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親父の部屋から、また荒い声が響いた。地図を叩きつける音。書類が散らばる音。
それに続いて、低く掠れた「ナチス」という声。
ロシアは廊下に立ち、拳を握りしめる。
隣にはベラルーシ。扉を見つめ、眉をひそめていた。
ロシア「まただ……」
ロシアの声は苦しげだった。
ベラルーシはロシアの袖をぎゅっと握る。
ベラルーシ「お兄様……お父様は大丈夫なの?」
ロシアは答えられない。
大丈夫だなんて言えるはずがなかった。
⸻
父は最近、情緒が激しく揺れる。
会議では声を荒げ、国の仲間に怒鳴り散らす。
けれど数時間後には深く落ち込み、誰よりも自分を責める。
そしてそのたびに――あの名前を呼ぶ。
ソ連「ナチス……」
まるで、それが父の心を形作る唯一のものみたいに。
⸻
ベラルーシ「お兄様」
ベラの声が震えていた。
ベラルーシ「お父様……どうしてあんなにナチスさんのことばかり……」
ロシアは目を伏せる。
言いたくない言葉が、胸の奥からじわじわと上がってきた。
ロシア「……忘れられないんだよ。憎んでても、離れられない。 恋……みたいなものなんだ」
ベラルーシは息をのむ。
兄の口からその言葉が出たことが、胸を締めつけた。
⸻
ベラルーシ「でも……私たちがいるのに」
ベラルーシは必死に言う。
ベラルーシ「お父様には私たちがいる。お兄様も、私も……! それだけじゃ駄目なの? ねぇ、お兄様……!」
ロシアは返せなかった。
ベラの必死さが痛いほど伝わる。
けれど、その想いだけじゃ親父を救えないことも知っていた。
⸻
部屋の奥から、かすれた泣き声が響く。
ソ連「……ナチス……お前が……」
ロシアはぎゅっと歯を食いしばった。
ベラルーシは震える声で兄に問いかける。
ベラルーシ「ねぇ……お父様、このままだとどうなるの?」
ロシア「……壊れる」
短く、重い答え。
ベラルーシは唇を噛み、兄の腕に縋りついた。
ベラルーシ「嫌だよ……! 私、お父様にも、お兄様にも……どこにも行ってほしくない……!」
ロシアは”妹”の肩を抱き寄せる。
自分も同じ思いだった。
だけど、それをどうすることもできなかった。
⸻
父の部屋からは、まだ声が漏れている。
ソ連「……殺してやる……でも……一緒に……」
ロシアとベラルーシは顔を見合わせ、言葉を失った。
止めなければと思うのに、足は動かない。
胸の奥に広がるのは――近づいてくる破滅の予感だけだった。
(・ω・)ノシ