テラーノベル
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「天使の羽、ですか…なるほど…」
診察室に入って、ずっとカルテらしきものから目を離さなかった先生はこう言った。その眉間にはシワが寄り、明らかに何か言いたげだった。看護師さんを呼び、何か耳打ちして覚悟を決めたようにこちらを見る。
「藤澤さんはですね、紛れもなく天使病です」
天使病。先生は診察もせずにそう言う。天使の羽が生えるから、そのまま天使病。もしもうちょっと違う病気なら安心したかもしれないが、天界を予想させる病名に嫌な感覚を覚え、ちょっとずつ鼓動が速まる。
「この病気はまだ発症数が少ないんです。拒む人も多い為全然研究も進んでおらず…。それでですね…。簡単には受け入れられないと思いますが…」
泣きそうな目で俺と涼ちゃんを交互に見る。
俺は、何となく。天使の羽が完全体になって、病室から窓を眺める涼ちゃんの姿が見えた。その窓の先は、桜はもう散って青く染まりかけている木々があった。
美しかった。ひどく、恐ろしい程。
まるでこの世のものとは思えないくらいに。
「天使病は不治の病なんです。おそらく、藤澤さんの余命は…10ヶ月です。」
よめい、じゅっかげつ。
頭の中でこだまし、やがてやっと脳が言葉として処理した。余命10ヶ月。不治の病。
涼ちゃんは、1年足らずで、死ぬ…?
既に速まり出していた鼓動がかつてないほど煩くなる。急激に頭がフル回転しだした。
じゃあミセスはどうなるの。これから先まだまだ沢山イベント控えてる訳だし、曲だって作る。その時に涼ちゃんの存在は不可欠で。それにサポートメンバーやスタッフやお偉いさん、ジャムズやマスコミになんて説明すればいいの?何より、俺と若井にとっても心の支えで大切なメンバーが居なくなるんでしょ。
ぼやけた視界はやがて頬に熱いものが滴り、喉に違和感を覚え嗚咽する。周りの風景がガラリと変わった。俺の様子に気付いた涼ちゃんは焦って、強く俺を抱きしめる。泣かないで、僕は大丈夫だからと耳元で何度も聞こえ、あぁ、今俺泣いてるんだとはっとする。
「あれぇ…涼ちゃん。今診察中じゃないっけ…?」
「ううん。もう終わって、今は待機中。僕入院するみたい。…ごめんね、ごめん元貴。最年長なのに、しっかりしないといけない時期なのに、折角の10周年でもあるのに…」
言っている途中から涼ちゃんも嗚咽混じりになり、肩に水っぽいものを感じる。
涼ちゃんも泣いているのか。俺たちカラカラに干からびちゃうよ。そしたら二人で空まで一緒に行こうよ。君の羽で上まで行って。病気の影響で目が見えずらくなった君をその先案内するから。
涼ちゃんがどんな姿形でも会いに行くから。見つけるから。だから、ねえ。涼ちゃん、居なくならないで。
俺はまだ君に好きだと伝えられてないんだ。
◻︎◻︎◻︎
読んでくださりありがとうございます!
物語がしっかり動き始めました。この先涼ちゃんはどうなるのでしょうか?大森さんはどう乗り越えるのか?見守っていただけたらと思います。
次も是非読んで頂けると嬉しいです。
コメント
2件
うひゃ...なんだか結末が予想できない...いつも思っていますが言葉選びが天才でありまして!?好きです👍🏻 ̖́-︎