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次の日、父は病院から私の荷物を取ってくると言って先に家を出ていった。私も軽く家の掃除をして学校に向かう。昨晩渡された家の鍵。家は私が生まれる一年前に建てられ、私が生まれてからは使われてこなかった。「ここが私の家……か」
まだ新築に近いこの家に、私はまだ慣れそうにもない。
学校で私はみんなにこの話をした。
「そっかー、星歌ちゃんにも本当の家族がいたんだね!」
「よかったじゃん、帰る場所ができて。」
「それに進路も決まったようなものだし、よかったな!」
奏も嬉しそうにうなずいた。そうだ、私にやっと帰る場所ができたんだ。そう考えると少しうれしかった。
「でも桜ちゃんと奏ちゃんは孤児院出た後どうするの?」
「あたしらは二人で住むことになったんだ。病院にほど近いアパートに。」
確かに孤児院は高校を卒業した後でなければいけない。コウタ先生は独り立ちする子供たちに住むところを用意して、せめて自分で稼げるようになるまでは住んでいいと言ってくれた。
「そっか、それならしばらくの間はうちの弁当おすそわけしてあげるよ。」
「いいってそんなことしなくて……」
「だーめ。桜はすぐ食事を抜こうとするんだから。」
私たちは話をしながら練習してお昼休みを過ごした。
そして炎会前日。すでにSNS上には多くのコメントが寄せられており、私たちのバンドに期待を寄せる声や、同じように奇病を持つ人々がこの祭りに参加するといった情報が飛び交っていた。文化祭の時とは比べ物にならないほどの注目を集めていることを実感し、私たちは少しの緊張と高揚感を抱えながら当日を迎えようとしていた。多くの人が足を運ぶと予想される中、プレッシャーを感じないわけではなかったが、私たちは「いつも通り最高の音楽を奏でることに集中しよう」と決意を固めた。
リハーサルのため、炎会の会場である燐街の春杜公園へ向かうと、そこにはすでに準備に集まった多くの人々の姿があった。屋台を設営する人、ステージの機材をチェックするスタッフ、炎会の衣装を身にまとい気合いを入れている出演者たち——公園全体が熱気に包まれ、まるで祭りがすでに始まっているかのような雰囲気だった。
そんな中、私たちは奥の方で見覚えのある人物を見つけた。炎会の主催者の一人であり、私たちをこの舞台へと導いてくれた優香さんだ。彼女はいつも通りの落ち着いた笑みを浮かべながら、こちらに歩み寄ってきた。
「やぁ、準備は万端かい?」
彼女の問いかけに、私たちは互いに視線を交わしながらうなずき、リーダーである星歌が自信を込めて答える。
「えぇ、抜かりなく。」
優香さんは満足そうに微笑み、私たちの背後に広がるステージへと視線を移した。
「それはよかった。君たちを一目見ようと、想像以上に多くの人が集まる予定だよ。その期待に応えられるよう、全力を尽くしなさい。いいね?」
「はい!!!」
私たちは声を揃えて力強く返事をした。胸の奥に熱いものが込み上げてくる。この舞台に立つことに意味がある。ただの演奏じゃない。私たちの音楽で、奇病を持つ人々の想いを届ける。その覚悟を胸に、リハーサルへと向かおうとした——。
しかし、この時の私たちは思いもしなかった。
まさか、あんなことが起こるだなんて。
そして次の日の夜。私は鏡の前で髪をセットし、衣装を整えていると、父がそわそわとした様子で話しかけてきた。
「な、なぁ星歌。本当にいいのかい、スーツじゃなくて。」
「もう、野外ライブなんだからスーツで行ったらおかしいでしょ。」
「それはそうなんだが……」
心配そうな父の視線を背に、私は最後にネックレスの位置を確認し、意を決して立ち上がった。
「いってきます!」
「いってらっしゃい!」
父の声を背に、私は足早にバス停へ向かった。夜の街はひんやりとしていて、胸の高鳴りを落ち着かせるにはちょうどよかった。ちょうどやってきたバスに乗り込み、座席に深く腰を沈める。窓の外に広がる街並みを眺めながら、今日のライブのことを思い描いた。
