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翌朝。
スタジオに一番乗りした元貴は、何事もなかった顔で鍵を開けた。
昨日のことは、夢だった。
そう思い込もうとしている自分が一番信用できない。
「おはよ、元貴」
背後から聞こえた声に、心臓が跳ねた。
「……早いな」
「うん。元貴が早そうだったから」
その言い方がもうずるい。
元貴は機材を準備するふりをして、距離を取る。
若井はそれを見て、少しだけ困ったように笑った。
「逃げなくていいよ」
「昨日ので、もう分かったから」
「……なにが」
若井は近づかない。
でも、離れもしない。
「元貴がさ」
「俺に触れられるの、嫌じゃないってこと」
元貴は手を止める。
「嫌だったら、あんな呼び方しない」
「嫌だったら、離せって言う」
静かな断定だった。
「……若井」
「なに」
「勝手に決めるな」
でも、その声は弱い。
若井は一歩だけ近づく。
「じゃあ、決めて」
「俺のこと、どうしたい?」
逃げ場はなかった。
元貴はしばらく黙ってから、
苦しそうに息を吐く。
「……離れたくない」
それだけ。
若井の表情が、はっきり変わった。
いつものデレデレじゃない、覚悟を決めた顔。
「じゃあさ」
若井は元貴の手首を、そっと掴む。
「俺、元貴の一番近くにいる」
「メンバーとしても、それ以外でも」
「……それ、重いぞ」
「知ってる」
「でも元貴、重いの嫌いじゃない」
図星だった。
元貴は視線を逸らして、低く言う。
「……他のやつには、絶対するな」
「なにを?」
「……こういうの全部」
若井は一瞬きょとんとしてから、
嬉しそうに笑った。
「独占欲、いただきました」
「黙れ」
そう言いながら、
元貴はその手を振りほどかなかった。
若井は距離を詰めて、額が触れるほど近くで囁く。
「元貴」
「俺の場所、ここでいい?」
少し間があって。
「……もう動くな」
それが答えだった。
二人の距離は、
もう“戻れる位置”じゃなかった。