テラーノベル
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──────椎名視点──────
アイツらが去ったあとは、私はよろよろと立ち上がり、みんなの元に急いだ。どの死体も凄惨な姿であり、原型を留めていないものや、留めていても、手足がなくなっていたり、首があらぬ方向に曲がっていたり、燃えていたり。先程まで、本当に生きていたはずなのに。あまりにも非日常な光景で。現実味すらもない状況で。私は、ただその光景に呆然とするしかなかった。
私の、誕生日。やっと成人して、仕事仲間の一員として、みんなに貢献できるようになるはずだったのに。
私は、ふと柵のことを思い出す。不自然に捻じ曲げられ、壊れていた柵。森には、魔族が住んでいる。だから、森には行くなとの警告。あの柵が魔族の侵入を防いでいる。柵は内側からか、魔法の鍵でしか開けられない。…なのに、侵入された?───あそこから、魔族が侵入してきたのだ。私が、興味本位で森にはいるためにみんなに内緒にしていた古くなって、壊れた柵。
───違う。そんなわけが無い。私のせいなわけが無い。だって、だって。あ、あんなに小さな穴だ。少しだけ、壊れていただけで。アイツらみたいなでかいヤツなんかが入れるわけが。…魔法、か。
何故か、突然冷静に状況が見えてくる。目の前にはまだダラダラと生あたたかい血が流れているというのに。嗅覚はその血生臭い匂いを拒絶しているのに、頭は酷く冷静に、フルに回転する。
おそらく、魔族たちは私たちを食べ物として、ではなく弄ぶために殺したのだ。だって、食べる為だけならば死体は回収するし、こんなに傷つける必要が無い。傷をつければ肉は抉られる。魔法ならば体内にどんな影響が及ぶか分からない。ならば殺すのではなく気絶させ、人間を捌くのに特化したものがその肉を解体した方がいいに決まっている。あいつらは、私たちを殺すために、死に様の反応を見る為だけに殺したのだ。───そんなことがあってもいいのか?人間だからってこんな仕打ち…あってはいけない。復讐?───生ぬるい。あいつらの種族を皆殺しにしなければこの胸くそが晴れることはない。何があってもだ。
そうと決まれば計画を立てなければ。あいつらを確実に殺し、地獄に落とさないと私の気が済まない。
私は血だらけの足を使い、よろよろと立ち上がり辺りを見回す。酷い有様だ。血が飛び散り、腕が、足が、四方八方に落ちている。氷漬けにされたみぞれさんすらもその後砕かれたらしく、氷漬けにされた内蔵が目の前で抉り出ていた。
「…っ!」
あの魔法の氷は内蔵すらも凍らせていたらしい。初めて見る氷漬けの胃、脳、腸──────吐き出しそうになる口をおさえ、私は村長の家に向かう。理由はただ、みんなから近かった。それだけの理由で。もしかしたら、無意識に仲間の生存を願っていたのかもしれない。
そんな、どうしようもない思いを巡らせながらドアノブを捻り、家へとはいる。
──────家の中は、綺麗に飾り付けられていた。壁には風船がいくつも飾られてあり、黄緑や、黄色、緑などの色を中心に装飾されており、テーブルの上には15本のクラッカーが並べられていた。
そして、正面にはでかでかと
『椎名16歳誕生日おめでとう!!』
と書かれていた。その紙にはみんなからのたくさんのメッセージがつまっていた。
「仕事頑張れよ!」「椎名のマジックが大好き」「いつもお前に元気づけられてる」「困ったことがあれば頼れよ!」「あなたは大切な仲間です」「借りたままの100円返せよな!」「よ!成人の仲間入り!」「いつでも相談してね。」「明るいあなたが好きだよ」「疲れてたら言えよ!癒してやるよ!」「いい日になりますように!」──────。
たくさんのメッセージが書かれていて、途中から涙が溢れて読めなくなってしまった。私は、たくさん、たっくさんみんなからの愛を受け取っていたのだ。私も、みんなのことが大切で、愛してたのに。そう思うと、涙が止まらなくなり、初めてみんながこの世にいなくなったという実感が湧き始める。
そのメッセージ付きの紙の下にはたくさんのプレゼントが置いてあった。
普段なら食べることができない高級なお菓子。マジシャン用のスーツ。スキンケアセット、私が欲しかった本、お菓子の詰め合わせ、花束、アクセサリー────たくさん、たっくさんのプレゼントたち。
私は、その中からいちばん興味が惹かれたものをプレゼントの山から取り出す。小さな箱。箱の外にはメッセージカードが添えられている。どうやら村長からのようだ。
『椎名さん、いつも前髪が目にかかってて邪魔そうですよねー。髪を切れって言っても切らないですし…。てことで、わたし、めめんともりがわざわざ選んで買ってきてあげましたよ!喜びなさい!誕生日、おめでとうございます!!良い一年を!』
そのメッセージを読んで、反射的に声がもれる。
「…ばーか。明日切るつもりでしたよ。」
もう直接答えられない、めめさんからの一方通行のメッセージカード。私は、その箱をゆっくりと開ける。───その中には大きめのピンがあった。黄緑色で、ツヤツヤしていて。大文字の『S』字のヘアピン。私は、そのヘアピンをつけてみる。
パチンっという音が、頭上で聞こえる。誕生日プレゼントのひとつに鏡があり、その鏡でヘアピンを確認する。
そのヘアピンは完璧な場所につけることが出来た。いつもなら100点満手を自分に送りたかったが、今は送れない。だって、自分の顔がぐっちゃぐちゃで酷すぎるのだ。そのピンがいくら素敵だとしても、私がこんな酷い顔をしていたら素敵に見えない。
「うぁぁぁあぁああああああっっ!!!!」
私は、人生で一番の絶叫とともに泣き崩れた。
ここで切ります!今回は前回の余韻ですね。短い話数ですので、どれくらい仲間との絆を強調できるか…割と難しい問題でしたが、今回は誕生日プレゼント、という形で表すことにしました。仲間との絆がこの世界にきちんとあることが伝わってくれたら嬉しいです!
【小ネタ】
魔人は、人外種の中でも中位ら辺の偉さですねー。この世界にはつよつよなめめ村メンバー達がいないので、妖精や魔女などの種族は割と弱い寄りです。また、死神や龍といった種族は存在しないですね。ここふたつに関してはふたりがいたから新たに生まれた種族なので。代わりの誰かがー的な展開は無いです。
それでは!おつはる!
コメント
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SAN値がぁぁぁ!!!
残酷な現実…ね