チリリリン…チリリリン…ガチャ
「あれ…もう朝?」
目覚まし時計を止めると、勢いよくベッドから飛び起きる。
眠い目を擦り、制服に着替える。
シャツの第1ボタンは開けて、リボンではなくネクタイを緩く締める。スカートは短くして履いた。
慣れない自室の全身鏡に姿が映る。そこには見た事の無い自分が居て、なんだかワクワクしながら家を飛び出た。
見慣れない街。病院、ファミレス、海、ショッピングモール。
桜並木を走り抜けてく。春風を胸いっぱいに吸い込むと深く息を吐いた。
スクールバッグの持ち手をしわくちゃになるぐらい握りしめて緊張した心を鎮ませる。
自分の家よりも何倍も、何十倍も大きな学校に少し不安を覚えながら、校門を通った。
「ちょっと!そこの新入生の子!」
大きな声に驚き、 振り向くとそこにはキリッとしていて、カッチリしている生徒会の人が居た。何だか安心する顔つきに違和感を感じていた。
「ねえ…聞いてるの?」
「あ…おはようございます!」
よく分からないので適当に挨拶をしてみた。
その生徒会の人は困った様な顔をして、ため息を付いた後、教室に案内してくれた。
「教室…」
周りを見ても全員知らない人。
みんなそれぞれグループを作って仲良く話していた。1人虚しく孤独感に苛まれていると、女の子が話しかけて来てくれた。
「ねえねえ…ちょっと失礼だけどさ、話す人いない?ここに引っ越してきたの?」
「あ…うん!話す人いなくてさ」
「私もいなくてね、そういえば、名前なんて言うの?」
「渡海鈴蘭。よろしくね」
名前を誰かに言うなんてとっても久しぶりだった。懐かしさを感じながら女の子の名前も聞いた。
「モブ子だよ!よろしく」
その後はホームルームの時間がくるまでずっと話していた。
入学式。その時の事は緊張していてあまり覚えていない。ただハッキリ覚えてる事と言えば…生徒会の挨拶の時だ。
生徒会の人達が舞台に登ってきた。
先頭の人から順番に顔を見ようと思っていたが、その視線は先頭の生徒会長に止まった。
「生徒会長…春風夜空……」
生徒会の挨拶をぼんやり聞いていたが、生徒会長の名前を聞いた時、頭がハッキリと冴えた。
「夜空…?」
朝に話しかけられた生徒会の女の子は生徒会長だったのかと思いながら、聞いた事のある名前を古い記憶の中から探った。
私は生徒会長。晴風夜空。私は今、花崎高校の体育館の舞台で生徒会をまとめて挨拶をしている。
「春の風が吹き、桜並木が揺れる今日この頃………」
噛まないようにと気を張りながら台本をスラスラと読み上げる。新入生の顔を見つめる。
そこには見覚えのある女の子がいた。
いや、今日の朝会ったし…
そんな事を考えているが、やはりおかしい。
異様に彼女の顔に見覚えがある。懐かしいなんてほぼ初対面の人に思うはずが無い。
そんなこんな考えながら挨拶が終わった。
そのままぼんやりとあの新入生の事を考えながら入学式が終わった。
「生徒会室行ってみよーかな」
気が抜けてぼーっとしながら思いついた。
見た事はある。けど思い出せない。
そもそも違う人かもしれない。
そう考えると怖くて行けなかった。
でも生徒会長も覚えてるかもしれない。
そう考えたら、なんだか本当に生徒会室に行きたくなってきた。
「行ってみるか…」
沢山の教室。何に使うのか分からない様な教室も沢山あった。
教室を通り過ぎていく。
生徒会室
あまり人の通らない端っこにあった。
緊張で震える手を握りしめて、ドアを開けた。
「失礼します」
「1年3組の渡海鈴蘭です」
「はーい、御用件は……あ」
「えと、こんにちは!」
出てきたのは生徒会長だった。
尚更緊張しながら話そうと思った時。
「ねえ…すず…だよね?」
「?!」
親ぐらいしか呼ばないその呼び名。
前の違和感が吹き飛んだ。とても懐かしい。
夜空はちっちゃい頃に少し遊んでいた子だ。
ちょっと悲しいが、夜空以上に仲良く出来た子はいなかった。
きっと覚えてる。そう覚悟を決めて言った。
「久しぶり。夜空…先輩!」
うっかり先輩と付けるのを忘れそうだった。
危ない危ない。そんな事を考えていたが、夜空は少し寂しい目をしていた。
なんとなくその理由を察すると、話を続ける。
「しょうがないじゃん。実際に先輩なんだからさ」
「そうだね…久しぶり。すず」
「うん!」
心の底から安堵すると、夜空は生徒会室に入れてくれた。
大量の本が置いてある。そう思っていたが、全部学校に関する資料らしい。
生徒会室の椅子に腰掛けた。
「私は資料の作成しなきゃだけど雑談ぐらいなら出来るから」
「資料作りかあ…がんばって!」
その後はずっとくだらない話をしていた。
鈴蘭の青春はこれから始まる!
「入学式」終
入学式から1週間。そして2人が再開してから1週間。
そろそろ2人でお出かけにでも行ってみたい。だって、2人はずぅっと生徒会室に入り浸って雑談をしているだけだったから。
2人以外だれもいない教室。静まり返った学校。吹き曝す風。2人はお出かけの予定を立てていた。
どこに行こう。ショッピング、映画館、ゲームセンター、カフェ、ぐるぐると頭を回して考えた。
「ねえねえ…ショッピング行かない?」
「ショッピングかあ…」
「ショッピングって何するの?」
ずっと病院に居た鈴蘭はふと聞いてしまった。夜空はそんな返事が来るとは思わずに驚くと、少し悩んでから話し始めた。
「なんでもいいんだよ」
「なんでも…」
ショッピングでやることなんて何もかも思いつかない鈴蘭はなんでもと言う言葉に困惑していた。
「じゃあ今回は私が近くのショッピングモールで色々案内してあげるよ!」
「てか、あんまりお出かけ行ったことないの?」
「あはは…あんまり外に出なくてさ」
「そうだったんだ…ならしょうがないね」
「うん……案内よろしく」
鈴蘭は適当にお出かけをしない理由を考えた。実際は入院してたからだがそれを隠す。
なんとなく知られたくなかった。
そう思っただけ。
ショッピングモールで何をしよう。そう考えただけで心が踊る。嬉しい。楽しみ。
普通の人からしたらただのショッピングだが、鈴蘭は違う。子供の頃からずっとしたかったけど出来なかったモノだ。
夜空との再会があってこそ出来た事なんだろう、そう思うと無理にでも退院して良かった。心の底からそう思った。
友達とショッピング。これはお母さんに言わなきゃ、そんな事を考えていた。元々友達なんていなかったのに友達とショッピングなんてまた夢の夢だった。
ふと横を見ると、夜空が真剣な顔で資料を作っていた。何を作っているのかと覗いてみると、お金管理?の資料を作っていた、きっと委員会や部活のお金の資料なのか…そう勝手に結論付けると、もう1度夜空の顔を見る。
さっきの真剣な顔は無くなり、気の抜けた優しい顔になっていた。その顔をじーっと見てると、それに気付いた夜空は少し困惑して、首を傾げていた。
「ふふっ!夜空もそんなに気の抜けた顔するのね!」
「あ…そうだった?」
これは2人きりの生徒会室での出来事。
昼間のシャキッとした2人とは違う、気が抜けて、口調も砕けた2人ののんびりとした会話だ。
「生徒会室の雑談」終
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