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水虹ひにゃ@リムらないでほしい
部屋の隅で、太智は一人、ノートPCの表計算ソフトとスマホの電卓アプリと睨めっこをしていた。
何枚かのシートに分かれて、数字の羅列が並んでいるようだった。
「――あかん、全然足りん」
占いの客単価と見込み客数を、何度弾き直しても、目標額にはほど遠い数字しか出てこない。
例えば、1,000円の客単価で、15分かかるとする。
その時点で、2日間開催される学祭の間、ひっきりなしに客が来たとて、売り上げは想像できてしまう。
「単価、これ以上は上げられへんし……。客数増やすか、あとは占いだけじゃ、限界あるな……」
こめかみを指先で揉みながら、太智はぶつぶつと独り言を続けた。
「なんか、こう……それっぽくて、原価が安くて……なんぼでも捌けるもん、ないんかな……」
そこまで呟いたところで、太智はふと顔を上げ、部屋の隅のゴミ箱の上に置かれていた炭酸ジュースの空き缶に目を留めた。
「――ジュース?」
何かが引っかかった様子で、太智はしばらくその缶を見つめていたが、やがて「――よし」と一人で頷くと、そのままメモアプリに何やら打ち込み始めた。
「――で、計算してみたんやけどな」
数日後、勇斗の部屋に集まった五人の前で、太智がノートパソコンの画面をくるりと向けた。びっしりと並んだ数字とグラフに、全員が思わず身を乗り出す。
「占い師が一人やと、一日に捌ける客数、多く見積もってもこんなもん。かなり限界がある。豪遊旅行の目標額には、正直全然届かへん。」
「――そうなのか」
「売り上げを倍にするためにも、占い師はもう一人増やさなあかんと思うんよな。ついでだから、占い師誰がするかも決めようや。」
勇斗が、待ってましたとばかりに勢いよく手を挙げた。
「はい! 俺の見立てだと、占い師は、仁人と柔太朗の二人でいくのがいいと思う」
「あ?? なんで俺なんだよ」
「俺も?」
仁人と柔太朗が、ほぼ同時に声を上げる。声色には若干の拒絶の声が混じっていたような気もする。
それはスルーするとして。勇斗はにこやかに続けた。
「二人とも、なんかこう、神秘的な雰囲気あるだろ。仁人は元々クールな顔してるし、柔太朗は、なんか儚げなだし。ビジュアルが完全に占い師向き。――というより、消去法な気もしてて。」
勇斗は残りの二人にそれぞれ視線をうつしながら続けた。
「太智は関西弁強すぎて、一言喋った瞬間に現実に引き戻されるだろ。却下。」
「うっさいわ」
「舜太、思ったことすぐ口に出るタイプだから、占いの間とか作れそうにない。却下。」
「まぁ、そうかもな――勇ちゃんは?」
「俺? 俺はほら、ガタイが良すぎて、占い師って感じしないだろ。怪しさが出ない。」
各人の性格を元にした、もっともらしい理由を並べる勇斗に、仁人はじっとりとした視線を向けた。
その視線はいまだ納得がいっていないとでも言うようだった。
「――本音は?」
「え?」
「本音、あるだろ。それだけじゃないだろ。言えよ。」
鋭い指摘に、勇斗は一瞬言葉に詰まったが、すぐにへらっと表情を崩して答えた。
「いやーーー、仁ちゃん占い師のコスプレ、似合うだろうなーと思って。面白そうじゃん。」
「――は?」
「柔太朗はついでな」
「ついでなんだ、俺」
じとっとした半眼になる仁人と、思いがけず地味に傷つく柔太朗を前に、勇斗は悪びれもせず笑うだけだった。
「でも、コスプレは普通にありやん!雰囲気大事って太ちゃんも言ってたし。」
会話に割って入ってきたのは舜太だった。
「俺の柔やったら、絶対何着ても似合うし。かわいいと思うわ。勇ちゃん、天才やん!」
満面の笑みで褒め称える舜太から繰り出せれる、思いがけないタイミングと量の甘いのろけに、言い出しっぺのはずの勇斗が、なぜか若干引いていた。受け止められない。
「……いや、そこまで手放しで言われると、なんか、なぁ。柔太朗、ごめんな。」
結局、勇斗の下心も込みで、なんだかんだ占い師役は仁人と柔太朗の二人体制に決まった。
当人たちにも、性格や雰囲気を察すれば残り三人にはできないと諦めもあった。
「――俺、衣装係のつもりだったんだけどな……」
ぼやく柔太朗の肩を、太智がぽんと叩く。
「衣装も内装も柔太朗、占い師も柔太朗。三刀流でよろしく頼むわ」
「働かせすぎじゃない、それ」
「その分、旅行先はちゃんと柔太朗の行きたいとこ優先するし」
現金な太智の申し出に、柔太朗はしばらく渋い顔をしていたが、結局は小さくため息をついて頷いた。
「――あと、もう一個、収入源増やそうと思うんやけど」
太智が新しい資料のファイルを立ち上げると、そこには「運気向上ドリンク」という、いかにも怪しげな文字が躍っていた。くそダサいネーミングである。
「原価は普通の炭酸ジュースに、なんか適当なハーブっぽいシロップ混ぜるだけ。名前と見た目でぼったくる作戦や!」
「詐欺じゃない、それ」
柔太朗が思わず突っ込むと、太智はにやりと笑った。
「大丈夫、味はちゃんと美味しくするから。詐欺やのうて、演出や」
「――お前の中では全部演出で片付くんだな」
「こっちのドリンクは、数が出ないと勝負にならないから。勇斗と舜太が担当」
「うぃー」
呆れる仁人、大丈夫か大丈夫じゃないかよくわからに返事を返す勇斗と舜太、ドリンクのラベルデザインを柔太朗に押し付けようとする太智、ただただタスクが増えていく柔太朗。五人それぞれの反応で、この日の準備会議はとりあえず終わった。
夏祭りに向けた計画は、少しずつ、当初の想定より大掛かりなものへと膨らんでいく。誰も止める気配のないまま、準備はまだまだ続きそうだった。
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