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ー 教卓と床 ー
4月。桜野高校。
入学、新学期、全ての心機一転のこの時から、何かが大きく変わっていたのだろう。
教室の窓からは、ぼんやりとした春の光が差し込んでいた。
「え…やば…。うちのクラス神谷くんいるじゃん!?」
「え、モデルの!?ばかかっこいいやん…
顔整いすぎだろ…。」
教室内一体の全ての視線を奪ってしまう。
神谷湊。そして女子たちは彼を囲んだ。
整った顔立ちに長い脚、ごく一般的なブレザーを着ているだけなのに、まるで雑誌の表紙を眺めている気にさえさせてしまう。
微笑めば周りが息をするのを忘れてしまって、窒息死してしまうほどに見とれてしまう。
そんな彼が2年A組の教室の真ん中。クラスの中心。教室内の人集りの中心に座っていた。
気だるそうにスマホを眺めながら。
時折、1年生が湊をひと目拝もうと教室に押しかけ騒いでいた。
「神谷湊先輩だ…美しすぎる。」
「やっべぇ…あたしもう死んでもいい…。」
その度に湊は笑顔を向ける。
見定める様にひとりひとりの顔に目を通しながら、終わるとすぐだるそうな顔に戻り、冷血さがにじみでる。
(うっせぇクソアマどもが…。)
誰も湊のタイプではなかったのだろうか。
その周辺にいたみんなに少し寒気と緊張が走った。1年生は自身の教室に帰っていき、クラスの港の取り巻き女子1人が話し出した。
「ねえね、聞いた笑?笹原あやねって子〜、同じクラスらしいよ笑」
「えっ、まじ?あの子前いじめられてたっていうじゃん?笑」
「なんかさ、ぞうきん頭当たったくらいで泣いたらしいじゃん笑めっちゃ根暗そうだったし、まじ空気読めない系?冷めるわ〜。笑」
「それな?てかぞうきんわざとだろ笑」
「うわまじ最悪〜あのレベルのブス今年も絶対ターゲットじゃん?」
笑いながら囁くその声が、教室の外まで響いていた。
ガッ…
教室のドアから音がした。振り向くと、ずんぐりとした体型、ワイシャツのボタンが苦しそうに浮いていて、スカートも腰周りがきつそうな、髪の毛はボサボサで、下を向いたままの女子生徒が突っ立っていた。どうやら上手く通れずドアにぶつかってしまったようだった。
「あ…笑」
「だっさ笑まじかよ笑」
「うわ来たー、最悪。消えろよ。 」
笹原あやね。その存在が教室のドアをくぐる途端、教室の空気が一気に変わる。彼女はこの瞬間からクラスの異物となされた。
「あー…まじで本物じゃん。」
「絶対今年もいじめられるでしょ笑あの見た目で華やかなJK生活とか絶対無理でしぬ笑」
「ちょっと声おっきいよ笑 」
(華やかなJK生活…か…。)
クスクスと小さく鋭い針のような声があやねに刺さる。あやねは聞こえないふりをして1番後ろの自分の席に素早く座り机に突っ伏した。
自分の席に座るのに必死で何個かの机椅子にぶつかったが、そんな事を気にしてられなかった。
(今年もまたあの1年間だ。何も変わらない。)
自分の席に座り安堵するも、教室にはいる時にドアに衝突し、教室内を歩くだけで周りのものにぶつかってしまう。それを新学期初日からさらけ出したことに羞恥心が込み上げてくる。
机に顔を埋めながら、頭の中でこれからどのようにクラスメイトにいじめられるかを想像していた。
「論外…。 」
その言葉は神谷湊の口からでていた。
誰かに返事したわけでもなく、ただ心の中の声がそのまま口に出たような。
湊は視野の端っこであやねを見ていた。見ていたというより、湊には勝手に視野に入ってくる景色、空間の一部に過ぎなかった。
(うるせぇし、ブスばっかだな。)
(うわぁ神谷くんだ…すごく整った顔、ほんとうにすごいなぁ…。今の私の行動全部見られてたよね、どうしよう、恥ずかしい…。)