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結婚式と戴冠式を兼ねた式典の当日。この日はレンティの18歳の誕生日でもある。
レンティは王位継承とアレンとの結婚のために、この日にセンティとリィラの殺害を企てている。
式典そのものを自分のものにすり替えて奪おうとするレンティの企みは、すでにゼンティもリィラも知っている。
「リィラちゃん、綺麗だよ」
「ゼンティも素敵」
控え室で純白のウエディングドレスを纏うリィラと、白のタキシードに身を包むゼンティ。
今の二人には不安も恐怖もない。純粋な笑顔でこの時を迎えていた。
そんな二人の周りをヒメが嬉しそうに走り回っている。
「ふふ。ヒメちゃんもお祝いしてくれて、ありがとう」
最近のリィラは、ヒメの心が分かるようになってきた。同じ獣魔だからなのか、言葉ではなく心で会話ができている気がする。
そんなリィラに向かってゼンティは笑顔で片手を差し出す。
「さぁ、リィラちゃん。精一杯楽しもうね。僕たちの結婚と復讐を」
リィラも晴れやかな笑顔でゼンティの手を握り返す。
その頃、別の控え室ではレンティとアレンが漆黒の衣装に身を包んでいた。
ゼンティとリィラの純白とは対照的に、レンティは黒のドレス、アレンは黒のタキシード。
レンティは式の頃合いを見てセンティから王位を奪い取り、そのままアレンとの結婚式を挙げる予定でいた。
アレンは感情のないブラウンの瞳を伏せてレンティに跪く。彼の金髪がレンティの眼下で美しく煌めく。
「レンティ様。お誕生日おめでとうございます」
アレンはレンティの片手を手に取ると、その白い手の甲に口付けを落とす。
レンティは、うっとりと愛するアレンの所作を見つめて満足そうに目を細めて微笑む。
「今日は記念すべき日になりますわ。18の誕生日にして王位継承、邪魔なお兄様を亡き者にして、アレンと結婚するのですから」
アレンは顔を伏せたままで眉をひそめる。アレンにとっても偽りの愛と忠誠は今日で終わる。
いつも近くでレンティの狂気を見てきたアレンこそが、誰よりも彼女への憎しみが強いかもしれない。
だからこそ、アレンは最後まで完璧に演じ切る。復讐劇の役者の一人として。
結婚式と戴冠式はアディールの王城の大広間で執り行われる。
国内外の王族や貴族が招待されて、兵士たちも総動員で警備にあたる。国を挙げての大規模な式典となる。
式の開始前に、ゼンティとリィラの控え室に思わぬ来客が訪れた。
「ゼンティ、リィラちゃん、きたぞ~!!」
「あらぁ、リィラちゃん素敵なドレス! ゼンティも素敵よぉ~! お母さん嬉しいわぁ」
腕を組んで部屋に入ってきた二人は、見た目もゼンティにそっくりな銀髪の夫婦、ベスティとスティア。ゼンティの両親だ。
「もぉ、父さん、母さん。ここでは僕は『センティ』だよ」
「えっ!? ゼンティ、ご両親も招待したの!?」
「うん、もちろん。晴れの日だからね」
まさかベスティア国の王と王妃である両親が、アディール国まで来るとは思わなかった。
アディール国とベスティア国に国交はない。それどころか、人の体を得る獣魔とベスティア国の存在自体が一般には知られていない。
しかしゼンティには、両親をここに招待した事にすら意味があり意図がある。
そうして結婚式が始まるが、新郎ゼンティと新婦リィラがメインテーブルに着席するところまでは至って普通。何も起きなかった。
それどころか、リィラは見せつけるようにしてゼンティとイチャつきながら料理を食べ始めた。
「センティ、これ美味しいよ。はい、あーんして」
「あ、リィラちゃんのそれ飲みたいな。少しちょうだい」
