藤澤side
【病院】
長い廊下を走ってくる音がする。
若井「涼ちゃんっ、……ハアハァ……っ元貴は」
ゴッ
藤澤「なんで、なんで逃げた」
若井「いっ」
僕は走って来た若井を殴って胸ぐらを掴んだ。
藤澤「あの状況がどんな状況かわかってただろ!元貴は若井のGlareのせいで運ばれたんだ!!」
若井「……ごめん、涼ちゃん」
藤澤「謝るのは僕じゃない!!あの後僕がコマンドを出した。でも元貴はサブドロップを起こしたんだ」
若井「っ、」
藤澤「あの時若井が居てくれたら……コマンド出してくれてたら元貴は……こんな事にならなかった……」
若井「でも、元貴が俺を拒んだじゃん……嫌がる元貴にコマンドを出せって言うのかよ?それじゃあただ従わせるだけになる」
藤澤「それでも!それでもそうしないと……あの場にはdomは他に居ない、それに若井のGlareで元貴はああなったんだ……無理やりでも……若井しか居なかったんだ……」
確かにあの時僕もバニックで冷静に物事を考えられなかった……
元貴が拒否した時、躊躇いがあった。
僕も若井と同じ様に元貴の嫌がることしたくないって思った……
でも結果がコレ、最悪な状況
若井「……涼ちゃん……元貴の……今は……」
藤澤「……まだ目を覚ましてないよ」
若井「……」
藤澤「お医者さんが言うには、心身ともに疲れていたのもあるから眠ってるんだろうって、心配しなくても目は覚めるって」
若井「そっか……」
藤澤「…………ごめん……さっきは取り乱して……」
若井「いや、俺が悪いんだ………………涼ちゃん……………………俺がどうして逃げたか……聞いてくれる……?」
そう言って若井はまだふたりが学生だった、僕と出会う前の話をしてくれた
───────
若井side
若井「俺と元貴がまだ中学の時の話になるんだけどさ……」
────
──
若井「元貴ー、今日も家行っていいー?」
大森「おー。あ、そういえばアレ出来た」
若井「マジ?!聴きたい!部活終わったらすぐ行くから!」
暇さえあれば元貴に声をかけて元貴ん家に行く
当時、それが俺の日常だった。
元貴の作る曲が好きで、新しく出来るのがいつも楽しみで誰よりも早く聴きたくて仕方がなかった。
そんな俺たちに事件が起きたんだ
それが起きたのは俺が部活のない日だった。
その日は一緒に帰る前に俺は元貴と少しだけ離れた。
若井「元貴、ちょっと職員室にノート提出してくるから先に下駄箱行ってて!俺もすぐ行くから!」
元貴に下駄箱で待つように言って俺は提出物を出すために職員室に行って、急いで元貴の待つ下駄箱まで行った。
俺が下駄箱に着く直前、
「Kneel」
突然のコマンド用語が聴こえた。
元貴が居るはずのクラスの下駄箱の所に行くと、そこには数人の奴らが元貴を囲み、さっきのコマンドは元貴に放った事がわかった。
数人のGlareが漂う中、足がプルプルと震えながらも地に足がつくことに反抗しながら耐える元貴 。
「何逆らおうとしてんだよ!Kneelだよ!Kneel!!Subのくせにdomに逆らってんじゃーよ!!」
その瞬間、元貴を従わせようとしている奴がGlareと共にKneelを元貴に強要し、元貴がへたり込むの見て、ニヤニヤと笑っていた。
若井「お前ら!なにやってんだ!!!」
「!!!」
俺は奴らにGlareで威嚇した。
幸い俺の方がランクが上だったみたいで、元貴を囲んでいた奴らは俺に勝てなくて逃げた。
若井「元貴!!大丈夫か?!」
大森「あ、あぁ……、」
若井「ーっ!!」
俺は元貴がサブドロップ寸前になっている事に気付き、元貴を抱き抱え、保健室に向かった。
でも、いつもは居る先生が居なくてどうしようってなった時……
俺は元貴に承諾なくコマンドを使ったんだ。
若井「元貴、look」
抱えていたから分かる、ビクッとなりながら元貴は俺を見たんだ。
目を泳がせながら怯えた顔で
若井「Goodboy………元貴…………hug…………」
元貴の震えた手が俺に向かってのばされた
そこからは元貴が落ち着くまでそのまま抱きしめ続けた。
俺は
元貴の顔を見るのが怖かった……
しばらくは元貴の身体が震えてた
多分、急な……了承もないコマンドは嫌だっただ……
何より俺が元貴が居るのに怒りからGlareを放った事で元貴を追い込んだ
