テラーノベル
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本部席のテントは、熱気のこもったコートとは対照的に、冷ややかな空気が流れていた。
小谷先生はパイプ椅子に深く腰掛け、私が運んできたスコアシートを無言で受け取ると、手際よくチェックし始めた。
「……先生、お疲れ様でした」
「……ああ」
先生は顔を上げない。隣では成瀬先輩が、先生が書き込むペンの動きをじっと見つめている。その眼差しは、1年生のあの合宿で自分を助けてくれた絶対的な存在への信頼と、それ以上の熱を孕んでいた。
「……朝倉。あいつらの言葉を、まともに受けるな」
不意に先生が口を開いた。資料に目を落としたまま、その声はいつもより低く、突き放すように響く。
「え……?」
「凌は自分の見せ方を熟知しているし、遥は感情を制御できていない。どちらも、まだガキだ。お前はマネージャーとして、あいつらの『遊び』に付き合う必要はない」
先生の言葉は、まるで私をあの兄弟から引き離そうとする壁のようだった。
隣で聞いていた成瀬先輩が、少しだけ悲しそうに、でもどこか悟ったような顔で笑う。
「先生、言い方ってものがあるでしょ。……でも、紗南ちゃん、先生の言うことも一理あるのよ。あの人、口は悪いけど、結局は部員のことが一番……いえ、部員のテニスが一番大事なんだから」
成瀬先輩はそう言って、先生の肩に手を置こうとした。
先生は、それを無愛想に肩をすくめて避ける。
「……成瀬。お前は自分の仕事をしろ。……朝倉、スタッツの整理が終わったら戻っていいぞ。あいつらに、次の試合まで無駄に動くなと伝えておけ」