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夜鐘
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大正
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裏五条
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『四郎さん。次の角を曲がった先に第1層への階段があります! 階段はスイッチによって出現する仕組みになっていますので、まずはコントロールパネルの前に向かってください!!』
「ほいほい。了解ですじゃ」
逆神四郎と日引春香Aランク探索員の相性は抜群だった。
ご存じの通り、かつて日引は久坂剣友監察官のオペレーターを務めた実績があり、お年寄りとの組み合わせでも実力をいかんなく発揮できる。
そこに加えて、監察官室対抗戦では全カードの実況を務めたように、現状認識から口頭での指示までにまったく淀みがない。
これは「木原久光監察官を抑える事の出来る伝説的存在」として多くのオペレーターの支持と尊敬を集める福田弘道Aランク探索員にも勝っている能力であり、五楼京華上級監察官が直々に「うちの監察官室に来い」とスカウトした事実に裏打ちされている。
なお、同時期にスカウトされた山根健斗Aランク探索員は、「南雲さんの方が面白そうっす」と言って、出世コースから外れて行った。
そんな日引春香と山根健斗が今では交際しているのだから、世の中とは合縁奇縁。
不思議なものである。
さて、コントロールパネルの操作も難なくこなした四郎は、いよいよ第1層へ。
「じいちゃんに電子機器が扱えるのかよ」などと考えてはいけない。
四郎は炊飯器を使ってパンを焼くスキルを持ち、20年ものの圧力鍋を使ってありとあらゆる料理を作る男。
ならば、監獄ダンジョン・カルケルのコントロールパネルの1つや2つ。
『お見事です、四郎さん! ……あ! お待ちください! 前方に強力な煌気反応があります! 既に第1層はアトミルカの構成員も多くいるはずですので、ご注意を!』
「お気遣い感謝ですじゃ。……ほう! あなたは!」
そこに現れたのは、川端一真監察官だった。
彼は5番と戦闘を繰り広げていたはずなのに、どうして第2層と第1層の中継地点にいるのだろうか。
もう戦闘を終えて、5番を捕縛し、イギリスの馴染みの店である日本人向けパブ『OPPAI』の予約まで済ませたというのだろうか。
なんと言う隠された実力。
寡黙な仕事人の異名は伊達ではなく、おっぱい男爵から二つ名を戻す時が来たのだ。
「川端おっぱい男爵、ご無事で何よりですじゃ」
「……はい。あなたも」
それにしては、寡黙が過ぎるのではないか。
「おっぱい男爵」と呼ばれたからには、声高に否定するか、おっぱいの素晴らしさについて語り尽くすかくらいはするはずなのに。
「……『アルタイルレーザー』、発射!」
「ほっほっ! やはり男爵ではなかったみたいですの。そんな気がしておりましたわい」
既に諸君もお気付きだろう。
この川端一真は、中央制御室でメケメケマル副指令を欺いた偽物の川端監察官。
アトミルカ3番クリムト・ウェルスラーの発明品である『複製人形』によって、声色や立ち居振る舞い、煌気の質まで完全に模倣されたコピーである。
『す、すごいです……! 私も気付けなかったのに……!!』
「簡単な事ですじゃ。川端さんは責任感が強く、義に殉ずるお方。そんな人が、どうしてこんな老いぼれを迎えに来るのかと考えれば、すぐに答えが出ますじゃ」
四郎は【黄箱】を2つ解放して、続けた。
「本物のおっぱい男爵ならば、1人でも多くの敵を倒すために尽力するはずですじゃ。ほい! 『枝垂れ柳』!! 『琥珀虎』!!」
コピー川端の自律思考も「もはや擬態の必要なし」と判断したらしく、両腕を機関銃に変化させ、照準を四郎に合わせた。
「ほっほっほ! 年寄りに向けるものにしては、物騒ですぞい?」
「……標的の名前は不明。煌気感知の結果、脅威認定はA。システム、デストロイに移行」
四郎はイドクロア装備の鞭と銃を両手に持つ。
