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そして文化祭が終わり、ステージを片付け病院に戻る。二葉がもう少しあの丘の上で歌いたいというので庭の丘の上で五人で集まり歌っていた。すると、そこにコウタ先生がやってくる。「なぁ、君たち。その音楽を世界に広めてみないか?」
「……え?」
世界に広める。一体どういうことなのだろう?
「今日のステージがあまりにも素晴らしかったと獅子合おじさんが言っていてな。ぜひお前たちの活動をバックアップしたいそうだ。」
「春川組がですか!?」
申し出はありがたいが、あの人は極道なのではなかったか。
「いや、正確にはバックアップに回るのは私だ。」
コウタ先生の隣にいたのは初老の女性。墓地にいた男性よりは年上に見える。
「私は雨宮優香。何でも屋のオーナーで雨宮家の跡取りさ。」
相当の大物だった。この辺では雨宮家はかなり有名だ。
「雨宮家ってことは玲子さんの……」
「あぁ。私は玲子の姉でね。かわいい妹だったよ。」
優香さんは寂しそうにそう言った。そして彼女はカバンの中から書類を引っ張り出すと私たちの前に置いた。
「この都市で開かれるバンド大会「炎会」。それに出てみないか?」
「炎会」それはこの都市で開かれる秋の一大イベントだ。確か雨宮家がスポンサーに入っていてこの都市出身のガールズバンドグループが集うらしい。そんなイベントに出れるとは願ってもいないことだった。
「そんな大きいイベントに出てもいいんですか?」
「もちろん。むしろこれを踏み台に君たちには世界に飛び立ってほしい。」
「でもどうして私たちが?」
優香さんは一冊の日記を取り出した。
「玲子はね、ずっと願っていたんだ。奇病を患う人たちが生きやすい社会が来るように。君たちにその夢を託したいんだ。」
私たちが玲子さんの夢を、願いを叶える。それは大変な役割だ。でも私たちの答えは決まっていた。私たちは顔を見合わせうなずくと
「わかりました。その夢、玲子さんの代わりに叶えます。」
「頼もしいね。バックアップは任せておきなさい。」
優香さんは力強くそう言うと病院を後にした。
その後、私たちは普通に学校に行って、勉強して、練習して、いつも通りの日常を過ごしていた。その帰り、学校の前に男の人が立っていた。
「星歌……か?」
声をかけてきたその男は今にも涙を流しそうだった。
「あなたは?」
「そ、そうか……わかるわけないよな……俺は、君の血のつながった父親なんだ。」
父親、父親と言ったか、この男は。
私は生まれた時から父の顔を見たことがなかった。なぜ今更こうして声をかけてきたのだろう。
「本当にすまない。迎えに来るのが遅くなった。少し、話せないだろうか」
私は桜と奏を先に帰らせ、父親と名乗る男と近くのカフェへ入った。
「実は君が生まれたあの日、俺は仕事が立て込んで病院へ向かうのが遅くなった。生まれたと病院から連絡があって数時間後にやっと病院に着いた時、そこにいたのは赤ん坊だった君と俺の母親だった。」
確かに祖母は父方の祖母だった。亡くなってからこの人が手を合わせに来たことはなかったが。
「母は、君を引き取るというのであればすぐに妻と別れ、縁を切るようにと言って君を奇病専門医のところへ連れて行った。そして本当は、君をすぐにでも引き取るために離婚を突きつけようと思っていた……でも、妻はそれを許してくれなかった。」
その後の男の話によれば、何度も離婚の話を出したそうだ。母方の祖父母も交えて。しかし向こうはそれに猛反対。祖父母は「結婚したのなら最後まで妻と共にいるべきだ」と。母は「私よりあんな子供の方が大事なのか」と。その言葉に男も堪忍袋の緒が切れて別居をしたそうだが、付きまとわれ、街中で包丁を突き付けられたそうだ。
「この事件があって、母は君を連れてこの街に来たんだ。本当は俺も一緒に住みたかったけど、俺がそばにいたら間違いなく君を危険にさらすことになる。それだけは避けたかった。遠い北の地に移住して母の手紙で君の成長を見守っていたんだよ。」
「そうなんですか……では今こうして会いに来ているのはどうして?」
「妻が亡くなったんだ。自殺だったそうだよ。二カ月前、警察から連絡があったんだ。」
母が亡くなった。まぁ、今更死を嘆くつもりもない。母の記憶などないに等しいし。
「二日前、君の学校で文化祭があっただろう?君たちのステージを見ていたんだ。とても素晴らしい演奏だったよ。」
「それはどうも……」
そんな風に言われると少し照れくさい。
「君は、今年で卒業だよな……今後の進路は考えているのかい?」
「みんなと音楽を続けていくこと以外には特に。」
そう言うと男はパンフレットを取り出した。
「阿奈街に有名な音楽院がある。もし音楽を極めたいならここへ行ってみるか?」
私はそのパンフレットに目を通した。そこには学費のことも書かれていたがあまりに高い金額に目が飛び出そうになる。
「うーん……入学金とか学費とか払えるかな」
「そこは心配しなくていいよ。すべて俺に請求してくれていい。俺ならなんとかできるから。」
そう言って男はカバンからカッターを取り出し自身の腕を傷つけた。
「ちょ、ちょっとなにを……!?」
男の腕からは血ではなく赤い結晶が流れ落ちる。
「俺の血はルビーに変わる。そういう病気なんだ。今更君と一緒に住みたいなんて言わない。だから、せめて今までの罪滅ぼしをさせてほしい。」
あぁ、なんで人は己を犠牲に誰かを幸せにしようとするのだろう。ヒロト先生が話してくれた玲子さんも己を犠牲にした。私はそれに心底腹が立った。
「そんなことをしなくても私は自分でお金を稼ぐ!今までの罪滅ぼしをしたいというのならあんたが死ぬまで私と一緒にいなさいよ!!」
私はそう叫んだ。父は目をぱちくりとさせて驚いていたが、これが私の答えだ。
「ありがとう、優しい俺の娘。……いや、星歌。」
その夜、私はヒロト先生達に電話を入れて、父と共に一夜を過ごした。今まで感じたことのない父親の温もり。二葉や真希が家族を大事にしたい理由がやっと私にもわかった気がする。