その寝顔を、心の底から愛おしいと思った。
「……まあ、許してくれんだろ。こいつ俺のことめっちゃ好きだし」
リトはにやけるのを堪えつつため息を吐き、横抱き──いわゆるお姫様抱っこで抱き上げて 風呂まで連れていってやることにした。男同士でのやり方はネットで何度か調べたくらいだが、確か直腸に精液を残すと腹痛の原因となると書いてあった気がする。
濡れたまつ毛に涙の乾いた頬、張り付いた髪に涎の垂れっぱなしになった唇でさえかわいく思えてしょうがない。明日の任務が終わったらまた会いに来てやろうかな、なんて相変わらず色惚けた頭で考えつつ、赤くなった鼻の先へとキスを落とした。
§ § §
「……ねー、マナぁ。あれ、何してるんだと思う?」
「んー?」
マナは言われるままデスクから顔を上げ、ソファに座っている2人の方を見た。
何気ない会話の最中にまずイッテツがリトの目をじっと見つめ、次にリトもそれを見つめ返す。しばらくすれば笑いが堪えきれなくなってきて、しまいには2人でクスクス笑い出してしまう。
──というのを、もうずっと繰り返している。
キスまで行けばさすがに声をかけられるが、今ではただ見つめ合ってニヤニヤしているだけなのでそうもいかない。ウェンはむず痒そうに腕をさすりながら、ただでさえ鋭い瞳孔をキュっと細めた。
「え、ねぇここアジトで合ってる? 公共の場だよね一応? 僕たち何を見せられてんのあれ??」
「……今時小学生でもやらんなぁ、あれは……」
少し耳を澄ませてみただけでも聞いたことのないような甘い囁き声が聞こえてくるので、ウェンは聴覚情報をシャットアウトすることにした。
「つうかさ、テツって今日の任務午前中だけだったよね?」
「せやな。その報告書を俺が今書いとるんやから」
「じゃあなんでアジトにいんの?」
「…………さぁ?」
共有スペースで同僚ふたりがデロンデロンに甘ったるい雰囲気でいちゃいちゃしているのは目に余るものがあるが、それより最近の彼らを思い出すと、どうして一晩でああも仲睦まじくなったのか不思議でならない。
最近のあの2人はというと、視線は交わらず、会話は短く、どちらかが相手を切なげに見つめ続けて、しばらく経ってから諦めたように目を逸らす──というような感じだったというのに。
──ああいや、やめておこう。昨日の2人に何があったのかを想像するのは。
冷静な思考を取り戻すためかぶりを振ったマナは、デスクに戻るついでにもう一度2人の姿を視界の端に入れておく。リトとイッテツは相変わらず和やかに笑い合っていて、見ているこっちが恥ずかしくなってくるくらいだ。
……どう考えてもすれ違っているのにお互い干渉することさえなかった頃に比べれば、それは随分とマシなように思えた。
「……まぁ、険悪なよりはええやろ」
「んぇーー……? ……もう、しょうがねぇなぁあのピュアボーイどもはよぉ」
缶コーヒーを片手に管を巻くウェンを宥めつつ、マナは未記入事項の多いテンプレートにカーソルを合わせる。
『アジトにアツアツバカップルのための個室を用意してやってください』と打ち込みかけて、さすがにやめておいた。
コメント
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あーーーー↑↑↑ よくないですマジでどタイプすぎて死にかけました! rt君が一番深い事考えてるの解釈一致すぎる。 ありがとうございます😭
すんげぇ好きなシチュです、1回墓で永眠してきます、主様のおかげでいい夢が見れそうです、ありがとうございます(^ω^)腐腐腐
あっかん………… このクソ甘ったるいバカップル感………ほんま大好き………… え?主さん天才???いや天才やね 結婚する????いや、祭り上げるか( ˙-˙) とにかくめちゃくちゃ好きです ありがとうございました、無事死にました