コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
全員が家に帰った頃には既に太陽も山へと消えていくところだった。目の前には果物がどっさりと積まれており、ケットがメモと照らし合わせている。
「なんとかかき集められたか?」
そろそろ数え終わりそうなタイミングで、ムツキはケットに話しかけた。
「……大丈夫そうニャ! 助かったニャ!」
ケットはホッと胸を撫で下ろす。続いて、残りの全員が同じように胸を撫で下ろす。
「間に合うか?」
「間に合わせるニャ! みんニャ、次はこちらの番ニャ!」
ケットはデザート調理部隊を一列に並ばせる。一糸乱れない整然とした様子は、まるで軍人の整列のような雰囲気を出す。
「にゃ!」
「わん!」
「ぷぅ!」
キリっとした表情を顔に映し、全員がムツキの方を向いている。
「ご主人、お願いするニャ!」
「任せろ!」
「にゃー」
「ばう」
「ぷぅ」
そして、ムツキによる激励の挨拶、撫で回しが始まった。彼の前に妖精たちが並び、撫でてもらうと列から離れ、調理場へと果物を持てるだけ持って駆け足で消えていく。
「ケット様、これは何を?」
その異様な光景にリゥパは思わずケットに訊ねる。ナジュミネは1度見たことがあるのか、特にその状況には何とも思わず、撫でてもらえている妖精たちを羨ましそうに眺めているばかりだった。
「ご主人から魔力補給してるニャ。ご主人に撫でられると、手からご主人の魔力を供給してもらえるニャ。無意識でも効果があるけど、意識してもらった方が効率いいニャ」
「だから、ムッちゃんに触られるといい気分になるのね。ナジュミネは魔人族だから少しばかり刺激が強すぎるのかしら。語彙力なくなるらしいし」
ケットの説明に、リゥパは幾分か納得したようだった。妖精族は自身の魔力生成に加えて、周りからの魔力吸収が得意である。実際、リゥパもこの家に入ってから、調子が良く、お肌の調子も心なしか上がっている。
「え、あ、そうかもしれぬ。旦那様の愛撫はとてもすごい」
「なんで思い出して語彙力が消えてるのよ……」
「あー、幸せだなあ」
ナジュミネはうっとりとした目で幸せそうな表情のムツキを眺めている。リゥパの言葉も半分は聞こえていないかもしれない。
「にゃー、にゃー」
「ムッちゃんも幸せそうだし、かわいいわね」
リゥパもまた微笑ましいといった顔でムツキを眺めている。
「ありがとうニャ!」
ムツキの前の列はどんどんと短くなり、ついに消えてしまった。彼は少し寂しそうな表情になる。
「終わってしまった……」
「オイラもしてほしいニャ!」
「おぉ、珍しいな!」
ムツキはケットを抱えた後、床にどかりと座り込んで撫でまわす。ケットは人族の子どもくらいの大きさがある。
「にゃー。ご主人、いつもありがとうございますニャ」
「こちらこそ、いつもありがとう。ケットはもっと休んでもいいんだからな?」
ムツキはケットの頭から尻まで優しく流れるような手つきで撫でる。愛おしそうな表情はまるで父と子のスキンシップを想起させる。
「大丈夫ニャ。ちゃんとお休みはもらっているニャ」
ケットはそう言った後、立ち上がった。そして、調理場の方へと入る。既にサラダ調理部隊、メインディッシュ調理部隊などは終わりを迎え始めている。デザート調理部隊はこれからが本番になる。
「さて、みんニャ。準備はいいかニャ?」
「にゃ!」
「わん!」
「ぷぅ!」
「よろしい。ニャらば、調理開始ニャ!」
ケットの号令とともに、デザート調理部隊は持ち場へと向かい、慣れた手つきで調理を開始した。