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「疲れただろ? ここなら安全だし、俺も少し疲れたから、暫く休んで行こう」
建物の地下駐車場へ車を停めた恭輔は深く溜め息を吐いた後、樹奈にそう告げるも彼女はこの状況に少しだけ戸惑っていた。
(ここ、どう見てもラブホテル……だよね?)
何故この様な場所の地下駐車場に乗り換える車が停めてあるのか、何となく気になってしまったせいで色々と考え始めた樹奈に恭輔は、
「ここは俺たち市来組が管理を任されてるホテルなんだ。だから、何かあれば身を隠す場としても使える。車を乗り換えるにも人目が無くてやり易い。それに、疲れたから部屋には入るが、勿論何もしねぇから、安心しろ」
笑みを浮かべながら安心させるように言い聞かせると、先に車を降りて行く。
そして、全てを見透かされていると気付いた樹奈はすぐに車を降りると、
「あの、すみません! 別に疑ってるとか、警戒してる訳じゃ……」
戸惑ったのは警戒している訳じゃ無かった樹奈は勘違いされたら嫌だと弁解する。
「分かってる。別に気にしちゃいねぇさ。樹奈も疲れたろ? とりあえず少し休もう」
「……はい」
焦る樹奈に手を差し伸べた恭輔は、これ以上彼女が気を揉まないよう『気にしていない』事を伝え、共に建物の中へ入って行った。
建物に入り、カウンターで一言二言責任者らしき人物と会話を交わした恭輔は部屋の鍵を受け取ると、樹奈の手を引いたままエレベーターへと乗り込み、最上階に辿り着くと二部屋しか無い右側のドアの鍵を開ける。
「俺は少し電話してくるから、先に入って休んでてくれ」
そして樹奈だけを部屋の中へ入れてドアを閉めた恭輔は、廊下で電話をし始めた。
部屋に一人残された樹奈は、ひとまず奥へ進んでいきソファーに腰を降ろす。
(流石に、眠くなってきちゃった……)
車に乗っていた時は気を張っていたせいか眠気を全く感じなかったのだけれど、安全な場所に着いたからか、急な睡魔に襲われた樹奈の瞼は徐々に下がっていく。
(……もう無理……少しだけ、寝たい……)
せめて恭輔が部屋に来るまでは起きていようと目を擦って必死に重い瞼をこじ開けようと試みたもののやはり無理だと判断した樹奈は、そのまま眠りの世界へと誘われていった。
それから少しして、電話を終えた恭輔が部屋に入ると、ソファーにもたれかかって眠る樹奈の姿が目に飛び込んできた。
「……ったく、ベッドで眠ればいいのに」
そう呟いた恭輔は眠る樹奈の身体を抱きあげると、ベッドの上に寝かせて自分がソファーの上に寝転んだ。
(樹奈も暫く起きねぇだろうし、俺も仮眠取るか……)
少し身体を休めたらすぐに部屋を出るつもりでいた恭輔だったのだが、樹奈も寝てしまって起こすのも気が引ける事や、自身も長時間の運転でそれなりに疲弊していた事もあり、少しの間仮眠を取ろうとそのまま目を閉じた。
それから一時間程が経った頃、樹奈が夢にうなされ始め、それに気付いた恭輔が目を覚ます。
樹奈は例の一件以降、時折こうして夢にうなされる事が増えていた。
けれど、それを誰にも相談出来ず、夢から覚めては孤独と恐怖に苛まれて眠れなくなってしまい、最近は短時間しか眠れない事も多かったりする。
「……っ!!」
いつもの様に夢から覚めた樹奈は飛び起きるように身体を起こす。
彼女の息は上がり、額には汗も滲んでいる。
そして、いつもこの後は一人孤独と恐怖に耐えるのだけど、今日は違っていた。
「大丈夫か?」
「…………ッ、恭輔……さん」
「だいぶうなされていたようだが、こういう事は、よくあるのか?」
恭輔に声を掛けられ、よくあるのかと聞かれた樹奈は、答える代わりに首を縦に振る。
「そうか。少し息があがってるな。落ち着いて、ゆっくり深呼吸しろ」
そんな樹奈の横に腰掛けた恭輔は、彼女の身体を抱くと、落ちつかせるように優しく背を撫でる。
恭輔に言われた通りゆっくり深呼吸をした樹奈は徐々に落ち着き、恭輔の温もりの暖かさに安堵したのか、瞳から涙が溢れ今にも零れそうになっていた。