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「玲くん、またフリーお願いねー」
スタッフの声に、はいと返事をしたけど、
心のどこかが、ざわついていた。
ドアを開ける。
ソファに座っていたのは──
やっぱり、あの人だった。
「こんばんは」
「また当たっちゃったね。……運命かも」
冗談みたいに笑う顔。
でも、視線はまっすぐだった。
「偶然、です」
「ふーん……そう思うなら、そうなんだろうね」
タメ口。
客と従業員の距離感じゃない。
普段なら、気になる。
けど、なぜか──嫌じゃない。
僕はまた、知らないふりをした。
でも、
「玲くんって、どんな食べ物が好き?」
「休日って、何してるの?」
「最近、よく眠れてる?」
その人は、僕の“中身”に触れてこようとする。
この店に来る人は、
「可愛いね」とか、「癒される」とか、
表面だけを見て満足する。
でもこの人は違う。
僕のことを、
もっと、
知りたいって──そんな目をしてた。
「……フリーのお客様に、プライベートな話はできません」
小さくそう返した僕に、
彼は少しだけ、笑って目を細めた。
「じゃあ、次は指名する」
その言葉が、
冗談なのか本気なのかも、
よくわからなかった。
ただ。
心臓が、
また少しだけ、
うるさくなった。
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