第5話「言葉の温度」
放課後の教室。
窓の外はオレンジ色で、影が少しずつ長く伸びていく。
「……ねぇ、類。明日の発表、練習しなくていいの?」
「もちろん。完璧な僕にリハーサルなんて不要だよ」
「またそういうこと言う……真面目に言ってるの?」
呆れ半分でツッコミを入れたはずなのに、
その口調がいつもより少し強かった。
自分でも驚くくらいに。
「……怒ってる?」
「怒ってないよ。ただ……そうやって冗談ばっかりだと、わかんなくなる」
「わからない?」
「ほんとに何を考えてるのか。何が本気なのか」
一瞬、静かになった。
教室の時計の針の音がやけに大きく響く。
「……そうだね。僕、いつも演じてるから」
「え?」
「でも、ゆいにはバレてる気がしてた。だから、怖くて。
君の前でも“本当”を出したら、壊れそうで」
その言葉に、胸の奥がじんと熱くなった。
言葉の温度が、確かに心に触れていた。
ゆいは一歩、彼の方へ近づいた。
机越しの距離が、ほんの少し縮まる。
「……壊れないよ。私が、ちゃんと支える」
類は驚いたように目を見開いて──
次の瞬間、ゆるく笑った。
「……君って、ずるいね」
「なにそれ」
「僕の台詞、取らないでよ」
ふたりの笑い声が、夕焼けの中に溶けていった。