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第二章 逃亡
《この発見から約64年後――2021年》
「はぁっ…はぁっ…クソっ!」
男は息を切らして長い廊下を走っていた。
男は耳元の通信機に向かって叫んだ
「おいHQ(作戦司令部)!渡してくれた情報は嘘だったのか!?」
数秒後、通信機からノイズ混じりで
「こちらHQ、情報に嘘偽りはないはずだ」
その直後、背後から
「おい!お前、何をやっている!」
「まて!逃げるな!」
「ああ!クソ!どうしてここで憲兵に見つかるんだよ…!絶対に見つからない時間に来たはずなのに!」
男は走りながら悪態を吐いた。
だが遠くから軍靴の音が響く。
男の顔から余裕が消えた。
「ここしかないか…」
一瞬迷った。
だが近づいてくる軍靴の音が、その迷いを消し去った。
男は迷わず、すぐそばにあった扉を開け、その中へ滑り込んだ。
「……どこだっけ、ここ」
周囲を見渡す。
無機質な電灯、並んだ機器、低い駆動音。
「サーバールームか……」
男は小さく呟いた
「良かった……少なくとも『ここには』誰もいない」
男は安堵したように息を吐いた
「まあ…俺も運が良かった…のか。逃げ込んだ先がサーバールームなんて」
「おい!HQ、運が良いのか悪いのか、分からないが…」「まさか追われた先でお目当てだったサーバールームに入り込めるとはな」
男は通信機の向こう、HQに問いかける
「作戦の再確認だ。俺はナシル連邦のサーバールームに侵入。USBメモリを接続してデータを回収する、それであってるよな?」
通信機からノイズ混じりの声が届いた
「こちらHQ。作戦に変更はない。そのまま任務を続行せよ」
USBメモリを接続し、端末を操作していると……
目的のファイルが表示された。
《特異001NASR07》
HQが長年追い続けてきた情報。
それが、ついに見つかった。
《特異001NASR07》
最終更新日:1968年11月12日
ドン!ドン!ドン!
「そこにいるんだろ!!開けろ!」
背後からドアを叩く音が響いた。
憲兵だ。
男の視線は画面に向き直る。
「…まだ30秒もかかるじゃないか」
男は通信機に手を伸ばした
「なぁHQ、この作戦に救援は来るか?」
数秒の沈黙
ノイズ混じりに答えが届いた
「こちらHQ。もうすぐチーム6が到着するはずだ」
ドン!ドン!ドン!
未だ蹴る音が鳴り響いている…
男の顔には冷や汗がにじみ出ていた
だが途端にドアを蹴る音が鳴り止んだ。
男は息を呑む。
「間に合ったのか?」
急にノイズと共に
「こちらチーム6。……ジョーカー、待たせて悪かったな。憲兵どもは眠らせてるだけだから安心しろ、国際問題にはならないはずだ」
「あ―……こちらHQ。悪いが早く撤退してくれないか?」
「憲兵の連中がわらわらと来るからな」
ジョーカーとチーム6の声が通信機越しに重なる
「ハイハイ……わかりましたよ。全く…上は頭が硬いんだから…」
その夜――
先の作戦により回収されたデータ
《特異001NASR07》
それは本国に送られ、秘密裏に解析が始まった
中身は、彼らの予想を大きく裏切るものだった
《特異001NASR07》
最終更新日:1968年11月12日
ヘルハウンド(ナシル特殊部隊)チーム1
《動画ファイル1957/10/18》
「これか…再生を始めるぞ」
「なぁジョーカー…これ、色がついてないか?」
ジョーカーは答える
「まあ…色がつけられていてもおかしくはないだろう。
だから最終更新日が1968年なんだろうよ」
《動画ファイル1957/10/18》再生開始
「よし行くぞ」
隊長格であろう男の声が記録されていた。
カメラの先に規則正しい軍靴の音が響いている
ボディカメラを装着しているであろう隊長格であろう男は踵を返した。
その視線の先…禍々しい雰囲気を放つ『水晶』に向かって歩き始めた……
『水晶』に近づいたヘルハウンドチーム1――後に『ナシル連邦水晶内突入部隊』と呼称される部隊は、目の前の光景に言葉を失った
さっきまで聖堂の入口を背にしていたはずが…その入口が眼前にある。
そして、さっきまでいた後続部隊も、研究者も居ない…
すぐには理解できなかったが…警戒しつつ、その聖堂から出ると……
視線の先には、鮮やかな蒼い空
緑豊かな地面…
「まるで…『別世界』じゃないか…」
そう隊長格の直ぐ側にいた人間が呟いた…
隊長格が全員に言った
「一度本部に戻って報告しよう」
全員が頷き、憎たらしい程に綺麗な景色に踵を返し、聖堂へ、水晶へ戻って行った
水晶のそばへ近づくと…目の前には、さっきいなかった後続部隊に研究者もいた…ヘルハウンドチーム1は帰ってきたのだ
隊長格は後続部隊に聞いた
「部隊は全員いる!だが!何分だ!何分経った!」
後続部隊の隊長格であろう男が
「まあ…落ち着けよ、まだ5分しか経ってない」
隊長格はこう答えた
「俺たちはあっちで何分いた?」
直ぐ側の隊員が
「5分ですよ?」
…隊長格は「そうか…」と呟いき、後ろの水晶を見つめた
《動画ファイル1957/10/18》再生終了
そう無機質に画面に映された。
CIAの解析者達は、この映像を見て言葉を失った。
理由はカラー映像だからではない。
画面に映る景色に、莫大な資源が眠っているかもしれない新天地が、ナシル連邦に存在していた
コメント
1件
おおお…!これは面白いですね。 最初はスパイ映画のような緊張感で一気に引き込まれました。ジョーカーがサーバールームに逃げ込むシーン、焦りと冷や汗が伝わってきて手に汗握りました。そして回収したデータファイル《特異001NASR07》の映像でまさかの「別世界」への扉!しかも時間の進み方が違う…。 この「現実のスパイもの」と「異世界転移」のクロスオーバー、設定の組み合わせがすごく新鮮で、これからどう展開するのかワクワクします。ウーパールーパーさん、伏線の張り方が上手いですね!