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第18話 これからが、本当の始まり
「……これからが、本当の始まり」
写真の端に書かれた言葉。
それを最初に見つけたのは――静佳だった。
「……?」
事務所の机の上。
昨日撮った写真を整理していた静佳は、写真の裏側に小さな文字があることに気づいた。
「これ……」
指でなぞる。
『これからが、本当の始まり。』
「……?」
静佳は首を傾げた。
「誰が書いたんだろう」
「静佳ー!」
遠くから湊音の声。
「何ー?」
「みんな呼んでる!」
「今行く!」
写真を持って、静佳はみんなのところへ向かった。
***
「はい、集合ー!」
ジェルが声を上げる。
「今日は何するん?」
「新しい企画!」
「また!?」
ころんが叫ぶ。
「昨日休んだばっかりなんだけど!」
「休んだの数時間やろ!」
「短い!」
みんなが笑う。
その中に、蓮もいた。
「蓮くん、今日も来てくれたんだね!」
莉犬が笑う。
「うん」
「もう完全に馴染んでるじゃん」
さとみが言う。
「……なんか、居心地いい」
蓮が少し照れながら笑った。
その様子を見ていた静佳も、嬉しそうに笑う。
「……よかった」
「ん?」
心音が隣を見る。
「何が?」
「蓮くん」
「うん」
「ずっと一人だったから」
静佳は小さく笑う。
「今は、みんながいるから」
「そうだね」
心音も頷いた。
***
「それで!」
ジェルがホワイトボードを指す。
「今日の企画は――」
そこには大きく、
『STPR大運動会!!』
と書かれていた。
「……」
静佳の目が輝く。
「運動会……?」
「そう!」
ジェルが笑う。
「チーム対抗で色んな競技をやります!」
「やったー!」
湊音が飛び跳ねる。
「俺、絶対勝つ!」
「湊音」
おさでいが言う。
「張り切りすぎて怪我するなよ」
「しない!」
「前もそう言ってた」
「……」
「静佳もな」
心音が言う。
「無理禁止」
「……分かってる」
「本当に?」
「うん」
「怪しい」
「お兄ちゃんまで!」
みんなが笑う。
***
運動会が始まった。
第一種目――障害物競走。
「静佳、行けー!」
「頑張れー!」
「湊音も負けるな!」
「任せて!」
二人が同時に走り出す。
最初のハードル。
静佳は軽々飛び越える。
「速っ!」
ころんが叫ぶ。
次の平均台。
静佳は一度も足を止めずに走る。
「えっ、ちょっと待って!?」
湊音が追いかける。
「静佳速い!」
「早く!」
「待ってよ!」
「嫌!」
「幼馴染なのに!」
「競技だから!」
「ひどい!」
笑い声が響く。
最後の障害。
高いマットを越える。
静佳が踏み切る。
――その瞬間。
「……っ」
足が少し滑った。
「静佳!」
湊音が叫ぶ。
静佳は体勢を崩す。
けれど――
「……っ!」
空中で身体をひねり、見事に着地した。
「おおおお!!」
大歓声。
「すげぇ!」
「今の何!?」
「運動神経どうなってるの!?」
静佳は着地すると、振り返った。
「……大丈夫」
湊音が駆け寄る。
「本当に?」
「うん」
「無理してない?」
「してない」
「……ならいい」
静佳は笑った。
「心配しすぎ」
「だって昔から――」
「……」
二人が一瞬黙る。
「……昔から?」
さとみが聞く。
「ん?」
「いや、何でもない」
湊音が誤魔化す。
静佳も笑う。
「昔から心配性なんだよ」
「そうそう!」
なんとか話を流す。
***
その様子を、少し離れた場所から見ていた蓮。
「……」
彼は笑っていた。
けれど。
ふと、ポケットの中のスマホが震える。
「……?」
画面を見る。
知らない番号。
『例の件について、話したい』
「……」
蓮の表情が変わった。
『今日の夜、一人で来てください』
そして。
『三人には絶対に言わないで。』
「……」
蓮はスマホを握りしめた。
「蓮?」
「……!」
静佳が近づいてきた。
「どうしたの?」
「いや……」
蓮はスマホを隠す。
「なんでもない」
「……」
静佳はじっと見る。
「また?」
「え?」
「『なんでもない』」
「……」
「蓮くんも言うんだ」
静佳が少し笑う。
「私だけじゃなかった」
「……ごめん」
「謝らなくていい」
静佳は蓮の顔を見る。
「でも」
少しだけ真剣になる。
「一人で抱え込まないでね」
「……」
「私たち、もう離れないって約束したから」
蓮の目が揺れる。
「……うん」
「約束」
「約束」
静佳が小指を出す。
蓮も小指を絡める。
その瞬間。
「おーい!」
湊音が遠くから叫ぶ。
「何してんのー!?」
「今行く!」
静佳が笑う。
蓮も笑った。
でも。
ポケットの中のスマホには、まだメッセージが残っている。
***
夜。
運動会が終わった後。
みんなが帰っていく。
「じゃあねー!」
「また明日!」
「お疲れー!」
静佳も帰ろうとする。
「湊音、一緒に帰ろ」
「うん!」
その時。
蓮が言った。
「……ごめん」
「?」
「今日は先に帰る」
「え?」
湊音が首を傾げる。
「用事?」
「うん」
「俺も行く?」
「いや」
蓮は笑った。
「大丈夫」
静佳がその言葉に反応する。
「……」
「どうした?」
「何でもない」
静佳は笑った。
「気をつけてね」
「うん」
