🎭第4話「秘密の練習」
文化祭を一週間後に控えた放課後。
教室の隅では、クラスの出し物の準備であちこちが騒がしい。
ゆい「えっと、装飾の担当は……」
プリントを眺めていると、不意に背後から声が落ちた。
類「ゆいくん。君、少し時間ある?」
ゆい「うわっ、びっくりした!……なに?」
類「ちょっと見てほしいものがあってね。」
まただ。
この人の“ちょっと”が、“大ごと”じゃなかった試しがない。
それでも、断れない。
気づけば、類に連れられて音楽室に立っていた。
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ゆい「で、見せたいものって?」
類「これだよ。」
ピアノの前に置かれた一冊の楽譜。
表紙には手書きで「新作劇:ふたりのセカイ」と書かれている。
ゆい「……劇?」
類「文化祭でやる予定の舞台。君に見てほしくて。」
ゆい「わたしが?なんで?」
類「君が“ツッコミ役”として完璧だから。」
ゆい「……褒められてる気がしない。」
でも、その笑顔に敵わない。
類はピアノの鍵盤をそっと押しながら、優しい音を響かせた。
類「ねぇ、ゆいくん。
少しだけ練習、付き合ってくれない?」
ゆい「……台詞の?」
類「そう。君が“恋に落ちる役”なんだ。」
ゆい「えっ、は?」
唐突な言葉に、息が止まった。
類はまるで何でもないように、真っすぐ彼女を見る。
類「君が僕の目を見て、“好き”って言う場面があるんだ。
練習しないと、リアリティが出ないからね。」
ゆい「な、なんでそんな……リアルに……」
類「本番に弱いタイプだろう?慣れておく方がいい。」
言い返す間もなく、類はゆいの手を取った。
指先が触れた瞬間、心臓が跳ねる。
類「じゃあ、リハーサル開始。」
ゆい「え、待っ――」
視線が合う。
類の瞳は、いつものふざけた色じゃなかった。
類「……ゆい。僕は――君が好きだ。」
静かな音楽室。
響いたその言葉に、ゆいは声を失う。
ゆい「ちょ、ちょっと待って!練習でしょ!?今の!」
類「もちろん、練習だよ。」
笑いながら言うその声が、少しだけ掠れていた。
ゆい「……類。」
類「なに?」
ゆい「……顔、近い。」
類「だって、君が逃げないんだもの。」
息が触れそうな距離。
目を逸らすことも、できなかった。
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ピアノの音が、最後の和音を奏でる。
残ったのは、静寂とふたりの鼓動だけ。
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次回、第5話「舞台の幕が上がる」🎬
――“練習”のつもりだった台詞。その意味を知る日が来る。







