テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
ここで、動かずにいたゼンティがようやく立ち上がった。リィラと向かい合うと、その両肩を掴んで引き寄せる。
「僕たちの誓いのキスを見せてあげるよ。さぁ、みんな見て!!」
……そんな事ができるはずがない。レンティはそう確信していた。
毒の種族とキスをして有毒な唾液を飲み込んでしまったら、普通の人間は死んでしまう。
「リィラちゃん。僕は君に永遠の愛を誓うよ」
「はい、センティ。私も永遠の愛を誓います」
誓いを述べた後に二人は互いの唇を深く重ねる。長く、見せつけるように、疑う余地もないほどのキスで。
二人はキスを見せつける事で普通の人間である事をアピールして、レンティの信用を落とす意図があった。
当然、キスが終わってもゼンティには異変がない。どさくさに紛れてリィラの毒を吸ったゼンティは満足そうに微笑んだ。
「そ、そんな、なんで平気なの……」
この状況にレンティは言い訳すら思い浮かばない。客人たちの冷めた目は、もはやレンティの言葉を狂言としか受け止めていない。
さらにリィラが一歩前に出て客人たちに向かって大声で語りかける。
「皆様。私、リィラは懐妊しました事をご報告させて頂きます」
「なっ!? そんな、ありえませんわ!!」
咄嗟に否定の声を上げるレンティだが、リィラは小声で言い返した。
「疑うなら検査をすれば分かります」
毒の種族であれば当然、普通の人間とは交われない。子を成す事など不可能なのだ。
しかし、リィラの自信に満ちた発言に嘘はなさそうに見える。おそらく懐妊は真実だろうとレンティは認めるしかない。
追い打ちをかけるように、次はゼンティがアレンの横に並んでレンティを見下す。その瞳は、やはり魔物の赤い瞳だった。
「ねぇ、レン。なんで僕が今日まで君を殺さずに生かしたか分かる?」
「え……?」
復讐が目的ならすぐに殺せばいい。すぐに殺さない考えはレンティの企みと同じ。生かして『利用』するためだ。
その時、激しい衝撃音と共に会場の壁が破壊された。そこから侵入してきたのは、黒い熊の姿をした巨大な魔物だった。
「うわぁぁ!! 魔物だ!!」
「みんな逃げろ!!」
客人たちは一斉に席を立って駆け出すと、式場の出入り口から外へと逃げていく。
式場内には兵も大勢いるが、なぜか彼らは戦いも逃げもせずに動こうとしない。
「何してますの!? はやくあの魔物を始末なさい!!」
レンティが叫ぶが、それでも周りを取り囲む兵たちは全く動かない。よく見ると、その兵たちの瞳も赤く光っていた。
今までゼンティとの戦いに破れて暗殺に失敗した兵たちは、森で獣魔に捕食された。獣魔の体となった兵たちは、そのままアディール城へと帰っていた。
魔物に入れ替わっていたのはセンティとアレンだけではない。レンティの味方であったはずの兵団は、今では獣魔王ゼンティの下僕になっていた。
魔物はゆっくり歩いてレンティに近付く。毒で痺れているレンティは床に座ったままで身動きが取れない。
そんなレンティを見てゼンティは楽しそうに笑う。
「レン。丁寧にヒメの餌にも毒を盛ったよね。見てよ。おかげでヒメは成長したよ」
「え……ヒメ……? あの子犬……ですの?」
目の前で牙を剝く獰猛な魔物はヒメだった。獣魔にとって毒はご馳走。ヒメは毒を盛られた餌を食べて急激に成長した。
そこでリィラも席から立ち上がると、恐れる事なくヒメの側に寄って黒い毛並みに触れる。
二本足で立つ大熊のようなヒメは、今ではリィラの身長よりも遥かに大きい。魔物の姿の時のゼンティとそっくりで、さすが兄妹だと思った。
「ヒメちゃん、18歳の誕生日おめでとう。大人になったね」
今日はレンティの18歳の誕生日であり、ヒメの18歳の誕生日でもあった。同じ誕生日の二人は同時に成人した。
獣魔は成人すると、生きた人間を捕食して体を得る能力が備わる。レンティを今日まで生かした理由は、ヒメに捕食させるためだった。
そんな魔物のヒメの背後から顔を出すように、二人の人物がレンティの前に現れた。ゼンティの両親、ベスティとスティアの夫婦だ。
二人を見たレンティは、ヒメへの恐怖よりも強い衝撃を受けて叫ぶ。
「お父様っ!? お母様っ!?」
ベスティとスティアは、元はアディール国の王と王妃であった。つまり、センティとレンティの両親である。
だが二人は、魔物の大量毒殺の報復として獣魔に捕食され殺された。そうして二人の体を得たのが、ゼンティの両親。
今のベスティとスティアは、レンティの知る両親ではない。両親の姿をした獣魔であり、ベスティア国の王と王妃であった。
「やぁ、レン。久しぶりだね、お父さんだよ。相変わらず悪い事してるね、まったく誰に似たのかなぁ」
「ふふ。はやくレンもベスティアにいらっしゃい。良い国よぉ~」
ベスティとスティアは、レンティに向かってわざとらしく本当の両親のように接する。その赤い瞳にレンティに対する同情はない。
この場にレンティの味方は誰もいない。誰もが公開処刑のように捕食される場面を見届けるためにいる。