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第5話 犬を連れ戻す猫

「――おい」

その一言で、ひよりの周りの空気が変わった。

驚いたように見上げるひよりと、隣で戸惑う男子。

桐生は彼女を真っ直ぐに見つめたまま、ゆっくりと近づいていった。

「……桐生くん?」

ひよりの声には困惑が混じっている。

そりゃそうだろう。

だって、ずっと避けてたのに、急に話しかけてくるなんて。

でも――避けられているのが、こんなにイラつくとは思わなかった。

桐生はひよりの手元に視線を落とす。

――犬の形のクッキー。

それを見た瞬間、胸の奥がムズムズするような、不快な気持ちになった。

「お前、それ貰ったのか?」

「え? う、うん……」

ひよりが答えると、隣の男子が口を開いた。

「あ、俺、隣のクラスの――」

「聞いてない」

桐生は冷たく言い放った。

男子が一瞬むっとした顔をしたが、桐生は気にしない。

「橘」

「……なに?」

桐生はじっとひよりを見つめ、言った。

「そろそろ、避けんのやめろ」

ひよりの目が見開かれる。

「……避けてなんかないよ?」

「嘘つけ」

桐生はポケットに手を突っ込んだまま、ゆっくりと息を吐く。

「お前さ、俺のこと、犬系だったら好きだった?」

「……え?」

思いがけない言葉に、ひよりの心臓が跳ねた。

なんで、そんなことを聞くの?

ずっと気にしていたのは、自分だけじゃなかったの?

「俺は猫系だから、お前には合わない?」

桐生の低い声が、胸の奥をくすぐる。

「それとも、犬系のやつと仲良くするほうが楽しい?」

桐生はそう言って、ちらりと隣の男子を見た。

ひよりは――なぜか、息が詰まりそうになった。

「……違うよ」

気づけば、そう呟いていた。

違う。本当はそんなの関係ない。

ただ、桐生が「猫系だったら愛したよ」と言ったのが、ショックだっただけで。

「じゃあ、なんで避けてた」

「……だって、桐生くん……」

言葉が詰まる。

けれど、桐生はひよりの手首を掴み、引き寄せた。

「お前が犬系だろうと猫系だろうと――」

ひよりの耳元で、静かに囁く。

「……俺は、ずっとお前のこと気にしてた」

ひよりの心臓が、跳ねた。

「……え?」

信じられない、という顔をするひよりを見て、桐生は小さく息を吐いた。

「だから、もう変なこと考えんな」

そして、ポツリと呟く。

「……お前が犬系なのは、最初からわかってたんだから」

その言葉が、ひよりの胸をじんわりと温めた。

猫系だったら愛したそうです

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