テラーノベル
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同じ部署で働く照と目黒は、周囲には内緒で付き合っている。仕事中は良き先輩後輩だが、一歩外に出れば、照が目黒を甘やかし、目黒が照を真っ直ぐに慕う関係だ。そんな平和な日常を壊したのは、中途採用で入ってきた一人の男だった。
「蓮、久しぶり。また同じ職場で働けるなんて運命だね」
目黒のデスクに馴れ馴れしく手を置いたのは、かつて彼が酷い振られ方をした元恋人。その男が配属されたのは、あろうことか二人と同じ部署だった。
目黒は青ざめ、隣のデスクで書類をチェックしていた照の手がピタリと止まる。
その日の残業中。
照が会議で席を外した隙を突き、男は資料室へ向かった目黒を追い詰めた。
「やめてください……っ、今はもう、俺……」
「いいじゃん、昔みたいに可愛がってやるよ」
力任せに押し倒され、目黒の震える声が資料室に響きそうになったその時。
重い扉が、音もなく開いた。
「——何してんの、お前」
そこには、今まで見たこともないほど冷徹な瞳をした照が立っていた。
圧倒的な威圧感に、男が思わず目黒から手を離す。照は迷うことなく目黒の腕を引き、自分の背後に隠した。
「こいつに指一本触れんのも、名前を呼ぶのも、二度と許さねぇ」
低く地を這うような声。照の指が、恐怖で強張る目黒の手に絡められ、ギュッと握り込まれる。男が逃げるように去った後、照はゆっくりと振り返った。
「……めめ。大丈夫か?」
さっきまでの鋭さは消え、そこにはひどく心配そうな、そしてどこか切ない顔をした恋人がいた。
「照くん……ごめんなさい、俺のせいで」
「謝んな。……アイツに触られたとこ、全部俺が上書きしてやるから」
資料室の隅、誰にも見えない場所で、照は目黒を壊れ物を扱うように抱きしめた。
首筋に落とされる深いキス。それは、どんな言葉よりも強く「お前は俺のものだ」と告げる、照なりの独占欲の証明だった。
照は、男に触れられた目黒の肩や首筋を、まるで汚れを拭い去るかのように執拗に舌でなぞり、強い力で吸い上げた。白皙の肌に、どす黒いほどの赤紫色の痕が刻まれていく。
「……っ、ひかる、くん……痛い、です……」
目黒が短く声を漏らすが、照の手は止まらない。普段の優しい彼からは想像もつかないほど、その瞳には暗い独占欲が渦巻いている。
「痛いくらいがいいんだ。アイツの感触、これで全部消えるだろ?」
照は目黒を冷たいスチール棚に押し付け、乱暴にワイシャツのボタンを弾き飛ばした。露わになった胸元に顔を埋め、何度も牙を立てるように噛みつく。
「あ……ぁっ! ……や、だ、そこ……」
目黒の腰がガクガクと震え、逃げ場のない背中が棚に当たる音が室内に響く。照は目黒の両手首を片手で頭上に押さえつけ、逃がさないようにガッチリと組み伏せた。
「めめ、俺だけを見てろ。……アイツにされたことなんて、一瞬で忘れさせてやる」
熱い掌が目黒のズボンの中に滑り込み、容赦なくその中心を握りしめる。
驚きと快感で目黒の背中が大きく反り返り、潤んだ瞳から涙がこぼれ落ちた。
「ひ、かるくん……もっと、……めちゃくちゃにして……」
切実な目黒のねだりに、照の理性が完全に吹き飛ぶ。
二人の影が重なり合い、激しい水音と、愛おしさと憎しみが混じり合った情事の音が、深夜のオフィスに深く沈んでいった。
あの日から、照の態度は一変した。
部署内では相変わらず「仕事のデキる先輩後輩」を装っているが、その実態は驚くほど過密だ。
「めめ、コーヒー。ブラックでいいだろ?」
「あ、ありがとうございます。でも自分で行けたのに……」
「いいの。座ってろ」
照は、目黒が席を立とうとするたびに先回りする。コピーを取りに行くのも、資料を運ぶのも、他の男性社員が目黒に話しかけようとする隙さえ与えない。
まるで目黒の周りに見えない結界を張っているかのようだった。
「……照くん、ちょっと過保護すぎませんか?」
昼休憩、非常階段の踊り場で二人きりになった瞬間、目黒が苦笑いしながら切り出した。
すると照は、無言で目黒を壁際へと追い込み、太い腕で退路を断つ。
「……あの男、まだお前を見てる」
「えっ?」
「俺がいないところで、お前に近づこうとしてる。……アイツだけじゃない、他の奴らの視線も、全部うっとうしい」
照の瞳には、いまだにあの夜の暗い熱が残っている。