礼儀作法など一切無視で、二人はわざとらしく楽しい食事風景を見せてアピールしている。
二人に出された料理と飲み物には毒が盛られているが、それを承知で食べている。二人にとって毒は全く問題ではない。
獣魔のゼンティは毒が好物だし、毒の種族の獣魔であるリィラも同様。むしろ毒のスパイスで食欲が増す。
相手が人間だと思って、新開発の魔物用の毒ではなく、人間用の普通の毒を使用したレンティの詰めが甘かった。
離れたテーブル席からその様子を見ていたレンティの顔色が変わる。
「おかしいですわね……なぜ二人とも平気なの……」
レンティの隣に座るアレンはその言葉の意味が分かる。だが、あえて表情を変えずに反応しない。
ゼンティとリィラは毒入りの料理を普通に食べ続けている。リィラが毒の種族だとしても、ゼンティが獣魔である事をレンティは知らない。
レンティは食事用のナイフを片手に握ると急に立ち上がる。そして堂々と新郎新婦の席の前へと立つ。
客席の方を向くと、注目を集めようと声を張り上げる。
「皆様、お聞きになって!! 新婦のリィラ様は毒を持つ種族ですのよ!!」
会場内が、しんと静まり返る。王女であるレンティの発言を止めようとする者なんて誰もいない。
今ではアディール国の兵団すらもレンティの味方なのだから、彼女には恐れる者なんていない。
「アディールに忌まわしい毒を持ち込んだお二人の結婚は認められませんわ!!」
レンティはまず、二人の結婚を破談させる事から行動を起こした。その流れで王位を奪い、後で二人を処刑すればいい。
リィラは動じずに静かに立ち上がった。そのリィラの背中を見届けるゼンティの瞳にも光はない。
レンティの横にリィラが立つ。レンティはリィラの片腕を掴んで引っ張り、素肌の腕にナイフを突きつける。
「皆様に証拠をお見せいたしますわ。リィラ様の血の色をご覧くださいませ」
レンティはリィラが毒の種族だという確信を持っている。毒入りの料理を食べても影響がないのだから。
手に持ったナイフでリィラの腕を切りつけようとした瞬間、その片腕が動かなくなった。
いつの間にか背後に回っていたアレンが、後ろからレンティの腕を掴んで制止していた。
「なっ……アレン!?」
「レンティ様、式の最中です。お控えください」
アレンはレンティの手からナイフを奪い取るが、レンティは納得いかずにアレンに何かを言い返そうと構える。
アレンはメインテーブルに置かれたグラスを手に取るとレンティに差し出した。その飲み物には毒が含まれている。
「落ち着いてください。お飲み物でもどうぞ」
「……!!」
毒が盛られている事を知っているアレンが、なぜそれを飲ませようとするのか。レンティは訳が分からない。
レンティが戸惑って動けずにいると、アレンはそのグラスの飲み物を自分の口に含んだ。
「アレン、だめですわ、それには毒が……!!」
レンティがアレンを引き止めようと手を伸ばすと、その手をアレンが掴んで強く引き寄せた。
あっという間にアレンの胸に抱かれる形になって驚いたレンティが顔を上げる。
アレンの瞳の色は、いつものブラウンではなく赤。その魔物の赤い瞳と目が合うと、アレンに強引に唇を重ねられる。
「……んっ!?」
口移しによって毒の飲料を口に流し込まれたレンティは、両手で力いっぱいアレンの体を突き放した。
「げほっ、げほっ……! はぁ、はぁ……」
飲まされた毒を吐き出そうと咳き込む。幸い、それほど飲み込んではいないが少し痺れが残る。
赤の瞳を持つ魔物のアレンは、床に座り込むレンティを感情もなく見下している。
「忌まわしい毒を持ち込んだのはレンティ、お前だ」
「アレ、ン、あなた……」
レンティは未だに気付いていない。アレンの演技も、偽りの愛も、そして復讐にも。