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いつも通りパソコンの前に座って配信を始める。
人気のゲームをやるわけでもなくいつも通り適当なコメントを拾って、雑談をする。夏休み中ということもあって、コメントの流れは普段より少し早い気がする。
明日の動画何を取ろうかなんてことを考えながらタバコを片手に今日起こったことをメインに、コメント欄を見ながら話す。
40分くらいそうしていただろうか、普段のコメントに変なコメントが混ざってくるようになった。
『キル今日何食べた?』
『キルくん怒んないで~』
『初見です』
『弐十くんと電話できますか』
『wwwww』
『雑にもほどがある雑談』
『それで童○は無理がある』
『かわいかろうww』
おそらくは弐十くんの視聴者であろうと思われる弐十くんのイラストをアイコンにしたコメント。
若干イラつきはするが、この程度なら時々いるマナーの悪い視聴者がやることだから気にせず無視する。1人ではなく複数人いることが気になりはするが。
さらに10分ほっど立ったころだろうか、弐十くんの視聴者と思われるコメントが一気に増えた。先ほどまでは99:1くらいの割合が今では6:4になっている。しかも中にはスーパーチャットをしてまでコメントをしてくる。
『お願いします。弐十くんと連絡とって下さい(1000円)』
『キル怒っちゃダメだよww』
『コメント欄やばくね?』
『弐十くん大丈夫?』
『マナー悪い奴大杉』
さすがに我慢の限界だ。スーパーチャットをした1人に狙いを定めて注意でもしようと口を開く。
「あのさぁ、スーパーチャットはありがたいんだけど、さっきから弐十くん云々のコメントしてるやつら何?今弐十くん配信やってるでしょ?そっち行ったら?」
『ミュートになってしばらく音沙汰無い(1000円)』
再び送られてきたスーパーチャット。そのコメントに少し不安になる。これがニキならドッキリとかの可能性も考えるがあいにくアイツはそういうことをするタイプではない。
それに弐十くんはあまり健康とは言えない。昔はなんやかんやで配信を中断することもあったりしたし、最近もなんやかんやで忙しかったらしいからもしかしたら体調を崩したのかもしれない。
「わかった。今から配信閉じるけど、もし嘘とかなんかだったから許さないかんね」
さっきのコメントのやり取りから、弐十くんへの心配のコメントだらけになったコメント欄に向けて言い放つ。
配信を閉じてとりあえず一旦事実確認の為に弐十くんの配信を見に行く。——どうやら嘘ではないらしい。弐十くんのコメント欄によるともう1時間近くミュートが解除されていないらしい。かといってマイクの不調やミュートの解除し忘れでないことも、V体や手元の映像もさっきから全く動かないことからわかってしまう。
確かにこれでは弐十くんの視聴者が不安になるのも理解できる。かといって俺の配信であんなコメントをするのはどうかと思うが。
ないとは思うが企画である可能性も考えてDiscordにメッセージを送る。”なんかあった?”
それと同時に俺へのドッキリの可能性も考えて最強無敵連合のグループの方にもメッセージを送る。”弐十くんのことで何か聞いてる?”
チッチッチッチッチ
予想通りというか、なんというか、秒針が1周してもメッセージが帰ってくることはなかった。
本格的に心配になり弐十くんに電話を掛ける。
1コール、2コール、3コール
出ない。一向に出る気配がない。
どうするべきか考えあぐねていると電話がかかってきた。
弐十くんからかと思って出ると、どうやらグループの方らしく、ニキから通話がかかってきた。
「キルさあ、メッセ急にどうしたの?弐十ちゃんなんかあった?」
「え、みんななんも知らない?」
背筋に冷たい汗が流れる。もしかしたら倒れているかもしれない。強盗かなんかが入ったのかもしれない。弐十くんは家の周りの情報をよく話してしまうからガチ恋かなんかに家が特定されたのかもしれない。
「——テ、ルテ、キルシュトルテ!」
「え、あ、あれ、キャメさん」
りいちょ以外の女子研組は撮影中だったらしく、ニキとの通話からはしろせんせーとキャメさんの声も聞こえてきた。
「それで、キル、弐十ちゃんがどうしたん?」
しろせんせーたちのその言葉で少し落ち着く。現状を説明すると、通話の向こうが一瞬静まり返る。
「……いや、でも、寝落ちとかじゃないの?」
いつの間にか通話に参加していたりいちょの、いつもより強張った声が聞こえる。
「弐十ちゃんが寝落ちはないんとちゃう?」
「俺も、ボビーに同意。弐十ちゃんて意外とそうとこちゃんとしてるじゃん」
ニキの言葉に俺も同意だ。いろいろ雑に見えて案外ちゃんとしている。弐十はそういうやつだ。それを4年間俺が一番近くで見てきた。
既読は、まだつかない。
「とりあえず、俺たちは今いるとこから弐十ちゃん家までそんなに離れてないから行くとして、りいちょは弐十ちゃんの配信見て異変があったらすぐ教えて」
「わかった」
「シードは?いる?」
「おるよ」
「じゃぁ、今すぐ配信開始して」
「え、なんで今配信すn」
「説明!リスナーに!機材トラブルかなんかでバグってますって適当にごまかして!」
「わ、分かった」
「キルも弐十ちゃん家いくでしょ?」
「うん」
ニキの言葉に即答する。こういう時はリーダーなだけあって指示が的確だ。本当に時々だけど。
弐十くんの家が近くてよかった。心の底からそう思い、財布と鍵だけを掴んで家を飛び出した。
もちろん通話はつなげたまま。
タクシーを捕まえてできるだけ早く着けるように伝える。
信号待ちの時間すら煩わしくて、つい足が細かく動くのを止められない。
念の為、マンションから少し離れたところでおろしてもらう。
お釣りのやり取りやなんやらで時間が奪われるのが嫌で、財布から適当に札を掴んで運転手に渡す。引き留められなかったってことは足りたってことのはずだ。……多分。
「あと10分くらいで着く」
通話越しにニキの声が聞こえる。
エレベーターを待つ時間も惜しくて弐十くんの家がある階まで駆け上がる。
息が上がっているのはきっと、日ごろの運動不足のせいだ。俺にここまでさせてドッキリかなんかだったら絶対一発殴る。
りいちょが何も言っていないということは弐十くんの配信に変化わないということだ。
ドアの前でいったん息を整える。
ニキ達が着くまではまだ時間がありそうで待っていられなかった。
ドンドンと強くドアを叩いて中にいるであろう弐十くんに呼びかける。
「弐十くん!弐十くん!おい、弐十!早く出ろよ!いるよな!弐十!」
何度呼びかけても弐十くんが出てくる気配がなかったからしびれを切らしてドアノブに手を伸ばす。
そこまでして弐十くん家の鍵を持ってないことに気が付く。こんなことなら合い鍵でも作っておけばよかった。
頭ではそう理解していても、体は目の前のドアを開けようと動作を止めない。
ガチャッ
「え、」
鍵がかかっていなかった。
弐十くんの家は俺やニキと違って、物は多くとも整理整頓がしっかりとされている。にもかかわらず、今俺の目の前に広がるのは見るも無残と言いたげに荒らされていた。
強盗だ。とっさにそう理解した。
今更ながら息を殺すと配信部屋、防音室の方から人の気配がしたからそこにゆっくりと向かう。再びドアを開ける。
「は、」
目の前に広がったのは当たり前に配信機材。
そして、床に押し倒された弐十くんと弐十くんに覆いかぶさっている小太りのおっさん。
考えるより先に体が動いていた。
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