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目が覚めたとき、
元貴は一瞬、自分がどこにいるのか分からなかった。
カーテン越しの柔らかい光。
見慣れない天井。
そして――背中に回された腕。
「……」
動こうとして、やめる。
若井の腕は、逃がさない力じゃない。
でも、離す気もない重さだった。
「起きた?」
すぐ後ろから、眠そうな声。
「……起きてない」
「声出てる」
「……うるさい」
そう返しながらも、元貴は体を起こさない。
昨夜のことを思い出さないようにしているのに、
体の距離が全部思い出させてくる。
若井は何も言わず、
元貴の肩に額を預けた。
「元貴さ」
「……なに」
「昨日のこと、なかったことにしないよね」
返事はすぐには出なかった。
代わりに、元貴は小さく息を吐く。
「……するわけないだろ」
その一言で、若井の腕に少しだけ力が入る。
「よかった」
「……調子に乗るな」
「うん。でもさ」
若井は笑いながら、囁く。
「朝になっても、
元貴がここにいるのが一番嬉しい」
元貴は顔を背けて、ぼそっと言う。
「……誰にも言うな」
「言わない」
「見せない」
「俺だけ知ってる」
その言葉に、元貴はようやく若井のほうを向いた。
「……若井」
「なに?」
「今日から」
「距離、考えろ」
一瞬の沈黙。
そして若井は、にやっと笑う。
「考えるよ」
「“離れない”方向で」
元貴は舌打ちする。
「……ほんとムカつく」
でも、
若井の腕を振りほどかなかった。
カーテンの隙間から朝日が差し込む。
昨夜のことは、言葉にしなくていい。
朝になっても隣にいる
それだけで、全部決まっていた。