でも俺は元貴を落ち着かせる一心でコマンドを使った
その後は元貴が腕の中で寝た頃に呼びに行かなきゃって思ってた先生が戻ってきて状況を説明した。
数日元貴は学校に来なかった。
あの日の翌日、元貴を迎えに行ってたけど元貴のお母さんに入院してるって言われてたから俺は迎えに行くのをやめた。
それから1週間後くらいで元貴は学校に来た。
俺は真っ先に元貴の元に駆け寄って声をかけた
若井「元貴、もう……大丈夫なのか?その……」
大森「大丈夫、迷惑かけてごめん」
言いたい事を元貴に遮られた気がしてそれ以上俺は何も言えなかった。
それからは少しぎこちない日々が続いたりしたけど、時間とともにそれも無くなった。
あの時の話は俺たちの中では話さない、話しちゃいけない感じになって………
────
──
若井「ってな感じで今に至るんだ」
藤澤「……若井、ちなみに元貴を襲った奴らはどうなったの?……そもそもなんで元貴が……?」
若井「まだ中学生だったから退学とかは無かったけど……処罰的な事と厳重注意だったかな……でも噂が回って奴らは周りから遠ざけられる様になって……結局学校に来なくなった奴もいたかな……理由はたまたまそこに居たのが元貴ってだけ」
藤澤「そんなっ、元貴は何も悪くないのに」
若井「いじめなんてそんなもんなんだよ……ましてや中学生の頃なんて生意気ってだけでいじめるやつは居る」
藤澤「…………………僕にはわかんないや…………」
若井「涼ちゃんがいじめる奴らの気持ちがわかっても困るけどね。…………俺は……あの時の元貴の怯えた顔が忘れられないんだ……無理やり従わせた……Glareをあてた……それは奴らと同じなんだ……」
藤澤「それは状況がちが」
若井「違わないよ。元貴の了承無しだったんだから。だから……俺は……元貴の了承無しで……首を横に振る元貴にコマンドが出せなくて逃げたんだ……」
───────
藤澤side
若井「それにあの時の事を忘れてた訳じゃない。今は感情のコントロールも出来る様になった。元貴の前では二度とGlareを出すつもりは無かったんだ」
藤澤「じゃあどうして……」
若井「昨日、元貴と涼ちゃんと会った時の事を涼ちゃんが来る前に話してたんだ……元貴は当たり前の事しか言ってないのに俺が悪いんだ……俺……元貴を好きだから……元貴に言われた事がショックで……」
藤澤「元貴になんて言われたの?」
若井「女を作っても俺には関係ないけど迷惑かけんな的な……」
元貴……なんでそんな言い方するかな……流石に若井が可哀想だと思った。
若井「んで、元貴が話は終わりってなって元貴の手を掴んだ時に涼ちゃんが来て……『ベッドメイキング』って言葉聞いて……」
あー……
若井からすれば本当は好きな相手に女と居るとこ見られた上に別の男と一夜を共にした様な事を聞けば無意識に僕に威嚇するのも無理はない。
だからと言ってGlareを出していいわけではない
あの時の元貴は元貴で行動を見れば昔のことがあるから若井からのコマンドを拒否したのだろう
下手したら命に関わると言うのに……
藤澤「若井の言い分はわかった……それとごめん、何も知らなくて若井を殴って」
若井「いや、逃げたのは事実だし、もしかしたら元貴がもっと最悪の事になってたかもしれなかったのに俺は……」
藤澤「大丈夫、元貴はもう少ししたらちゃんと目が覚めるって……そしたらちゃんと謝ろ?」
若井「ありがと、ありがとう涼ちゃん……うぅ、あぁぁぁ……」
藤澤「大丈夫、大丈夫……」
感情が爆発したかの様に若井は泣き出した。
僕はそっと若井を抱きしてめて、落ち着くように背中を擦る。
若井は若井で辛かったんだ
domとして好きな人に無理やり従わせたという過去をずっと悔やんでいた
ふたりをなんとかしてあげたい
でもふたりが乗り越えなきゃいけない問題
何もしてあげられない歯痒さに僕は若井の背中をギュッと抱きしめた。
コメント
4件
涼さぁぁぁぁん😢 若井さんも不器用ながら大森さんの為を思ってしたことなんでしょうね、
はああぁぁ、、拗れる…そしてこれからも拗れまくるんだろうなあ…。 こういう複雑なお話、読み応えがあって凄く好きなのでもう舞い上がっちゃいます🫣 次も楽しみにさせていただきます🥰