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「主様。これだ。香りが強い、美味そうだ」
「これか」
ムツキはナジュミネとアルを魔人族の町の近くに【テレポーテーション】で運んだ後に、クーとともに再度【テレポーテーション】で人族の荒れていた大地に着いた。しかし、荒れ果てた中で強く育っていた果実たちは、その乱立さを忘れたかのように整然として並び方で彼らを迎えていた。
「これはいくつ必要だ?」
「あー、これは人数分だ。だが、もう少しあっても良さそうな種類だな」
大きな葉っぱの一部写したものを見て、ムツキはそう呟く。彼は隣にいるクーをこれでもかと撫で続けている。
「そう言えば、ふと気付くが、人族でもないのに、人数分という言葉が魔人族でも妖精族でも浸透しているのは面白いな。あと、もう少し右の方が気持ちいい」
クーはユウと一緒にいることが多い。クー自身、ムツキとも一緒にいたいと思っている。しかし、そういう状況になることは少なかった。
「ここか? うりゃうりゃうりゃ。言語の発達は人族によるものが大きいからな。魔人族ももちろん、言葉の変化はあるが、人族ほどではないようだな。おそらく、人族は種としての統一性があるからこその言葉の変化があり、魔人族は種族がいろいろあるからこその言葉の統一が必要だったということなんだろう」
ムツキが少しばかり真面目な話をする。
「主様。前にも言ったように、真面目な話は分からん。話を始めたオレも悪いが、少なくとも、オレはそれ以上の興味がない。面白いのはさっき言ったところまでだ。分析も深掘りもいらない」
クーは釘を刺しながら、相変わらず笑みを浮かべた表情でそう言う。彼はどんな時も表情がほぼ変わらない。
「そうだったな。悪かった。俺はクーのモフモフに専念するぞ。本当、これだけしてたいな」
ムツキはクーの話に思うところがあり、納得して首を縦に振る。
「いや、仕事もしてくれ」
「これだって仕事だろ? 魔力を供給できるわけだから」
「そうか。分かった。ユウにオレから言っておこう」
ムツキが軽口で反論すると、クーもまた軽口で反論する。クーはケットやアルよりもルーヴァやラタに近いフランクさで接してくる。
「すみません。はい、真面目にやります。なので、どうか勘弁してください」
「冗談だ」
「っと、集まったな。次は移動するぞ。【テレポーテーション】」
ムツキとクーは【テレポーテーション】で移動する。そこはある人族の領地に近い山野だった。ここで取れる赤い果実は他の地域の同種よりも少し甘いので、この時期にムツキがよく取りに来るのだった。ユウもこれがお気に入りの1つだった。
「本当に自生地か? それにしては割と整えられている。人族の臭いもするな」
クーがそう言う。ムツキは不思議そうな顔をして、腕を組む。
「おかしいな。昨年はもっと鬱蒼としていたはずだ」
「ワン!」
「ん? 誰だ? ここはわしが任されているのだが」
「あ、すみません。1年前にここへ来たものです。前はもっとこう勝手に生えていて、自由に取れた感じなのですけど」
ムツキは突然現れた老人に説明をする。すると、老人は警戒していた顔をほぐして、ふっと小さく微笑んだ。
「……そうか。なら、好きに持っていけ。わしはここの管理者になったばかりだ」
「え、いいんですか?」
「いいも何も、わしの小さい頃はな、ここは勝手に生えているものをよく勝手に取ってオヤツにしたものだ。誰も怒るやつなんておらんかった。それをお偉いさんが開拓などと言って、領地を広げて我が物にしているだけだ」
老人は少し大きめの石の上に腰を掛けて、話を続ける。
「そして、今はわしが怒る役だ。しかし、最近の若い奴はそれすら知らんと思ったが、中々の悪ガキがいたもんだ。持っていけ。今日は気分がいい」
「ワン!」
老人の話にクーが反応する。尻尾をパタパタとさせている。
「お前もそこの悪ガキと一緒にこれを食べに来たのか。いくらでも持っていけ。どうせ、大半は国に二束三文で売るんだ。たとえ、数十個変わったところで何も変わらん。というか、全部持っていっても何も言わん」
「ありがとうございます」
「こちらこそ、ありがとうな。昔を思い出せたからな。……懐かしい味じゃ」
ムツキは老人に礼を言う。老人は赤い果実を1つ手に取って口に含んだ後、腰を上げてどこかへ消えていく。
「主様。良かったな」
「……世界に本当に必要なことってなんだろうな」
ムツキが神妙な面持ちでそう呟く。クーはいつもより少し笑ったように見える。
「なんだ。ユウが言うように、世界でも掌握するつもりか?」
「そういうわけじゃない」
「だったら必要以上に関わるな。自分の手に余るものなんて手を出そうとするんじゃない。たとえ、それが優しさであっても己さえも殺すことになるぞ」
クーは歯に衣着せぬ物言いでムツキに告げる。ムツキもその言葉を噛みしめるように頷いた。
「そうだな。ありがとう」
「言い過ぎた。主様はよくやっている」
「お褒めに与り光栄の極みだな」
「人族の言葉はあまり分からんが、嫌みだったのか?」
「いや、すまない。俺が嫌みったらしかった」
「そうか」
二人の会話は、その独特さを楽しみながら続いていた。