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「エリス、今のお前は一人じゃない。俺やリュダが居る。我慢する事も無いし、一人で背負い込む事も無いんだ。苦しい時は苦しいと吐き出せばいい。辛い時は辛いと言えばいい」
話し終えたギルバートはエリスの肩を抱くと、そのまま自身の方へ引き寄せた。
「俺をもっと頼れ。遠慮はいらない。弱い部分も、醜い部分も、どんな事でもいい。全てを俺に曝け出してくれ。俺は、お前の望む事を、してやりたい」
「…………ギルバートさん……私、もっと求めてもいいんでしょうか? 我儘を言っても、良いのでしょうか? 心にある、色々な感情を、吐き出しても、いいのでしょうか?」
「ああ、良いんだ。言いたい事は何でも言え。して欲しい事があれば、遠慮せずに言ってみろ。俺で出来る事ならばどんな事でも叶えてやる。それに、どんな醜い感情でも、お前の全てを知りたい。それを知って嫌いになる事など有り得ないから、安心しろ」
ギルバートの元へ身を寄せるようになったエリスは、本人も気付かないうちに心のどこかで壁を作っていた。
味方のいない環境で日々を過ごしていれば、自然とそうなってしまうのかもしれない。
信じられるのは自分だけ、自分の苦しみや悲しみなんて誰にも分からないと諦めていたのかもしれない。
けれど、ギルバートのくれる言葉や行動にはいつも温かさがあった。
それを感じていたからこそ、自分の弱い部分や醜い感情を見せて嫌われてしまう事が怖かったのだ。
そして必然的に遠慮をしてしまい、一人で抱え込んでいた。
心のどこかでは、気付いていたはずなのに。
信用出来るのも、心を許せるのもギルバート一人だけだという事に。
「……私、怖いんです! お父様が殺されたと知ったあの日から、アフロディーテやシューベルトを殺さないと気が済まなくて、夢で何度も見るんです! 彼らを手に掛ける、自分の姿を……血まみれの中で、笑みを浮かべる自分の姿を……。ここまで人を憎んだのは初めてで、それをセーブ出来ない事が、怖いんです……」
そしてエリスはようやく、今一番悩んでいた事を口にする事が出来たのだ。
「大切な者を殺されて復讐をしたいと思うのは当然の感情だ。心優しく、人を憎まないお前ならば、怒りを抑えきれなくなるのも無理は無い」
「……っ」
「お前が落ち着くまで、こうして抱き締めてやる。悪夢に魘されたら、俺がすぐに起こしてやる。眠るのが怖いなら、共に起きていよう。何も恐れる必要は無いから安心しろ」
ギルバートはエリスを安心させる為に一人では無い事、いつでも自分が傍に居る事を伝え続けた。
そんなギルバートの言葉に少しずつ不安が取り除かれていったエリスは心を落ち着かせる事が出来たのか、乱れていた呼吸が整っていく。
そして、心地良い温もりと気持ちの良い空気に身体も心も癒やされたエリスの瞼は下がっていき、次にギルバートが声を掛けようとした時には規則正しい寝息を立てていた。
それを見たギルバートはエリスを起こさぬよう、すぐ側に置いていたブランケットを手に取ってそれを彼女に掛けると、自身も目を閉じた。
(言葉はいくらでも掛けてやれるが、やはり元を絶たない事にはエリスの心は癒えないだろう……時間を掛けて確実に奴らに制裁を加えてやりたいが……それだとエリスの心が持たない……早急に手を打つしかないか……)
ギルバートは考える。
どうする事が、一番最善なのかを。
ギルバートにとって、人一人を手に掛ける事など容易かった。
けれど、復讐というのはただ命を奪えばそれで良いという訳ではない。
自分の過ちに気付かせるのは勿論の事、死にたい殺して欲しいと思うくらいに辛い毎日を生きさせ、その中で罪を償わせる事こそが最大の復讐だと思うのだ。
その為にはまず、自らの罪を認めさせなければならない。
裏で小細工をするような輩が簡単に罪を認める訳が無いと分かっているからこそ、ギルバートは悩んでいた。
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