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「書類整理だる〜…」
机の上に山積みになっている書類を見ながらため息をつく。こういった作業は昔からずっと苦手だ。つまらなくて気が滅入る。仕事なのだからやいやい言っても仕方ないが。
「ぐちつぼ」
「はい?」
「青鬼に面会」
そう告げる先輩の後ろには、落ち着いた雰囲気を纏う金色がこちらを覗いていた。
「…えっ、きょーさん!?まじもんの!?」
「うおっ、なんやコイツ…グイグイ来るなあ」
「オイサボサン、俺もいるんだケド」
金豚きょーさんの後ろから顔をひょっこりと出したのは学生時代お世話になった恩師、緑色だった。このカタコトな話し方は彼特有だからな。身長が低いためきょーさんに丸々隠れてしまっていたらしい。
「みどりくん!久しぶり!…あ、いや一応公的な場だし緑色様…?」
「キモチワルッ」
「おい」
「コントしてんではよ面会させろ」
2人を面会室に通してから、地下へ向かう。彼は長いまつ毛を伏せ、壁に寄りかかっていた。眠っているのかと思ったが俺が近づくとサファイアが顔を出したため起きていることを確認した。
「面会だ。……」
「え?何その間」
「いや、こういうのって『面会だ、〇〇番』って言うじゃん。お前番号あんの?」
「…一応あるけど、使わないから必要ないんだよね。青鬼で済ませられる」
「ふぅん?まぁいいや、面会だ、出ろ」
「今日は誰が来たのかな〜」
彼の手首に重い手錠をかける。折れそうな細さのこの腕にどれだけの力が隠されているのだろうか。
地上の明るさに目をすぼめる彼を後ろに引き連れて面会室に着いた。
「あっ、きょーさんにみどりくんー!!」
「私語は慎め。ここに座れ」
「はぁい」
「では面会時間は10分とする。念の為会話は録音させてもらう、良いですね?」
「あぁ」
「で、今日はどうしたの?」
「ラダオクンとお話しに来たダケ」
「俺ら今日2人ともオフだったからな」
「あーね?」
普段から彼は笑顔を絶やさないが、今にいたっては本当に嬉しそうだ。貼り付けたような笑顔じゃなく、屈託のない笑顔。それだけこの2人が、運営が大事なのだろう。
ふいに、視線を感じ顔を上げる。すると感情の読み取れない金色と目が合った。すぐに向き直りらっだぁと談笑に戻ったが、敵意でもなく好意でもないあの視線に何やら引っかかる。
「コンちゃんとレウさんは元気?」
「ウン。…マタ、5人で集まりタイ」
「……面会は同時に2人までやからなぁ、お前がここにいなければ会えるんやけど」
「はは。…なに、俺に出て来いって言ってる?」
「!」
「落ち着けぐちつぼ、俺は出るつもりないから」
「お前はこの国になんもしてへんのやぞ。むしろ大貢献しとるんや、それなのにこんな不当な扱い、おかしいと思わんのか?」
「…思わないかな〜。確かに俺は戦争中は英雄だった、でも平和な世界では人殺しだ。役目を終えた俺が反旗を翻す前に処分しようとするのは当然じゃない?」
「それでも……」
ピピ、と持っていたタイマーが音を立てて振動した。きょーさんの意見はもっともで、俺も共感する所がある。でも今は国家の犬、飼い主に噛み付いたが最後どんな風になるのか想像もしたくない。それにらっだぁの言うことだって道理を得てる。英雄の称号に、何人が埋まってきたのだろうか。
「…時間です。お引き取り願います」
そう告げれば、二人は思いのほかすぐに腰を上げた。ロビーまで案内し、見送ったところで緑色が振り向く。
「サボサン、お前はコノ状況をおかしいとは思わないノ?お前ラダオクンのコト大好きだったジャン」
「思ったところでなんですか、俺に囚人を脱走させるような真似をしろと?…そうやって前任者もそそのかしたんですか」
「人聞きが悪いな、俺らは国を勝利に導いた英雄にこんな酷い扱いをするのはおかしいという正しいことを言ってるだけや」
「国がいつでも正しいわけではない。みどりくん、それが口癖でしたよね。それはあの人のことを言ってたんでしょ?まぁ分かりますよその正義は。俺だってあの人に憧れた1人だ。
でも、俺に持ちかけるべきじゃなかったすよ、俺はもう国側の人間なんです。というか、あなた方が王に直談判すればいいじゃないですか」
「オレらがそんなコトも思いつかないと思ってんノカ」
「…あぁ、思ってませんよ。あなたの頭脳なら一瞬で閃いたでしょうね」
殺気を醸し出す2人に負けじと睨み返す。きっと何度も何度も彼の釈放を求めたのだろう。それでも叶うことはなかった。この国にとって最大の危険因子は彼なのだから。俺はこの場で殺すと言われても何もできないだろう、正直今すぐ逃げ出したい。だが脱走の手助けをして国に追われつまらない死に方をするより、この2人に殺される方がよっぽど良いのではないか。
「……みどり、帰るぞ」
「………」
「コイツをこの場で殺ってもなんの意味もない。それに…いや、なんもないわ。行くぞ」
急に振り返り帰路に着くきょーさんの背中を呆然と見ていた。まるで先程までの圧倒的な雰囲気が嘘だったかのように平然としている。緑色は俺を一瞥して、同じく殺気をしまってきょーさんの後を着いて行った。
「……こっっっっわぁっ!!!」
彼らが見えなくなったところで膝から崩れ落ちた。あともう少し長かったら泣いてたぞ、よく耐えた俺。偉いぞ俺。あそこで泣いたらダサすぎる。……あ、そういえばらっだぁ放置してるわ、やべ。
「キョーサン、さっき何を言おうとしたノ?」
隣に並んだ緑色がこちらを上目遣いで覗いてくる。それはよく緑色がらっだぁにしていた仕草だった。何となく頭を帽子の上からくしゃりと撫でた。
「アイツ、なんて言った?名前」
「ぐちつぼのコト…?」
「あぁそう。…ぐちつぼの目が、えらくらっだぁに似てたなぁって」
「………」
緑色は、オレもそう思う、と周りが静かでなければ聞こえないような声で呟いた。まぁだから士官学校であいつを気にかけていたんだろう。
「……どりみー」
「ン?」
「俺唐揚げが食いたい気分やわ」
「!…オレ、レウサンの唐揚げがクイタイ」
「作らせようぜ」
「オー」