祐希Side
 
 「ねぇ、Kissする時なんで目つぶるんやろ?」
 
 あれはいつだったか‥。何気ない会話の途中でポツリと呟かれた一言。
ん‥?と振り向き藍の横顔を見つめた‥のは覚えている。
何故そんな事を聞くのか‥会話の前後に引っかかるような話をしていたわけでもないのに‥
 ただ、あまりにも他愛ない会話をしていたせいで‥その後に俺は何と答えたのか‥必死で思い返すが‥思い出せないまま。
 
 今になって後悔の念が押し寄せる。
 ただ‥
 
 振り向き見つめた藍の横顔がとても綺麗だった‥俺の知らない横顔‥
 
 それだけは何故か鮮明に覚えている。
 
 
 
 いつからなのか。お前の心が揺らぐようになったのは。
 “ごめん、今日は会えない”
 スマホの画面に表示された文字を眺め、ふぅと溜め息をつく。最近会ったのはいつだったのか。少し考えなければ思い出せない程になっている事に‥ふと気付く。いや、考えないように無意識にしていたのかもしれない。
 
 心の行く先を知ってしまえばもう‥。
 
 
 こんなにも目まぐるしく回る時代なんだ。立ち止まってなどいられない。
日々変化する。
人も街もこの景色も‥いつだって同じではいられないのだから。
 
 
 「祐希さん♡」
 無邪気に俺を呼ぶ藍。人懐っこく、それでいて少し生意気そうな表情をして甘えるように俺の名前を呼んでくれるのが‥好きだった。
自分の物みたいに呼ぶお前が
愛しかった‥
 
 
 
 
 数日後‥久しぶりに藍と逢うことが出来た。
と言っても、夜の限られた時間だけ‥。
 
 
 そんな限られた時間の中‥
俺達は身体を重ねる。乱れた呼吸。獣じみた声。
いつもなら気にしてしまう散乱した服にも気に留めることなく‥行為に及んだ。
 急かすように脱がせた服が床に散らばる。
 
 「なんでそんなに急ぐん?」
 貪るように絡み合う口づけの合間に藍から尋ねられるが、答える気にはならなかった。
 ただ、藍が欲しかった。俺で埋め尽くしたかった‥その身体も心も。
 思いのままに藍を抱いた。深く貫くと、しなやかに身体を反らし‥綺麗だと見惚れてしまう。
俺の動きに連動し、揺れる身体。堪らなく淫らで艶めかしい。
 
 「やら‥も‥い‥イク‥んんん‥」
 
 俺の下で身体を震わせ、熱を解き放つ。はぁはぁと乱れた呼吸すら愛らしい。
 藍の達した証を確認した後に、動きを速めた。腰のぶつかる音、卑猥な音に耳を支配され‥達するのに時間はかからなかった。
 
 奥深くへと自身を潜り込ませ‥絶頂に達する。
ドクン‥と鼓動が聞こえ‥確かな存在を感じながら深呼吸をする‥
 「もう終わったんなら抜いて‥」
 
 余韻を楽しむ暇もないのだろうか。最近の藍は行為が終わればすぐに離れようしている気がしてならない‥
 ズルリと自分の欲望を引き抜くとまだ淫らに開ききっている部分を凝視した。物欲しそうにしているのに‥そう思ってしまう俺は可笑しいのかもしれない‥
 
 ベッドにゴロリと横になると‥すぐに携帯を取り出し画面を注視する藍の横顔が光で照らし出される。
 2人で過ごせる時間も後少しなのに‥そんな思いを抱えながら柔らかい髪をそっと撫でた。何かを確かめるように‥
 
 「ねぇ、藍?今度いつ会える?」
 「ん‥まだわからんかも‥」
 「そっか‥最近あんまり会えてないよな‥」
 「そうっすか?こないだ会った気がするけど」
 「‥そうかな‥ねぇ、藍?もしかして‥」
 「‥ん?」
 
 「‥‥いや‥何でもない‥‥」
 
 言葉を濁す俺を見て‥ふーん、と言うと‥またスマホに釘付けになる。
 何で俺は聞こうと思ってしまったのか‥。自分の言動を恥じる。
 問いかけてしまったら‥
 真実を知ってしまったら‥
 
 
 すべてを失うとわかっているのに‥。
 
 だから俺は‥
 真実から遠ざかる。
大事だから。大切だから。
 愛しい姿が消えないように‥
 
 
 
 会う回数が減った。連絡も徐々に少なくなり‥
誘うのも俺からになったのはいつからなのか‥。
 
 
 それでも、会えると分かれば少しの時間でも駆けつけ、愛しい恋人を抱き寄せ愛を囁いた。
 身体を寄せ合い、未来への約束も交わす。
 それは2人だけの世界‥だったはずだ。
 
 なのに‥
 
 
 時々見る藍の表情は‥俺の知らないものだった。
そして‥麗しくなっていく‥。様変わりしていく姿を俺はただ眺めるしかなかった。
 
 
 他に好きな奴がいるの?
 
 聞けるわけもない‥。
 
 ただ、身体を重ねた後‥微笑み、愛を囁く俺を見て次第に藍の瞳が閉じていく事に気づいてしまう‥
まるで見ないようにする仕草に‥
 
 真実が見え隠れしている。
 
 
 藍も心が痛むのだろうか‥
 
 
 時間は残酷にも過ぎ‥身支度をする藍を見つめていたが、そっと声をかける。
 
 「前にKissする時なんで目をつぶるのかって俺に聞いただろ?」
 「えっ‥聞いたっけ?」
 「多分‥Kissに溺れたいからじゃないかな‥味わうために」
 
 「くすっ、何なんそれ?笑」
 「好きな人とのKissは味わいたくなるだろ?俺は藍とKissするのが好き‥ずっとしていたい」
 
 
 熱く見つめると‥身支度の終えた藍が俺を見てふと笑う。
 
 
 ああ‥
 
 なんでそんな悲しそうに笑うんだろうか。
 
 
 
 近くにいるはずなのに‥
 
 
 とても遠い気がした。
 
 
 
 玄関まで見送り「さよなら」と最後に告げる藍を抱き寄せKissを送る。
 
 もちろん目を閉じながら‥
 
 
 
 俺はこれからもきっと
 
 
 目を閉じるだろう。
 
 
 
 
 
 
 
 お前の本当の気持ちに気付かないフリをする為に‥
 
 
 
 
 そう‥
 
 
 
 Kissの時に目を閉じるのは‥
 
 
 見たくないからだよ‥
 
 
 
 
 見てしまったら‥
 
 
 
 
 
 
 きっともう‥
 
 
 
 
 
 
 戻ることは出来ない
 
 
 2人だけの世界には‥。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 End
 
 
 
 
 
 
 
 
 ほんの少し‥12さんが心変わりをしてしまったらどうなるのだろう‥そう疑問に思ったことを今回はテーマにしました。
 
 
 気付くのか‥気付かないフリをするのか‥
 
 
 
 
 
 
 
コメント
5件
コメント失礼します😊 今回のお話は普段の甘い感じより切ない感じで甘々なお話も好きだけど切ない感じのお話も好きです❤️😊次回のお話も楽しみに待ってますね♪ゆうらんさんのお話は本当に最高です😊 これからも頑張ってください👍 応援してます📣
切ない!だがそこが良い!って感じですね~