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✦『しんちゃんの“特別”の基準は、風間君だけズレている。』
昼休み。
教室の隅で風間君は勉強ノートを広げていた。
進学校だから、みんな勉強はする。
でもしんのすけだけは——
「風間君〜。今日の購買パン、買ってきたゾ」
そう言って自分の席でもないところへ当然のように座り込み、
勝手に袋を開け始める。
「ちょっ……!なんで勝手に風間君の席くるの!?」
「え〜?だって愛しの風間君の隣が1番座り心地いいんだもん」
「愛しのって言うな!!」
顔を真っ赤にしながらも席を立てない風間君。
しんのすけは当然のように
風間君の机の端にパンをひょいっと置いた。
「ほい、風間君の好きなコロッケパン〜!」
「……え?買ってきてくれたの?」
「うむ。オレの“特別リスト”に入ってる人には買ってきてあげるのだ」
「特別……!?
ま、まさか……オレ以外にもいるの……?」
急に不安になって、小声で聞く風間君。
しんのすけは顎に指を当てて考えるふりをしたあと——
にやっと笑って、
「風間君しかいないゾ?」
「っ……!?」
その瞬間、暴れ出しそうな心臓を抑えながら
風間君は机の下で拳を握った。
(な、なにそれ……
反則じゃん……!!)
そんな風間君の反応を楽しむように、
しんのすけはパンの袋を開ける。
「ほら、あーん」
「無理!!教室!!今教室だよ!?」
「じゃあ、食べさせてくれる?」
「……っ、やめて……!!」
赤くなりながら顔を背ける風間君。
でも手はパンを受け取っている。
しんのすけは笑った。
「風間君はかわいいなぁ〜」
「かわい……!?誰が……だれが!!」
「風間君がたゾ??知らなかった?」
「知らないよ!!」
“知らされてないだけで、
ずっと誰かにそう思われてたこと”に
慣れていない風間君。
しんのすけは、そんな彼を見つめながら
ふと真顔になった。
「……風間君。
オレ、風間君のこと大事にしてるの、知ってた?」
「……え……?」
急に真面目な声。
風間君の胸がひゅっとなる。
しんのすけは少しだけ視線をそらし、続けた。
「オレさ、誰でも“特別”って言うタイプじゃないんだゾ。
でも……風間君には、なんか、言いたくなる」
「……なんで……?」
「ん〜……なんかね。
風間君だけは、他の誰とも違うから」
風間君の呼吸が止まる。
ふたりの距離は教室の空気とは思えないほど近くて、
誰よりも静かで、甘くて、くすぐったい。
次の瞬間。
「風間ーーー!!!プリント届けて!!」
先生の声で、風間君はビクッと飛び上がった。
「は、はいっ!!」
慌てて席を立つ風間君を見送りながら、
しんのすけは小さくつぶやいた。
「……ほんと、かわいいな」
風間君には聞こえていない。
でも、そのひと言が
ふたりの関係をまたひとつ動かしていた。