蓮は手を振る。
そして。
二人と別れた。
***
午後8時。
蓮は指定された場所に来ていた。
人気のない公園。
「……誰?」
返事はない。
「呼び出したのは、あなたですか?」
すると。
暗闇から一人の人物が現れる。
「……蓮」
「……!」
その声。
「あなたは……」
街灯の下に出てきた人物を見て。
蓮は息を呑んだ。
「どうして……?」
そこにいたのは――
蓮の父親だった。
「父さん……?」
「一人で来いと言われただろう」
「……」
「だが、これは私からの呼び出しだ」
「え?」
父親は真剣な顔で言う。
「お前に、まだ伝えていないことがある」
「……何?」
「12年前の事故のことだ」
蓮の表情が変わる。
「……もう全部終わったんじゃないの?」
「終わっていない」
「……!」
「むしろ」
父親は静かに続ける。
「今から始まる」
「どういう意味?」
「お前が湊音と静佳に再会したことで――」
一瞬、言葉を止める。
「相手が動き始めた」
「……!」
「そして」
父親が蓮の肩を掴む。
「狙われているのは、お前じゃない」
「……」
「湊音と静佳だ。」
「……!」
蓮の顔から血の気が引く。
「じゃあ……」
「今すぐ二人から離れろ」
「……嫌だ」
「蓮!」
「嫌だ!」
蓮が初めて声を荒げた。
「12年前は離された」
「今度は絶対に離れない!」
父親は黙る。
「俺は二人と約束したんだ」
「……」
「今度こそ、守るって」
「お前一人では無理だ」
「じゃあ、みんなで守る」
「……」
蓮は顔を上げた。
「湊音も静佳も」
「心音さんも、おさでいさんも」
「みんなで」
父親はしばらく蓮を見つめていた。
そして。
「……そうか」
小さく笑った。
「なら、一つだけ教えてやる」
「何?」
「相手は、もう近くにいる」
「……!」
「しかも――」
父親が言葉を続ける。
「お前たちのことをよく知っている人物だ。」
***
その頃。
事務所では。
「……遅い」
静佳が時計を見る。
「蓮くん、まだ帰ってない」
湊音も心配そうにする。
「電話してみる?」
「うん」
湊音が電話をかける。
――プルルル。
出ない。
「……」
静佳の胸がざわつく。
「ねえ、湊音」
「ん?」
「私……」
「うん」
「嫌な感じがする」
「……俺も」
その瞬間。
事務所の電気が――
パッ
消えた。
「……!」
「え!?」
真っ暗。
「静佳!」
湊音がすぐに手を伸ばす。
「ここ!」
「湊音……!」
「大丈夫、俺ここにいる!」
すると。
暗闇の中で。
――カタン。
何かが落ちる音。
「……?」
数秒後。
非常灯が点く。
床に落ちていたのは――
一枚の写真。
湊音。
静佳。
蓮。
三人が写った写真。
その写真の裏には。
新しい文字が書かれていた。
『三人でいられるのも、あと少し。』
「……!」
静佳が写真を握る。
「……誰?」
湊音が周囲を見る。
誰もいない。
ただ。
窓が少し開いている。
そして外には――
青い腕時計をした人物の影。
「待って!」
湊音が窓へ駆け寄る。
しかし。
もう誰もいなかった。
***
数分後。
心音たちが戻ってくる。
「何があった!?」
「写真……」
静佳が震える手で見せる。
「これ……」
心音の表情が変わる。
「……」
おさでいも写真を見る。
「また、あの人か?」
「分からない」
静佳が答える。
「でも……」
静佳は写真を強く握る。
「もう、逃げない」
「……静佳」
「怖いけど」
顔を上げる。
「今度は、みんなで向き合いたい」
湊音も隣に立つ。
「俺も」
そして。
静佳は蓮へ電話をかける。
――プルルル。
「お願い……出て」
――プルルル。
その頃。
遠くの公園では。
蓮のスマホが鳴っていた。
画面には――
『静佳』
蓮は画面を見つめる。
「……」
出ようとした、その瞬間。
父親が言った。
「出るな」
「……!」
「今はまだダメだ」
「でも!」
「蓮」
父親は真剣な目で言う。
「もし相手がお前の電話を追跡していたら――」
「……!」
蓮はスマホを握りしめる。
着信が切れる。
そして。
すぐに、もう一度鳴った。
今度は――
湊音。
蓮は目を閉じる。
「……ごめん」
小さく呟いた。
「今だけ……」
「二人を守るために、離れる」
その瞬間。
父親のスマホが鳴った。
「……?」
画面を見る。
一通のメッセージ。
『もう遅い。』
『三人は、再び集まった。』
『だから――』
『次は、事務所そのものを狙う。』
父親の表情が凍る。
「……!」
そして。
画面の最後に表示された名前。
それを見た瞬間――
父親は絶句した。
『送信者:――――』
「……そんな……」
12年前の事件。
三人を引き離した本当の理由。
そして今、事務所に近づいている人物。
すべてが一本の線で繋がろうとしていた。
――最終章まで、あと少し。
コメント
1件
みぅです🖤 今回、運動会の温かい空気と、蓮くんに届く不気味なメッセージの対比がすごく効いてました。静佳が「一人で抱え込まないで」って約束した直後に、蓮くんが父親から「離れろ」って言われるの、胸がぎゅっとなりました…。あの小指の約束、まだ生きてるって信じたいです。 それにしても「相手はもう近くにいる」って…まさか身近な誰かが黒幕なの?次回が怖いけど楽しみ。