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桐生の手は、まだひよりの手首を掴んだままだった。
じんわりと伝わる体温に、心臓がどくんと跳ねる。
「……桐生くん」
静かな声で名前を呼ぶと、彼は少しだけ眉をひそめた。
無表情に見えるけど、どこか焦っているようにも見える。
「……何」
その一言に、ひよりはぎゅっと唇を噛んだ。
――言いたいこと、ちゃんと伝えなきゃ。
「私……桐生くんに、『猫系だったら愛したよ』って言われたの、すごく悲しかった」
ぽつりとこぼれた言葉に、桐生の指がピクリと動いた。
「そっか」
「うん。だから、どうしたらよかったのかわからなくて……避けちゃった」
正直に伝えながら、ひよりは俯く。
でも、そのままじゃダメだと思った。
だから、勇気を出して顔を上げた。
「でも……私は犬系だけど、それでも桐生くんが――」
好き。
あと一歩のところで、その言葉が喉の奥につっかえてしまう。
「……お前、もしかして泣く?」
桐生がひよりの顔をじっと見て、そんなことを言った。
「えっ、泣かないよ!」
「いや、泣きそうな顔してる」
「そ、そんなことないもん!」
慌てて強がるひよりを見て、桐生はふっと息を吐く。
「お前さ、犬系だからって、なんでも素直にしっぽ振るわけじゃねーんだな」
からかうような口調なのに、なぜか優しい響きがあった。
ひよりは、ちょっとだけむくれる。
「そりゃそうだよ……犬だって、傷ついたらしっぽ振れなくなるし……」
それを聞いた桐生は、ひよりの手首を掴んでいた手を、そっと離した。
そして、代わりに――
ぽん、とひよりの頭に手を乗せた。
「じゃあ、もう振れるだろ」
くしゃっと優しく髪を撫でながら、桐生は静かに言う。
「俺、お前がしっぽ振ってんの、結構好きだったから」
ひよりの心臓が、思い切り跳ねた。
「……っ!」
顔が一気に熱くなるのを感じて、思わず桐生を見上げる。
でも、彼はいつもの無表情のまま、少しだけ目をそらしていた。
その頬が、ほんの少し赤くなっていることに、ひよりは気づく。
「……桐生くん、それって……」
「……」
桐生は何も言わなかったけれど、頭をぽんぽんと撫でる手の感触は、どこまでも優しかった。
――なんか、またしっぽ振りたくなってきたかも。
心の中でそう思ったけれど、絶対に顔には出さないようにした。
でも、もしかしたら、もう桐生にはバレているのかもしれない。