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4、縊死
「ではまず、自殺の基本、『縊死』から説明していくね。」
時刻は八時四七分。
外はきっともう暗くなっているはずだ。冬だからもう日が短い。
きっと俺たち以外誰も来ない(はずの)倉庫の中で、腰までの髪をハーフアップにして、こんな真冬だというのにカーディガン1枚(それも結構薄そうなやつ)だけを羽織った少女———— 珠焉(みこ)が、自殺の種類について説明している。
俺に。
「よろしくお願いします。」サッと、軽く一礼をする。
さっき、彼女と一通り話し、彼女の大体を知った。
彼女の名前は珠焉(これは前から知ってる)。
歳は16で、俺の一個上。高校1年だ。
塔こそ違うが、俺の学校の生徒だった。
まぁでなければこんな倉庫には来ないだろう。
死にたいと思ったきっかけとかは教えてくれなかった。
『乙女には秘密も必要なの❤︎』なんて言っていた。なんかもう慣れてしまった。やはり慣れとは怖いものだ。
「『縊死』は自殺の王道だよね。」
「はい。」
実際俺もソレで死のうとしてたし………なんて言ったらきっと嗤われる。
「あれって首を縄で括って圧迫させることで、首の骨が折れて死ぬんだったり、窒息して死んだりするの。」
(よく知ってるな……。)
思わず拍手をしそうになったが、彼女が今言っていることと自分が今考えていることを改めて考えると、『やめよう』という結論に至った。
「じゃここでクイズ。『何故自殺では縊死が王道なのでしょうか??』」
「え」
突然のクイズに頭が真っ白になった。ビビった。
「ウェェェ!?!?」
なんか急にシンキングタイムがスタートされた。どうしよう。
「5」「⁉︎⁉︎⁉︎」
「4」「えっちょっ、まっ」
だからニヤニヤすんなって。鳥肌立つんだよまじで。
「3」「え、えぇと…」
「2」「…………………」
「い」「わ、わかった!」
「……………ほう?答えてみたまえよ皐月君。」
「俺は皐月じゃありません幸です。あとニヤニヤするのやめてくれます?俺『ニヤニヤ恐怖症候群』なんですよ。」
あ、つい言ってしまった。
『ニヤニヤ恐怖症候群』。引かれるな。
「に、『ニヤニヤ恐怖症候群』……………⁇⁇⁇」
(あぁ、引いてるな。)
見ただけでわかる。目が点になってるし。口も板チョコが横に入るくらい大きく開いている。
心がまた深い闇の中に沈んでいく。
きっと彼女も俺のことをあざ嗤……
「!?」
急にお腹を抱えて笑い出した彼女の行動に、俺は目を丸くしてみていることしかできなかった。
「アハッ、ハハハハハ、何それ、『ニヤニヤ恐怖症候群』⁉︎」
「あ、はい……」
驚いた。
この人は他と違う?あざ嗤わない。
純粋な『笑い』⁇⁇
闇の中に沈んでいた心がトランポリンのように跳ね返ってきた。
「何よソレ!??おっもろしろい病気!!」
「あ……」
悪口を言われているのか言われてないのかわからないけれど、きっとこれは悪の「嗤い」ではない。心からの『笑い』だ。
「腹痛くなる!!フッハハハハハ!!」———————
「フフッ……………………ハー、ハー……あ、ごめん笑いすぎた。」
彼女が涙を拭い我にかえるまでの20分間、俺はずっっっっっっっっと倉庫の隅でしゃがみ込んでいた。
「ここ寒い……。」
つづく