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「だいきと結婚できる女の子は幸せだろうなって思ってたけど、大変そうだよね。だいきの親、一筋縄じゃいかなそうだし」
「ほんと、マジそれなんだよ。離婚原因が親だなんて、そんなしょうもないことないぜ? あの親なら付き合ってる時から何かしら口出してきそうだしさ」
「あー、だからだいき告白しないんだ。相手に迷惑かけたくないってこと? 優しすぎるだろ」
見た目はチャラくて軽そうに見えるけれど、本当に優しいよな、だいきは。
「そう……で、そこで本題なんだけど」
「ん? なに?」
残ったワインを勢いよく飲み干すと、だいきが少し顔を近づけてきた。ピンク色に染まった頬を見るに、結構酔っているらしい。
「……いつきくんさ、俺の相手してくんない? いつきくん、本気で誰かと付き合う気ないんでしょ? 時間が合う時だけでいいんだよ。ほら、そういう関係って女の子相手だと後々ややこしくなりそうじゃん? 俺も親のせいで彼女作れないし、いつきくんも作る気ないなら理にかなってるだろ。それに……」
「ちょ、ちょっと待って」
止まらなくなっただいきの口を慌てて手で塞ぐ。気づいてんの?自分が何を言っているのか。俺たち同期で友達だろ?本当に何言ってんの?
「……ダメ?」
「いや、そんな風に甘えられても」
ぶりっ子をして首を傾げたかと思ったら、だいきは「ふはっ」と勢いよく吹き出した。
「冗談じゃん! 俺らもう30だよ? おっさん同士なんて有り得ないだろ、普通」
いや、それ、こっちが言うセリフなんですけど。自分から言い出しておいて俺のことまで一緒に傷つけるのやめてほしい。こう見えて結構ナイーブなんだから。
「……あ、りゅうせいは? だいきに懐いてるし、可愛いし、若いし。あ……でも」
『俺のこと好きだし無理か』と言いかけて飲み込む。
何が無理なんだ? 俺が断ったんだから、全然アリなはずだ。だいきなら、俺より断然いい男なんだし。
「りゅうせいなぁ……あいつ、まだちょっと色気が足りないっつうか」
「色気……」
そういえば、りゅうせいも言っていたな。俺のことがエロいって。え、案外さっきの冗談、本気だったのか? 茶化して流したけど、まさか……。
「う~ん、でもいっちゃんはアリだな」
「……いっちゃんが男を受け入れるとは思えないけど」
「だろ? だから、いつきくんなんだよねぇ」
「いや、俺も男は無理だから」
「……ほんとに?」
だいきは意味深な笑みを浮かべ、ワインのおかわりを頼んだ。……りゅうせいの奴、余計なことを喋ったんじゃないだろうな。
「いつきくん、他に飲みたいのある? どんどん飲んじゃっていいよ」
「こわぁ……。絶対、ベロベロにしてお持ち帰りする気じゃん」
「絶対!……そんな事しないって」
萩原なちち
「待って!めっちゃ意味深な間があったじゃん!」
ニヤリとわざと悪い笑みを浮かべて俺をからかってくる。本当に、どこまでが冗談なのか全然わからない。だいきの瞳の奥が、酔いも相まってか妙に据わっているのが恐ろしかった。
♢♢♢
翌朝。重い頭を抱えてオフィスへ入ると、入り口で待ち構えていたかのようにりゅうせいが現れた。
「おはようございます!いつきくん!今日は絶対俺の番ですからね?」
「お、おはよう、りゅうせい。わかってるって……あぁ、昨日飲みすぎたわ。ちょっとまだ気分悪い」
あれから、だいきが仕事以外の話をしなくなったせいで気が緩み、つい飲みすぎた。それもだいきの罠だったのかもしれない。ギリギリ記憶があるうちにタクシーに乗れたことが救いだった。
「えぇ~!じゃあ今日は諦めますぅ。……今日は休肝日ですよ?身体大事にしてくださいね」
「お、おう」
あれ? 意外とあっさり突き放されて拍子抜けした。……うん、まあこれで良かったんだよな。
俺はふらつく足取りでデスクに座り、天を仰ぐ。喉がカラカラだ。冷たい水が飲みたい。
「はい、冷たいお水買ってきました。お返しは2人きりの時……いっぱいちゅうしてください」
耳元でコソッと囁かれ、心臓がゾクゾクと跳ねる。デスクには冷えたペットボトル。今、俺が一番欲しかったやつだ。手を伸ばすと、りゅうせいがデスクに手を置いて、水を押さえつけて取らせてくれない。
「……ちょうだい?」
「ん?」
ニコッと笑うだけで渡してくれない。あぁ、そうか。俺としたことが、完全に忘れていた!
「……お水買ってきてくれてありがとう。……ください?」
再度お願いしても、りゅうせいは首を横に振る。一体、俺に何を求めてるんだよ。
「……お返しの、返事は?」
またか。朝からいい年した男が何のやりとりをしてるんだ。
「……ごめんなさい。自分で買ってきます」
諦めて椅子から立ち上がろうとすると、りゅうせいが俺の肩をぐっと押さえつけてくる。無理やり椅子に封じ込められた格好だ。
「これで、お水最後でした。どうしますか?」
その時、いっちゃんが爽やかな笑顔を振りまきながら歩いてきた。よく来てくれた!俺の救世主、いや、ヒーローだな。
「いつきくんおはようございます!今日、楽しみですね?」
「おはよ、いっちゃん。……助けてくれ」
「りゅうせいもおはよ、ん? 2人、喧嘩でもしてんの?」
いっちゃんが不思議そうに俺とりゅうせいの顔を交互に見る。その件は後で説明するから、とにかく今は!
「あ、いっちゃん、水持ってない? この際、飲み物ならなんでもいいんだけど」
「あ、朝買った水ならあります。飲みかけですけど」
いっちゃんが差し出した水に手を伸ばしかけた、その瞬間だった。背後の気配が、一気に冷え込んだ気がした。