(私たちの音楽で、何かが変わるかもしれない。)
そんな期待と興奮が混じり合い、胸の奥がじわじわと熱くなる。
会場である春杜公園に到着すると、すでに他の仲間たちは準備を進めていた。舞台袖の控室では、みんながすでに衣装に着替えている。
「あ、やっと来た。」
「遅いよ、星歌。」
「ごめんごめん。」
時間はまだ集合予定の五分前。それなのにみんなの視線には待ちわびたような色が滲んでいた。
「みんな、待ちきれなくて一時間前に来ていたのさ。」
真希が小声で教えてくれた。
「ちょっと真希、人のこと言えないでしょー。」
「真希は二時間前に来ていたんだよ。」
「あ、こら奏!こんなときに限って口を開くんじゃない!しかもそれは言っちゃダメなやつ!」
控室には楽しげな笑い声が響く。その緊張感のないやりとりが、不思議と私の肩の力を抜いてくれた。
そんな私たちの前に、優香さんが静かに姿を現した。
「さぁ、最初はBrave Memoriesだよ。幕が上がると同時に君たちの出番だ。用意はいいかい?」
「はい!!!」
私たちは円陣を組み、互いの目を見つめる。
「いい?全力を尽くすよ!」
「おう!!!」
そして、いよいよステージへと向かう。幕の向こうには、すでに多くの観客が集まり、熱気が満ちているのがわかった。
(大丈夫、みんなとなら最高の演奏ができる。)
そう自分に言い聞かせ、幕が上がる瞬間を待つ。しかし——。
「炎会は中止だ!」
突如響いた怒号に、場の空気が一変した。
——パァン!!
大きな銃声が響き渡り、観客の悲鳴が公園中に広がる。
「さぁ、奇病狩りの始まりだ!」
「おう!!!」
何人もの黒ずくめの男たちが会場になだれ込み、奇病持ちの人々を狙って暴れ始めた。あちこちから悲鳴と叫び声が響き、観客たちはパニックになりながら逃げ惑う。
「一体何事!?」
「まずい、この会場にいる奇病持ちの人を狙ってきているんだ!早く逃げろ!」
バンド仲間も次々と混乱し、動揺の色を隠せない。
(このままじゃ……みんなが危ない!)
心臓がバクバクと早鐘を打つ。この会場には、宝血病を持つ父も来ている。もし、もし彼に何かあったら……。
「どうしよう、星歌!?」
二葉の震える声が耳に届く。
(戦わなきゃ。でも……どうやって!?)
玲子さんのような力は、私にはない。どうすればいい?
そのとき——。
「星歌。」
真希が私の肩をポンと叩いた。
「戦いは、私たちの専売特許だよ。」
桜もこちらを見て、静かに微笑む。
「あんたは歌うことに集中して。ベースとキーボードはちょっと抜けるけど、それでも大丈夫でしょ。」
二人はすでに覚悟を決めていた。
ならば、私が言うべき言葉はひとつだけ——。
「……わかった。絶対に怪我しないでね。」
「了解、リーダー。」
私は幕を上げるスイッチを押した。
幕が上がると同時に、真希と桜が飛び出していく。
「この炎会を襲う賊ども!私たちの音楽は誰にも邪魔させないし、誰にも止められない!」
マイクを握りしめ、私は叫んだ。
真希は天狗の力を存分に発揮し、桜は戦場で培った技術で次々と賊をなぎ倒していく。残された私たちも音楽を奏で続け、二人の闘志をさらに沸き立たせた。発砲しようとする賊もいたが、その前に真希が疾風のように駆け、次々と気絶させていく。
「よく戦った。あとは俺たちに任せてもらおう。」
突然、低く響く声が耳に届く。
そこにいたのは——墓地で会った男と、校長先生だった。
「君たちは演奏に戻りなさい。」
「は、はい!」
二人が戻ってくると、音は一層熱を増した。ペンライトの光が波打ち、歓声が広がっていく。
(今はこの音を——最高の頂へもっていく!!)
フィナーレを迎えても歓声は鳴りやまなかった。
思わぬトラブルはあったけれど、観客たちは歓喜に包まれていた。
私たちは——最高の音楽を届けられたのだ。