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砂原 紗藍
#再会
「結婚する男以外は信じなくていいよ。ママも美香ちゃんも俺が送るから安心して帰りな」
「ありがとうございます」
辻さんが飲み会に来るってだけで嫌な気持ちだったのに、今は違う。
先入観。いや、自分の色眼鏡で男は全部、敵って思っていたせいで、私は彼に対して失礼な気持ちを抱ていたようだ。
「辻くーん。床の色が汚いんだけど、あーた、何してんのよー」
「何もしてないよ、ママ、お水飲んだの?」
「もう、仕方ないわね。ワインで赤色の床にしちゃうわ」
その瞬間、一本数万するらしい赤ワインが床の上に流れた。
ゲラゲラと笑うオーナーと叫ぶ牧さんと美香さん。
辻さんと私でモップと雑巾をもって、ワインが跳ねた壁やソファ、床を徹底的に拭き上げた時、また着信が鳴った。
『着いたよ』と。
ネオン輝く繫華街。なんてうたい文句が飛び出してきそうな夜の街。
お洒落なパスタ屋のお店前、待機列ように用意された壁際のベンチ。
そこにジャケットに手を突っ込み、足を組み替える恐ろしく顔の整った男が――。
「パスタ屋じゃなかったの?」
「このビルすべてがパスタ屋のオーナーのお店らしくて」
あはは、と笑ったが目の前の男は全く笑わない。
「焦った」
「ん?」
「華怜さんは男性が苦手だろうから、ぽっと出の男に取られることはないだろうと油断していた」
はあ、とため息を吐くと項垂れている。
どうやら、不機嫌なのではなくちょっと凹んでいる?
この人、目の前にいるのに感情が分からない。
「私、貴方と普通に話せたから男性恐怖症が治ったのかなって、他の人で試してみたというか」
「試さないで」
立ち上がった彼は私に近づいてくると、目のまで立ち止まり私を見降ろした。
「ほかの男で試さないで」
見下ろす瞳に感情は見えないのに、息をするのも忘れるぐらい心を奪われた。
「試すなら、俺だけにしてほしい」
彼の手が伸びてきたので、一歩後ろへ退くと手が止まった。
「ごめん。捕まえたくなった」
「もう捕まってる。私の選択は貴方との結婚しかないんでしょ」
「まあ、そうなんだけどさあ」
止まった手を下すことはない。伸ばしたいのに我慢している宙ぶらりんな手。
怖くなかった。
今まで目を見て話すことさえも怖くて、男の人と普通に話すこともできなかったのに。
どうして急に、この人が私の目の前に現れてから、狂いだしたの。
まるで私が嘘を身にまとって逃げてきたみたいで、嫌だった。
「俺以外で試すのは耐えられないから、ほんとやめて。俺、心が狭い」
「それは私が貴方の所有物だからでしょ。自分のものが違う人の所有物になるのが嫌だから。迎えは車ですか?」
「……あっち」
パーキングの看板を指さしてきたので、そちらへと歩き出すと彼は止まっていた手をぎゅっと強く握りしめ拳を作った。
「最初は罪悪感もあったかもしれない。でも俺はやっぱ心の底で、ずっと華怜さんが好きだったんだろうね」
「……ほう?」
ぽっかりと浮かぶ真ん丸の月が、私の心に開いていた傷口の大きさに見えた。
私はあれぐらい大きく心がえぐれていて、抉られた部分は全て異性への恋心だと確信していたのに。
「華怜さんに好意があるので、君が俺に冷たいと心が痛むし、昨日みたいに沢山話せるとやはり嬉しいらしいよ」
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