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(何にしても、失敗は出来ない。奴らの前に俺たちが姿を見せるその時は……)
「ギルバート、さん」
「!」
ふと、名前を呼ばれ我に返ったギルバートが目を開けると、そこには心配そうな表情を浮かべたエリスが居た。
「どうした?」
「いえ、その……目を覚ましたら、ギルバートさんが魘されているようでしたので……」
「俺が? ……そうか、悪かったな。大丈夫だ、問題無い」
「そうですか。それならば良かったです。あの、これ、掛けてくださってありがとうございます」
目を覚まし、いつも通りのギルバートを前にしたエリスはホッとしたのか笑顔を浮かべながら、ブランケットを手にしてお礼を口にした。
「冷えるといけないからな。さてと、そろそろ帰るとするか。日が暮れると気温が急激に下がるから、それはそのまま羽織っておくといい」
「はい」
リュダに水を飲ませ、帰り支度を済ませたギルバートはエリスと共にリュダに跨ると、薄暗くなっていく中をひたすら走らせていく。
「エリス、寒くは無いか?」
「はい、大丈夫です」
「そうか、何かあれば遠慮せずに言うんだぞ」
「はい」
時折エリスを気に掛け声を掛けるギルバート。
昼間とは違って日が落ちると急激に気温が下がり、風を切って走るリュダの上に乗っていると寒さを感じはするものの、エリスの身体は少し火照っていた。
ブランケットを羽織っているのはあるものの、ギルバートがすぐ後ろに座り、後ろから抱き締められている形になっているから。
勿論、リュダに乗る時はいつもそうだったのだけど、昼間のあのギルバートとのやり取りから彼に対する気持ちがエリスの中で少しずつ変わり始めていたのが原因だった。
「……何だか少し身体が熱いようだが……」
身体の火照りを指摘されたエリスは少し頬を赤らめると、
「た、多分、ブランケットを羽織っているのと、ギルバートさんの体温が温かいからですよ」
何かを誤魔化すように若干早口に言葉を紡ぐ。
「そうか? それならいいが」
「それよりも、ギルバートさんは寒くありませんか?」
「問題無い。この程度の気温ならば騒ぐ事も無いからな」
「そうですか、それならば良かったです」
ギルバートとの会話の中で、エリスの鼓動はどんどん速まっていき、そしてそれはこれまで感じた事の無い胸の高鳴りだった。
(私……どうしちゃったんだろう……)
自身の身体の変化に戸惑うエリスは、まだ自分の気持ちの変化に気付いていなかった。
これまで恋愛をして来なかったから無理も無い。
異性に対しての『トキメキ』というものが分からないのだから。
そしてそれは、ギルバートも同じだった。
彼はある年齢の頃から環境が変わり、そこに『愛情』なるモノは存在せず、彼もまた、恋愛とは無縁の世界を生きていたのだ。
だから、エリスの戸惑いや心の変化にギルバートは気付かなった。
リュダを走らせてから暫く、後もう少しで自宅というところで、ギルバートはリュダを止めた。
「ギルバートさん、どうかしたんですか?」
何故突然止めたのか分からないエリスが尋ねると、それとほぼ同時に一羽の黒い鳥が二人の元へ飛んできた。
「……鳥?」
「ああ、コイツはヒューイと言って、夜行性の鳥なんだ。伝書鳩のような役割を担っている」
「そうなんですね」
ギルバートは驚くエリスに説明をしながら、ヒューイの足に付けられている紙を取り外して中身を確認した。
役目を終えたヒューイが何処かへ飛び立って行く中、その手紙を読むギルバートの表情は特に変わる事が無いので、どんな内容なのかを想像する事が出来ないエリスはただ静かに見守っていた。
そして、
「……済まなかったな。帰ろう」
「はい」
手紙を読み終わったギルバートはそれをポケットにしまうと、再びリュダを走らせて家路を急いだ。