彼には「チーム莉子と加賀美隊の転移座標を確保する」と言う使命がある。
未来の孫の嫁のためならば、老骨に鞭うつ事も厭わない。
◆◇◆◇◆◇◆◇
『四郎さん! 煌気弾……いえ、煌気砲が来ます! 数は……! 12発!!』
「助かりますじゃ、日引さん。『琥珀虎』、展開!! 『琥珀の番人』!!」
四郎の持っていた銃から、柔らかい膜のようなものが放たれた。
それはコピー川端の煌気砲を全て絡め取り、12発全てをその場で停止させる。
「……スキル名称、不明。攻撃のパターン変更。『バウンドレーザー』、発現」
「なるほど。その腕の先端が射出口ですな? 『琥珀・反転』!! さらに、『旋風・太刀風』!!」
四郎が宙で制止させていた煌気弾は、彼の操作で反動をつけて反射する。
まずは敵の放つレーザー光線をこれで相殺。
続いて、風の刃で射出口を腕ごと切断する。
「……バカな。ワタシは川端一真の煌気を複製しているはず。どうして、年寄りに押し負ける?」
「ほほう、あなたはお喋りもできたのですな。残念ですのぉ。時間があれば、茶でも啜りながら日頃の苦労などを聞きたかったですぞい」
「……攻撃を続行する。川端コピースキル。『断崖蹴気弾』!!」
『複製人形』はオリジナルのスキルまで完全にコピーする。
それを四郎はイドクロア鞭『枝垂れ柳』で防御した。
「ほいさぁ!!」
伸びて行く無数の鞭が、コピー川端の振り下ろす踵落としを受け止める。
だが、このスキルは2段構え。
受け止められた後に水流のトゲによる追撃が待っている。
「あたたっ! こりゃあ強烈ですぞい!」
『四郎さん!! 大丈夫ですか!? 左腕に裂傷を確認! 無理はなさらず、退避してください!!』
「いえいえ、ご心配には及びませんぞい。これで準備が整いましたわい」
四郎はさらに【黄箱】を増やす。
中から出て来たのは、巨大な渦を巻く蚊取り線香のようなもの。
「これはですの。『巻き取り禍』と言いましてじゃ。この枝垂れ柳で収集した相手の煌気を覚えさせてやると……! ほい! 『集荷磁石』!!」
「……ぐいぃぃ!? ひ、引き寄せ、られる!!」
『巻き取り禍』はセットした煌気と引き寄せ合う巨大な磁石のようなイドクロア装備。
力量の差があるとこの手のスキルは発現させても効果がない事もあるが、重ねて言おう。
逆神四郎もかつての周回者。
川端一真本人ならまだしも、複製された人形に遅れを取るようならば、六駆は最初から戦場に連れて来ようとは考えないのである。
「……がぁ! 行動不能!! お、おお、おおお、おっぱい! おっぱい! いっぱい!! ばんざい!! わっしょい!! ぴょろろろろろろ!!!」
「日引さんや。川端さんは普段からどういう思考をされとるんかの? 万事休すの瞬間に吐く言葉が常軌を逸しとるんですがのぉ」
『念のため、記録として残しておきますね! お疲れさまでした、四郎さん!!』
川端監察官、自分の知らないところで自分のコピーが勝手に醜態を晒す。
しばらく口にするのも憚られるセリフを連呼していた『複製人形』だったが、四郎の『巻き取り禍』に煌気を吸い尽くされ、気付けば機械の姿に戻っていた。
「まあ、これはこれで良しとするですじゃ。日引さん、座標までの案内を頼みますぞい!」
『了解しました! 前方、500メートル先に煌気反応が3! ですが、今の川端さん程ではありません!』
日引さん。今のは川端さんじゃない。コピー川端です。
「ほっほっほ! その程度ならば、ワシでも対処できると思いますぞい! さあさあ! かかって来られるとよろしいですじゃ!!」
逆神四郎はこの後、アトミルカの本隊到着よりも早く【稀有転移黒石】の到着座標の確保に成功した。
コメント
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第381話、読みました!四郎さんの戦いぶり、めちゃくちゃ渋くてかっこよかったです🥀 特にコピー川端の正体を見抜くところ、「責任感の強い本物なら迎えに来ない」って reasoning がシビれました。そして最後の「♡♡♡!わっしょい!!!」は笑った…本物の川端さんには絶対バレないでほしい。日引さんとの連携も完璧で、じいちゃんの底力を見せつけられた回でした✨