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ショッピングモールの雑踏の中、私と志摩一未は楽しげに洋服を選んでいた。
「これは?」
志摩が手に取ったのは、少し派手目のシャツ。
「んー…似合うとは思うんだけど…藍くんの服とは合わないよね。」
私は首を傾げ、色やデザインの相性を考える。
「そんな考えるか?あいつに似合えばいいだろ。」
志摩が笑いながら言う。
「そう?でもどうせなら服にも藍くんにも似合うのがいいよね。」
その会話を、ちょうど後ろで立ちすくむ誰かが聞いてしまった。
伊吹藍――私が今日、友達と予定があるからと断った相手だ。
誘いを断ったのにも関わらず、志摩と二人でいることにイラッとして理由を問い詰めようと後ろから近づいた伊吹は、私たちの何気ないやり取りから、自分の誕生日プレゼントを選んでくれていることに気づいてしまった。
一瞬、尊さに押し潰されるように、その場に蹲る伊吹。
「会計してくる。」
私はレジに向かおうとした瞬間、後ろを振り返る。
――いるはずのない伊吹が、うずくまっていた。
「うわっ!!」
私の声に、志摩も思わず振り返る。
「なに?…うおっ!なんでいるんだよ!」
言葉もなく、伊吹は私を強く抱きしめた。
その温もりは、言葉以上に心を揺さぶるもので――ただ無言で、私たちの存在を確かめるかのように。
志摩も気まづそうに軽く頭を掻きながら2人を眺める。
その瞬間、時間が少しだけ止まった気がした。
雑踏の中でも、世界は三人だけのものになったみたいで――。