彼は目黒のネクタイを指先で弄りながら、わざとワイシャツの第一ボタンを外した。そこには、あの日照が刻みつけた、消えかけの赤い痕が覗いている。
「これ、消えそうだな。……また夜、書き換えないと」
「照くん……」
「お前は俺の隣にだけいればいい。仕事も、プライベートも、全部俺が守るから。……分かった?」
有無を言わせない低体温な声。
目黒は、その独占欲が少し怖いと感じながらも、自分に向けられる執着の深さに、甘い痺れを感じていた。
「……はい。照くんの言う通りにします」
目黒が素直に頷くと、照は満足げに目を細め、人目を盗んでその唇を塞いだ。
それは優しく、けれど確実に自分の印を刻みつけるような、深い深い口づけだった。
仕事帰りの人気のない歩道橋。
照が車を取りに行っているわずかな隙を狙い、元彼は目黒を待ち伏せしていた。
「……っ、離してください!」
「大人しくしろよ。お前がその男と幸せそうにしてるの、見てるとイライラするんだよ」
元彼は正気を失った瞳で、目黒の襟足を掴んで歩道橋の欄干へと押し付ける。
眼下には激しく車が飛び交う国道。
目黒の体が宙に浮きそうになったその時。
「めめ!!」
鼓膜を破らんばかりの怒号とともに、猛烈な勢いで駆け寄ってきた人影があった。
それは照。
照は迷うことなく、元彼の腕を強引に掴み上げ、信じられないほどの怪力で引き剥がした。そのまま目黒を抱き寄せ、自分の体で包み込むようにして欄干から遠ざける。
「……てめぇ、何してんだ……!」
照の低い声は、怒りで震えていた。普段の冷静さは微塵ない。
彼 は元彼の胸ぐらを掴みあげ、そのまま壁に叩きつけた。
「一度は警告したはずだ。……こいつに指一本でも触れたら、タダじゃおかねぇってな」
殺気すら漂う照の気迫に、元彼は腰を抜かして震え上がる。
照は冷徹な眼差しで彼を見下ろし、警察に通報するようスマホを取り出した。
「ひ、照くん……っ」
恐怖で足がすくみ、へなへなと座り込む目黒。照はすぐに元彼から視線を外し、膝をついて目黒をきつく抱きしめた。
「ごめん、遅くなった……。怖かったよな、もう大丈夫だ。俺がずっとついてるから」
照の大きな手が、ガタガタと震える目黒の背中を何度も、何度もさする。
その手もまた、大切な人を失いかけた恐怖で微かに震えていた。
「……もう、一歩も俺の側から離さない。仕事も、家も、全部俺が管理する。いいな?」
過保護を通り越した、執着に近い宣言。
けれど、今の目黒にとって、その強すぎる独占欲だけが唯一の救いだった。
「……はい。ずっと、照くんのそばにいます……」
夜の静寂の中、二人は折れそうなほど強く抱き合い、お互いの鼓動を確かめ合った。
あの事件の後、照は目黒を一人で一歩も外に出さなくなった。
会社も辞めさせ、自分のマンションの広い一室に目黒を「保護」している。
「……照くん、さすがにこれはやりすぎじゃない?」
リビングのソファで、照の膝の間に挟まれるように抱きしめられた目黒が、苦笑しながら見上げる。
照の腕は、目黒の腰を折れそうなほど強く締め付けていた。
「やりすぎ? お前、あのまま落とされて死んでたかもしれないんだぞ。……想像しただけで、反吐が出る」
照の声は低く、どこか危うい熱を帯びている。
彼は目黒の首筋に顔を埋め、深く息を吸い込んだ。自分の匂いだけで上書きするように。
「もう誰にも見せたくない。あいつみたいなクズはもちろん、外の連中の視線にさらすのも嫌なんだ。……お前は、ここで俺だけ見てればいいだろ?」
「……でも、仕事も行けないし」
「仕事なんてしなくていい。俺が全部面倒見てやるよ。一生、食わせる。……それとも、俺のそばにいるの嫌になった?」
そう言って、照は目黒の顎をくいっと持ち上げた。
覗き込んできた瞳は、ひどく過保護で、執着に満ちていて、けれど泣きそうなくらい必死だった。
「……嫌なわけない。照くんがいないと、俺……」
「なら、いい。……今日から、寝る時もずっと俺と一緒だ。離さないからな」
照は満足げに唇の端を上げると、逃げられないように目黒の指の間に自分の指を絡め、深く、深いキスでその声を塞いだ。
それは「守る」という名目で、目黒を自分だけのものにしようとする、甘くて強引な誓いだった。
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